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星に願いを込めて、運命の人に出会う旅(後)

自分探しの旅 ☆彡

2日かけて、現地に向かいますが、1日目は電車に4時間ほど乗り、着いた所でビジネスホテルに1泊します。

2日目も電車に3時間ほど乗り、その後バスと徒歩で、現地へと向かいます。集合場所では、夜の7時くらいから満天の星を眺めながらの恋活イベントが行われます。

当日は、全国から男女100人ほどが集まるとホームページには記載されています。これまでに2回開催されており、男女が楽し気に語らう風景やアトラクションが写真で紹介されていました。

スマホでそんなサイトをみながら、< 自分探しの旅かな~ >と、ふとひかるさんは思いました。これまでの人生の中で出会った人々のことをひかるさんは思い浮かべます。

太っちょのテディは日本から来たミラクルガールだってちっこい私をなにかと可愛がってくれた。でも、どう考えてもテディは私のヒコボシ様じゃないな。マリッサは今頃どうしてるだろう。ハンサムボーイのキースに好きだってちゃんと告白しただろうか。高校時代、アメリカで過ごしたひかるさんの楽しかった日々がよみがえります。

帰国子女として、日本に帰ってから大学に入り、天文学部の仲間たちと出会った。ちっこいソバカスガールをみんなが歓迎してくれた。1日中、仲間たちと星の話で盛り上がった楽しい思い出の数々。

ひかるさんはバスから電車に乗り換え、ジュースで口を少し潤したところで、一足先に現地に向かった雅美さんに「どう調子は」とメールしてみました。

10分ほどして、雅美さんから「たまにこういう一人旅もいいかもね。ちょっと感傷的になっちゃうけどいろんなこと考えたよ。お母さんとケンカして家出しそうになったこととか。私はどっちかというと途中下車で食べ歩きの旅だわ。まあ1日余分にあるから、のんびりいくわ。ひかるちゃん、旅の途中でへんな男にひっかからないでね。現地でちゃんとヒコボシ様を見つけるんだからね」と返信メールが来ました。

ひかるさんはそのメールに「私は元気で~す。雅美ちゃんも食べ過ぎて太らないように。なんかあったらまたメールするね」と返しました。

7月6日:思わぬ災難が ☆彡

4時間ほどの電車の旅を終えると、着いた所でひかるさんは、お昼ごはんを食べようと思いました。駅近くの食堂でお腹を満たすと、けだるさが全身に広がったものの、心はふたたび弾みを取り戻しました。

見上げると、空は光沢のある青色でひかるさんの一人旅を祝福してくれているかのようです。駅前の公園のベンチに座り、少し休憩をとろうと思いました。どんな人達が集まってくるんだろう。理想の彼氏にめぐりあえるかしら。

そんなことをぼんやりと考えていると、睡魔が急に襲ってきました。10分ほどベンチでうとうとしていたでしょうか。周囲で遊ぶ子供たちの声のざわめきに、ひかるさんはハッとめざめると、ベンチから立ち上がりました。

と、その時、わき腹のあたりに鈍い刺すような痛みを感じました。長時間の電車の旅で、腰にきたのかも知れません。早くホテルに行って横になろうと思いました。

お腹のあたりに鈍痛を感じながら、ひかるさんは、10分ほど先にある予約していたビジネスホテルへと足早に歩きました。

ホテルにチェックインして部屋に入ると、お腹のあたりに違和感を覚えながら、服も着替えずそのまま横になりました。< 明日は大事なイベント、ともかく体を休めなきゃ >遠のく意識の中で、日本中から集まった若者たちのざわめきが聞こえてきたような気がしました。

夜中の2時くらいでしょうか。あまりのお腹の痛みに、ひかるさんは目が覚めてしました。汗びっしょりで、頭もクラクラして、トイレに行くのも一苦労です。< もしかしたら、お昼に食べた物があたったのかもしれない >思い当たるのはそのあたりです。

リュックから、スマホを取り出し、雅美さんからのメールをチェックしてみました。

「ひかるちゃん、どうしたの、何かあった。電話しようかと思ったんだけど」と雅美さんからの同じようなメールが数本届いていました。

「ちょっと、お腹をこわしたみたい。でも、大丈夫、明日のイベントには間に合うと思うから」

そう書いて返信はしたものの、まだ刺すようなお腹の痛みは続いています。頭もフラついています。

すると5分も経たないうちに雅美さんから今度は電話がかかってきました。

「ひかるちゃん、だいじょうぶ、お腹こわしたの」心配げに雅美さんが聞いてきました。

「うん、ちょっとね。お昼のごはんがあたったかも」

「無理しないでね。明日の6時に集合だけど。それまでに、なんとか治るといいね」

「たぶん、大丈夫だと思う」ひかるさんは、気丈に答えました。

7月7日:はたしてヒコボシ様は ☆彡

真夜中の雅美さんとの電話のやり取りで眠りが浅くなったようです。

ひかるさんは、チェックアウトぎりぎりまでベッドに横たわっていました。頭の痛みはなんとか引いたようですが、お腹の痛みはまだ少し残っています。食欲も当然ありません。

< 最悪な旅になってしまった。何か悪いことでも起きなければいいけど >そんなことがふと頭をよぎりました。まだ何かこの後起こりそうな予感がしました。

ひかるさんはホテルのチェクアウトを済ませると、電車の時刻を気にしながら駅に急いで向かいました。電車に3時間ほど乗り、そこからしばらく徒歩が続き、バスに乗り、そしてまた徒歩で現地へ、という行程です。

たかが、恋活イベントになんでこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろう。来なきゃよかった。何度も、そんなことが頭をかすめます。といっても、ここまで来たからには、もう後に引き返すこともできません。

お腹のクスリを飲んだこともあってか、少し腹痛も引いたような気がしました。ひかるさんは雅美さんからのメールを確認してみました。

すると、雅美さんから「現地に着いたよ。空気が澄んでて、とてもいいとこ。きっとキレイなお星様だよ」とメールがきていました。「そうだね、楽しみだね。私ももうすぐだから」とひかるさんもメールを返します。

電車は山間をぬうようにして斜面を登っています。3時間の電車の旅を終え、駅に降り立ったひかるさんは、辺り一面の光景に驚きました。日の光を浴びた緑のキャベツ畑が目の前に広がっています。

駅の回りには数件の民家があるだけで、広く、まだ舗装されていない道が遠く一直線に伸びています。いつかどこかでみたような風景です。なんだろう、これ。とても不思議な感覚でした。歩きながら、ひかるさんは、ふと思いました。

< 天の川、これひょっとしてそうなの >天体望遠鏡でいつも見ていた夜空に広がる天の川が地面に投影されているような、そんな感じがしました。ゆっくり大地を踏みしめるようにひかるさんはキャリーケースをゴロゴロさせながら歩を進めました。

まだ、お腹が本調子ではありません。日の照射も強く、ときおりめまいを覚えます。ミネラルウォーターを一口飲んで渇きを潤し、ここが最後の難関だと、歯をくいしばります。

なんのためにこんなことやってるんだろう、と後悔の念が湧いてきます。遊び半分のつもりだったのに、こんな苦痛を味わう旅になるとは、想像もしていなかったことでした。

< この広い天の川を渡ったその先に・・・ >そんなことを思いながら歩いていた時、ひかるさんは急に辺りの風景が大きくゆがむのを感じました。目の前が真っ暗になり体から力が抜けていきました。ひかるさんは、その場にへたり込み、そのまま意識を失ってしまいました。



ひかるさんは、小さい頃、お父さんやお母さんと遊んでいる夢を見ていました。お父さんと一緒に天体望遠鏡を見ながら、星を見ています。ひかるちゃん、起きなさい。学校に遅れるわよ。お母さんの声が遠くで聞こえたような気がしました。その声で、ひかるさんは意識を取り戻しました。

目覚めると、回りは白一色の世界です。何か薬品の臭いが鼻につきます。< 病院、なぜ、私はこんなところにいるの >ベッドの上でスマホやキャーリーバックはどこ、と目を這わせます。

と、その時、ドアを開け、顔をのぞかせた青年がいました。農場で働いているような作業着を着たひかるさんと同じくらいの年の若者です。

若者は、ひかるさんのスマホを手にしていました。

「すみません。お友達から電話があって、まだ安静にしていたほうがいいっていっておきました」そういいながら若者はひかるさんにスマホを手渡しました。

スマホを見ると、ちょうど7時をさしています。恋活イベントの始まる時刻です。

「道端であなたが倒れていて、それで救急車を呼んでここまで運んでもらいました」

ひかるさんは若者の言葉より、恋活イベントのほうに頭がいっていました。

「あ、そうなんですか。ありがとうございました」

< ここまで苦労したのは何のためだったの。イベントに参加できなかったなんて >ひかるさんは、若者に頭を下げてお礼をいったものの、何か釈然としない思いで、胸がさけそうでした。

若者は素朴な感じで、印象はそう悪くはありません。ひかるさんは、スマホで雅美さんに電話しようと思いましたが、会場内ではたぶんケータイの電源を切るように促されているはず、ということに気がつきました。

がっくりうなだれていると、

「あの、どうかなさいましたか」と若者が聞いてきました。

「いえ、あの、ほんとにすみませんでした。ありがとうございました」ひかるさんはそう答えるのが精いっぱいでした。

ふと、ひかるさんが窓に目をやると、病院の中庭に、暗がりの中、人々が小さな明かりを灯して集まっているのが見えました。

「あの方たちはなにをされているんですか」

「ええ、今日は七夕ですから。みなさんで星空を眺めていらっしゃるようです。体の具合がよければ一緒に見にいきませんか」

ひかるさんは、若者の言葉に軽くうなずき、外へ出てみました。中庭では、小さなテーブルが数客置かれ、患者さんたちが星々を眺めていました。

なんとなくこれも、いつかどこかで見たような風景です。そういえば、お父さんとお母さんが知り合ったのも病院だとかいってた。ひかるさんはおばあちゃんがそんなことをいっていたのを思い出しました。

ひかるさんのお父さんとお母さんは、ひかるさんがアメリカの高校に留学していた時に飛行機事故で亡くなりました。二人でひかるさんのいるネバダ州の高校へ向う途中、飛行機が乱気流にのみ込まれ、墜落したのです。

お父さんは有名な建築家で、お母さんも少しは名を知られた陶芸家でした。二人は、病院で診察を受けていた時に親しくなって結婚したと、おばあちゃんから聞かされていました。

ひかるさんも自身の名前の由来を聞いて知っていました。お父さんがどうしても「きらら」にしたかったと。とても奇想天外な名前ですが、奇抜な発想をするお父さんならいかにも考えそうな名前です。

今頃、二人は、ヒコボシとオリヒメとなって再会してるんだろうな。ひかるさんは夜空に広がる天の川をうっとりと見入りました。

そういえば、若者の面影がどこかお父さんに似ている。そんなふうにひかるさんは思いました。

スマホをみると、雅美さんからのメールが届いていました。

「だいじょうぶ。ひかるちゃん。残念だったね。イベント主催者からの言葉を送るね」



日本中から一人旅をしながらお集りいただきありがとうございました。みなさんの心のヒコボシやオリヒメと出会うことができましたでしょうか。

もし、今日、出会えなかったとしても、もしかしたら過去にあなたが出会った人が、そうだったかも知れません。そのための、人生を振り返る一人旅でもありました。

そして、今もしかしたらあなたのすぐ傍に、ヒコボシやオリヒメがいるかもしれません。どうか、そのことに気づいてください。


星に願いを込めて(完)



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