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1. ダ・ツ・モ・ウ なんかしなくていい

高3の夏、由加は脱毛にうんざりしていた。

もう、し・な・く・て・い・い。

結局、いくら剃ってもおんなじじゃん。

気のせいか、剃るたびに濃くなっているようにも感じるし。

         ☆☆☆

「お前、毛が生えてんじゃね」

中学時代、由加は同級生の男の子たちから体毛のことでよくからかわれた。

確かに、周りの女の子たちと明らかに毛の濃さが違う。

中学2年の時にそのことに気がついた。

とくに膝からくるぶしにかけて目立つ。

鼻の下もうっすらとしたうぶ毛がもやのようにかかっている。

多感な時期だから、一度気になりだすと、きりがない。

際限なく悩みは膨らんでいく。

みんな私のことを毛深い子って思ってるのかな・・・

そのうち、由加は学校に行くのが嫌になっていった。


学校ではうつむいていることが多くなった。

男の子たちからは、覗き込むように見られる。

毛深いって、同性にまで陰口をいわれているような気がする。

次第に、そんな妄想にとらわれていった。

学校で男の子たちにからかわれていた時、いつもかばってくれたのがクラス委員のA君だった。

「必要だからみんな生えるんだよ」そういって助けてくれた。


学校でたったひとりの味方。嬉しかった。そのうち、A君のことが気になっていった。

次第に、由加はA君に惹かれていった。

A君のことが好き・・・それだけが、由加が学校へ行く唯一の目的となった。

でも、A君にも毛深い女の子と思われているのかな・・・そう思うととても悲しかった。

         ☆☆☆

高校ではテニス部に入った。とりたててテニスに興味があったわけではない。

日焼けして真っ黒になれば体毛がごまかせるかもしれない。

そんな単純な思いつきで野外での部活を選んだにすぎない。


毎日、風呂場でムダ毛を入念にチェックした。

ほんのわずかなうぶ毛さえも、カミソリや軽石で忌まわしいもののように削ぎ落とした。

当然、大学生になっても自己流のムダ毛処理は続いた。

最初は、週に1回の処理で済んでいた。それが、週に2回と、次第に回数が増えていった。

肌は赤く腫れ、荒れていく。そのたびに切なくなった。

いくら剃っても剃っても毛は生えてくる。

この先も永遠に続く体毛との戦い。


「必要だからみんな生えるんだよ」。中学の時、A君はそういってなぐさめてくれた。

でも、こんなもの、私には必要ない。

剃れば剃るほど反発して、生命力を吹き返すかのように猛然と毛は生えてくる。

この旺盛な生命力はどっからくるんだろ。

私が若いから、じゃあ、年をとれば、体とともに毛の成長力も衰えるっていうの。

確かに、毛は人体に不要なものじゃない、おそらく必要だから後から後からしつこく生えてくるんだろう。

         ☆☆☆

「由加ちゃんて、案外、毛深いんだね」

って、だからそれって、セクハラでしょ。中学生ならいざしらず、この年で、バイト先の50代の店長に体中をジロジロ見られながら、毛深って、一番気にしていることを言われた日には、ほんと、セクハラオヤジだって世界中にTweetしたくもなる。

大学2年の夏、由加はバイト休憩のほんの少しの時間、海辺に近いカフェでアイスコーヒーを飲みながら憤慨していた。

今度いわれたら、店長の薄くなった後頭部を指差して、そこはあの、自然脱毛ですか、どうしたらそんなふうになるんですかって、少しイジワルだけどいってやろうかと思った。| `Д´|ノ

できれば、中学時代、毛が濃いといって自分をイジメた男の子たちにもいつかそういって仕返ししてやりたい。

でも、好きだったA君もいつか、あんなふうになるのかな・・・そう思うと少しばかり切なくなる。

毛を抜きたがる女と喉から手が出るほど毛を欲しがる男。

全く、女も男も、人生、悩みが尽きない。


窓から、若いカップルが手をとりあって海辺を歩いているのが見える。

A君とあんなふうに手をつないで歩けたらどんなにステキだろう。

ヒゲが生えているとからかわれた中学2年生の夏休み、泣きながら風呂場でムダ毛を剃ってた。

いつかキレイな肌になって、水着で、A君と海辺を一緒に歩けたら、いつもそんなことばかり想像していたっけ。

         ☆☆☆

達哉君にはどこかA君の面影があった。

というより、まるで10年後に再会したA君その人のようだった。

達哉君は由加と同じ大学の同級生で親友の圭子の彼氏だ。

圭子に初めて達哉を紹介された時、冗談でしょ、なぜここにA君がと由加はおもわず声を発しそうになった。

空を見上げる時、まぶしげに片目を閉じる、そんなしぐさまでA君にそっくりだった。


毛深い女なんてやだよな。

いつだったか、そんなことを達哉君が言っていたと由加は圭子から聞かされたことがある。

もちろん、その言葉は圭子に対して発せられたものではない。

達哉君は3カ月ほどアメリカに語学留学をしていて、そこで出会った女の子たちのことを話していた。


圭子は、由加とはまるで違う、色白のキメの細かい肌質で、うぶ毛が少しあったが、ほとんど目立たなかった。

でも、それが脱毛の施術の成果であることを由加は圭子から聞いて知っていた。

         ☆☆☆

達哉君の言葉に、一番ショックを受けたのは、由加だった。

まるでA君から本心を打ち明けられたような気分だった。

もしかしたら、A君も本当はそうだったのかな・・・やっぱり私のことをそんなふうに思っていたの。


夏休み、達哉君と石垣島へ2泊3日の旅行をすると圭子から聞いた。

そのために圭子はエステに通ってムダ毛の処理を入念に行ったらしい。

石垣島での詳細なプランを圭子は携帯で楽しげによく話した。

「水着になるんだから、ビキニラインの処理も当然よね」

「そんなとこ恥ずかしくないの」由加が聞くと、ぜ~んぜん、とあっけらかんに圭子は答えた。

「それもこれも、愛する達哉君のため」圭子は平然としていた。

         ☆☆☆

強い日差しが窓から差し込んできて、一瞬めまいを覚えた。

店内にはジブリの映画のテーマ曲が流れていた。ユーミンの「ひこうき雲」。

由加はぼんやり窓の外に広がる青い空と海を眺めた。


白い大きな雲が目の前に浮かんでいた。

海面には小さな三角形の光がキラキラと飛びはねている。


今頃、達哉君と圭子は石垣の海か~。

由加はアイスコーヒーを飲み干しながら、同じ太陽の下で戯れている2人の姿を思い浮かべた。


夏が嫌だった。海が怖かった・・・

いつしか由加の頭の中で、達哉君がA君に、圭子が由加に入れ替わっていた。

白くまばゆい光。どこまでも澄み渡った南国の海。

そこにいるのはA君と由加だけ。二人で手をとりあって砂浜を歩いている。

踏みしめる砂が足に心地良い。ときおり優しい風が頬を撫でて過ぎていく。


ずっと好きだった・・・

でも、そんなこと、とてもいえなかった。

男の子みたいに、毛深いから。

そんな子を、A君が好きになるはずがない。

そう、思ってた。

だから、いつも遠くで、A君を見ているだけ。

海を眺めながら、いつも想像ばかり。


でも、キレイになって、いつかきっと会いにいくんだ。




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