米国・代替医療への道 2001

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遺伝子組み換え食品、「栄養強化」「抗体ドラック」など開発進む
このところ、すっかり消費者からそっぽを向かれてしまった感のある遺伝子組 み換え食品。今や「使用せず」と銘打つことが、小売店や食品メーカーの売り 上げを伸ばす戦略になっているほどだ。遺伝子を操作したことから「フランケ ンフード」とも呼ばれ、環境や人体に悪影響を及ぼすのではと悪いイメージばか りが先行している。こうした風潮に対し、開発企業はこれまでの生産者の側から 消費者の利点へとシフトし、遺伝子組み換えによる「栄養強化」、さらには 「抗体ドラック」の開発まで試み、現状を打破しようとしている。遺伝子組 み換え食品の最新状況を報告する。

  ビタミンAリッチな遺伝子組み換え米、1990年代後半から開発進める

遺伝子組み換え食品のターニングポイントになればと、業界の期待を一身に背 負って登場したのが「ゴールデンライス」だ。スイセンの遺伝子を組み込むこ とにより、体内でビタミンAに変換されるベーターカロチンを産出するように 遺伝子を組み換えた米で、開発途上国におけるビタミンA欠乏症を解決する切り 札として熱い視線が注がれている。

現在、ビタミンA不足で年間200万人もの子供たちが命を落とし、50万人が失明 しているという。ビタミンAの豊富なゴールデンライスは多くの子供たちの命を 救うことができる―そんなポジティブPRで、遺伝子組み換え食品の受け入れ 土壌を作ろうと業界関係者は必死だ。

ゴールデンライスは、スイス連邦技術協会のポトリクス教授、ドイツのフライ バーグ大学のベイヤー博士などが、ロックフェラー財団などの支援を受けて 1990年代後半から開発を進めてきたもので、米がベーターカロチンにより黄金 色を帯びていることから、「ゴールデンライス」と命名された。実用化には あと5年から10年はかかるものと予想されている。

「ゴールデンライス」の有用性に疑問視、バッシングは必至

ここ数年、ますます活発になっていく遺伝子組み換え食品バッシングの矛先は 当然、ゴールデンライスにも向けられている。作物の遺伝子操作に反対 する環境団体は「ゴールデンライスはバイオテクノロジーのイメージを改善 しようというPR戦略に過ぎない」と批判。また、有用性そのものについて疑問 視する声もあがっている。

ニューヨーク大学の栄養・食品研究所のマリオン・ネッスル所長は、米国栄養 学協会の機関紙に宛てた書簡の中で、「ゴールデンライスに含まれたベターカ ロチンは非常に量が少ないことから、ビタミンA欠乏症の改善にはならない」と 指摘。また、米にはビタミンAの吸収に必要な脂肪分や鉄分があまり含まれてお らず、タンパク質も十分とはいえないため、コメだけで必要な栄養分は補いき れない、とも指摘している。

こういったゴールデンライスをめぐる論争は、遺伝子組み換えの是非という大 きな問題を背景に今後ますます拍車がかかりそうだ。

新たな論議を呼びそうな「molecular farming(分子農業)」

そして最近、話題になっているのが「molecular farming」。耳慣れない言葉 だが、直訳すると「分子農業」とでも訳せばいいのだろうか。人間の遺伝子を 作物に組み込んで、病気を撃退するプロテインを畑で作ってしまおうという 画期的な試みだ。

できあがった組み換え作物から抽出したプロテインで医薬品を作れば、ラボで 培養するよりはるかに安上がりだという。ちなみに、病気への抗体を作る薬の 開発には1億ドルから5億ドルかかる。それを畑で栽培すれば5000万ドル 程度ですむというから、メリットは大きい。

抗体ドラックの昨年の売り上げは20億ドル、2004年には80億ドルが 予想されるドル箱市場なだけに、バイオテクノロジー業界としては「分子農業」 をひっさげて割り込みたいところ。技術的にはまだまだ初歩の段階だが、画期 的な試みとして注目度は高い。

避妊、がん予防など目的とした遺伝子組み換え作物を開発中

この他、現在、開発が進んでいるものをいつくか紹介しよう。 Epicyte pharmaceuticals社は、一部の女性にみられる欠陥遺伝子をトウモ ロコシに組み込んで精子を殺す働きのあるプロテインを作る作物を栽培し、 避妊薬を作ろうとしている。

Large Scale Biology社は、操作した人間の 遺伝子をタバコに組み込んで、ガンと闘う抗体を作ろうと研究中。すでにケン タッキー州の農地27エーカーで栽培している。やがて「ガン予防タバコ」 なる商品が店頭に並ぶ日がくるのかもしれない。

これらの商品は、安全性と効果面で食品・医薬品局(FDA)を納得させたうえ、 農務省(USDA)に対しても、薬用に使われる遺伝子組換え作物が食用作物を 汚染しないことを立証しなくてはいけない。

というわけで実用化までには、まだまだ時間がかかりそうだが、早くも是非をめぐり議論が白熱している。 支持派の絶賛する「コストダウン」に対し、反対派は通常の遺伝子組み換え 食品と同様に「人体への影響はもとより環境破壊の恐れがあり、実用化した 際の結果がまったく見えていない」と強く反発している。

今のところ、「分子農業」に関する明確なガイドラインはないが、屋外で栽培 する場合は、食用作物の畑とは全く違うところで栽培することを条件とした USDAの栽培許可が必要である。

ウィルスから身を守る「ワクチン」の働きをする作物も

またウィスコンシン大学では、園芸家のアーウィン・ゴールドマン氏が、たまね ぎとガーリックから脳卒中や心臓発作の発生率を下げるといわれる抗血栓物質 を取り出し、その含有量を補強した球根の開発を進めている他、種子や農薬を 作っているアメリカのメーカー、モンサント社はフライにする時に油を吸収し にくいじゃがいも作りに力を入れている。

さらに、「食べられるワクチン」作りを目指すのはコーネル大学のチャールス・ アーンツゼン博士ら。B型肝炎ウィルスから取り出したプロテインをじゃがい もに組み込んで、ウィルスから身を守るワクチンの働きをする作物を作ろうと いうもの。博士らは、コレラを予防するバナナやトマト作りにも着手している という。

消費者メリット考え開発も、世論調査では冷たい反応

遺伝子組み換え食品といえば、これまで「除草剤をかけても枯れにくい」とか、 「害虫に強い」など農業生産者の利点にかたよった開発が主流だった。加えて、 消費者の理解を得ようという努力なしで早急に製品を市場に出したため、誤解 を招き、技術に対する反動を招くような失敗を犯した。

そこで、近年は、消費者にとってのプラス面を強調した商品開発に軌道が修正 された。しかしながら、世論調査からははっきりいって「効果なし」の印象が 伝わってくる。

全米で大人を対象に今年6月、ABCNews.comが実施した世論調査によると、 52%が「遺伝子組み換え食品は危険」と答えたのに対し、「食べても安全だ と思う」はわずか35%で、92%が「ラベル表示を義務づけるべき」と回答 した。前年のギャロップ世論調査では、「食べても安全だと思う」は51%だ った。

規制強化を望む消費者に応え、FDAは規制を改正。しかし、「業者は商品発売 前の120日前にその旨をFDAに報告し、商品の安全性を裏付ける情報を提供す る義務がある」という内容にとどまり、ラベル表示は義務付けなかったことか ら、「消費者には自分が何を食べているのか知る権利がある」と、不満の声が あがっている。

遺伝子組み換え魚、「フランケンフィッシュ」までも登場

遺伝子組み換え食品を「フランケンフード」とは言い得て妙だが、「フランケ ンフィッシュ」なるものも登場している。成長ホルモンを操作した遺伝子組み 換えで天然ものの3-4倍の大きさになる早熟サーモンが登場し、物議をかも している。

国際環境保護団体「グリーンピース」は今年3月、カナダにあるアメリカの会社 「A/Fプロテイン」の研究施設で、建物の屋根に、「Stop Genetically Engineered Fish」と大きく書いた6000スクエアーフィートの垂れ幕をか ぶせた。世界ではじめて、遺伝子組み換えサーモンの開発を手がけた施設だ。

マサチューセッツ州に本社を置く同社は、FDAに「フランケンサーモン」の販売 許可を申請中で、垂れ幕騒動はこれを阻止するための運動だった。「後になって 遺伝子組み換えサーモンは問題ありなんてことになり、海からフランケンフィ ッシュを回収しようといっても無理な話」と反対派は声を大にする。

養殖した遺伝子組み換え魚を自然界に放すにあたり、今のところ規制はない。 養殖場の魚が自然界に逃げ出すのはよくあることで、メイン州のある養殖場は 今年2月に、これまで養殖した10万匹が脱走したことを明らかにしている。

つまり、遺伝子組み換えサーモンの脱走もありえるということだ。しかも、 遺伝子をいじったサーモンを食べた際の人体への影響を調べた研究報告は未だ ひとつも公開されていない。