米国・代替医療への道 2001
増加する若年性アルツハイマー / ホメオパシー療法の最新研究 / 遺伝子組み換え、栄養強化など開発 / 一般食品の機能性食品化に拍車 / ネットビジネス、監視体制強化 / アロマセラピー市場、成長株に / 急伸するオーガニック市場 / 「代替医療」への抵抗勢力 / サプリメント、虚偽広告規制へ / コンプレックス商品、好調な売上げ / 米国代替医療~①ハーブ・サプリ編 / アンチエイジング市場に活路 / ビタミンEなど、有効性が論議の的に / サプリメント、妊娠中摂取の問題点 / 拡大するオーガニック市場 / ビタミンなど1日の標準推薦量報告 / 「ニューエイジ・ドリンク」がブームビタミン、ハーブなどの米国健康・栄養食品市場は、1994年Dietary Supplement Health and Education Act(DSHEA:健康補助食品教育法)の施行以来 急成長を遂げ、年間売上150億ドルを計上、アメリカ人の1億人以上が何らかの栄養 補助食品を利用するという巨大市場へと成長した。この間、風邪の症状を抑えるエキ ナセアや鬱症状を緩和するセントジョンズ・ワートなど数々のヒット製品も生れた。だが、 ヨーロッパやアジアなどでは千年もの使用を誇るハーブもアメリカでは歴史が浅いせ いか、安全性や有効性に関する疑問の声や否定的な研究報告がここにきて公になっ ている。米国でハーブやサプリメントによる代替療法(西洋医療以外の医療)の利用者 が増えていることもあり、専門家の有効性を問う、検証の目はさらに厳しさを増している。 今回、有効性が論議の的になっているハーブ、サプリメントを幾つか紹介する。
医薬品との相互作用が問題視されたセント・ジョンズ・ワートのその後
昨年2月、米国で圧倒的な人気を誇る天然の抗鬱ハーブ、セント・ジョンズ・ワート (以下略:SJW)に抗HIV薬や免疫抑制薬などの効果を阻害する作用があると、 Lancet誌などが取り上げ、マーケットに影がさした。さらに、その効果をも疑問視 する報告が追い討ちをかけ、有効性についての再検証を求める声が高まった。
一方、日本の厚生省も、5月に入って、SJWを含有する製品を摂取することにより、 インジナビル(抗HIV薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオ フィリン(気管支拡張薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)、経口避妊薬の効果が減少 することが報告されている」と警告。医薬品を服用する際にはSJW含有食品の摂取 を控えるなどの注意を表示するよう促した。
重度の鬱症状の改善効果は不明
その後、SJWの抗鬱効果についての研究がさらに進められた。つい最近 行われた研究発表では、「重度の鬱症状の改善効果は不明」という結論が出された。 ただし、この研究内容は、鬱症状の重症患者を対象にしたものであり、 軽度および中度の鬱症状の改善効果を否定するものではない。
詳細は、Journal Of The American Medical Association'01/4・18日号に掲載さ れている。研究には、アメリカ国内11のメディカルセンターが関わっており、重い鬱症 状が平均2年間継続している患者200人に対しSJWを与えた。
患者には無作為に1回300mg1錠か偽薬を1日3回与え、8週間の研究の中4週間 までに症状の変化が現われない場合、量を1日4錠に増やした。SJWを与えたのは80 人で、87人には偽薬を渡した。その結果、SJWグループの32.9%、偽薬グループの 20.7%に少なくとも50%の症状回復が見られたという。
これに対し、大した差はないと専門家は結論付けた。さらに、これまでに発表さ れたSJWに関する研究23件を分析したところ、今までの研究は「研究のやり方自体に 問題がある」と指摘。
例えば、試験が小規模、観察期間が短い、鬱症状の計測方 法が標準のものではない、患者の症状の診断法に見誤りがある、偽薬対照検査を行 っていない、適切な量を使用していない、試験薬や偽薬を与えた者を明かしているこ とから偽薬効果が考えられる――など。
ただし、一方で軽度から中度の鬱症状を示す患者を対象にした研究では有効性を示 す結果が多く出ており、今回の研究のように対象が重症患者だけで「有効性がない」 とするのは性急すぎるという声もあり、今後、米国立衛生研究所(NIH)の支援 のもと、重症の鬱病患者を対象にした研究は継続することになった。
Eの心臓疾患への改善効果を疑問視する声
また、ビタミンEの心臓病への有効性に関する研究は数多くあり、これまで肯定的な 研究報告が出ていたが、ここにきてその有効性は本物なのかと、疑問をさしはさむ声 が挙がっている。
以前、Lancet誌に掲載された研究では、アスピリンとEとの有効性の比較を報告して いるが、男女5千人にアスピリン、もしくはビタミンEを与え心臓発作またはそれによる 死亡の危険性を調べたところ、3~6ケ月後にアスピリンに有効性が見られたがビタミ ンEでは見られなかったという。
また、今年に入って、ビタミンEは心臓病の症状を改善しないという研究報告が American Journal of Clinical Nutrition誌'01/2月号にも掲載された。 カナダの研究グループが、患者56人にビタミンEを1日500IUあるいは偽薬を与え、心臓 が機能する状態や病気の進行状況を見るための指標となる物質濃度を測定したところ、 ビタミンEグループは、偽薬グループに比べ心臓機能の改善は期待できなかったという。 他にもある--。
New England Journal of Medicine誌'00-1月号に掲載された研究報告では、心血管系 疾患に罹る危険性の高いと思われる患者4千700人に1日400IUのビタミンEを投与し、 また、同じように危険性の高い対照グループには偽薬を与えたところ4年半の研究で、 心臓病や卒中が発生した割合はどちらのグループも殆ど同じだったという。
また、'99年にLancet誌に発表されたイタリアの研究報告では、ビタミンE300IUと偽薬を 心臓発作の経験のある患者1万1千人に与えているが、心血管系疾患による死亡がビ タミンEグループでは減少を示したが、2回目の心臓発作発生率はビタミンEグループ のほうが高くなったという結果も出ている。
一方で、Eの心疾患への有効説を支持する研究報告も
こうしたEの心臓病へのネガティブ報告に対し、一方で、これらの結果には検討の余地 があると見る専門家もいる。Eの有効性を見るとき、服用量、さらに通常被験者がどのよう なタイプの脂肪を日ごろ摂取しているかまで調査する必要があると指摘する。
これら再検証が必要とされる点も多くあり、Eの心臓病への有効性については、今しばらく 推移を見守るしかないといった模様だ。
一方、今年に入って、有効説を支持する研究報告も出ている。今年2月、 Annual Conference on Cardiovascular Disease Epidemiology and Prevention会合で ビタミンEを多量に摂取すると、動脈硬化を防ぎ、心臓発作や卒中が期待できるといっ た報告が発表されている。
南カリフォルニア大学の研究グループが行ったもので、573人の男女にビタミンEを1日 300mg以上与え(中には1000mg与えた者もいた)、被験者の動脈の厚さを超音波で 測ったところ、Eを最も多く摂ったグループには、動脈の硬化がみられなかったという。
中国ハーブ原料から、毒性成分が検出
また、ハーブ、サプリメントの有効性への疑問ばかりでなく、原料に毒性のある成分が 指摘され、使用中止の警告が発せられている。中国ハーブ原料に腎臓障害を起こす 恐れがあるアリストロキン(Aristolochic Acid)が含まれているとして、米食品医薬品局 (FDA)は3月初め、同成分を配合する製品の使用を即刻やめるよう消費者に呼びかけ た。
同成分は現在、ダイエット製品などに配合されているが、昨年英国で同成分を含む製 品を使用後、腎臓の機能障害を起こした事例が2件報告された。それより以前に報告 されたものもある。1990年代の初頭、ベルギーでもアリストロキンを含むサプリメント 使用が関連して、腎臓機能不全が100件以上発生した。
アメリカ国内では、腎臓疾患に罹った患者が2人出ており、1名は腎臓移植を受け、もう 1人は移植を待っている状況という。
昨年New England Journal of Medicineは、アリストロキンを使った療法で、尿道がんに 罹った患者の例を掲載している。 ハーブではウマノスズクサ属(Dutchman’s Pipe)や誕生草(シマノスズクサ属/birthwort)、 カナダサイシン(フタバアオイ属/wild ginger)にアリストロキンが含まれているという。
DSHEA(健康補助食品教育法)の改正、FDAへのサプリメント規制強化求める声
このようなダイエタリー・サプリメント(※注1)に関する懸念事項が増す中、DSHEAの改 正を求める声が高まっている。さらに、米厚生省のOffice of Inspector General (OIG)はFDAに対しシステム強化を強く要請している。OIGはダイエタリー・サプリ メントの安全性や規制に関する100ページにわたる報告書をまとめたが、この中でFDA が受け取るサプリメントに関する副作用報告は1%以下であるという事実を強調。現在 のシステムは全く機能していないと追求している。
OIGは報告の中で「ダイエタリー・サプリメントはDSHEAにより市場に出る前の安全性、 有効性の詳細な証明は殆ど必要ない状態で、つまり販売された後の副作用報告システ ムが非常に重要になってくる。現在のFDAは、製品に関する詳細な情報は全く手に入っ ていないといっていい。より強固な副作用報告システムを早急に構築すべき」と主張して いる。また、FDAのサプリメント規制権限を強化することも合わせて求めている。
(※注1)ダイエタリー・サプリメント:栄養補助食品。米国での正式な呼び名。