米国・代替医療への道 2002

米国マスコミの健康関連報道の裏側 / 狂牛病で、代替ミートに熱い視線 / チルドレン向けサプリが順調な伸び / NIH、サプリ研究報告トップ25を公表 / 性機能や更年期対策サプリで活性 / 健康的な「食」の新ガイドライン発表 / 堅調に推移、米国ダイエット産業 / サプリVS医薬品の相互作用② / 中国産ダイエット食品、医薬成分配合 / サプリVS医薬品の相互作用① / 信頼回復の基盤作り進む / 肉から魚へ、進む”魚食”化 / 認知される穀類の有用性 / 「食」が代替医療の中核に / 2002年度「がん現状・統計」報告 / NATURAL PRODUCTS EXPO2002 / 高齢化で、アンチエイジングが好調 / 栄養療法でがんを撲滅できるのか

米国マスコミの健康関連報道の裏側
米国は日本と違い、日々のTV番組や健康雑誌の報道が健康産業の動向に大きく 影響を及ぼすというわけでもない。が、過去にもベータカロチンやセント・ジョ ンズ・ワートなどでもみられるように、権威ある医学雑誌などが取り上げるこ とで、各マスコミも一斉に報道し、市場に影響を与えるということはこれまで にもあった。問題はそうした報道が正確なものであるかどうかということだ が、意外と健康・医療問題の専門知識を備えたライターは少なく、歪められた 報道に至るケースもあるという。今回は米国における健康関連報道の有り様に ついて報告する。

  科学的研究と一般報道の間にギャップ

栄養素などに関する新しい研究報告が毎日のように発表される。こうした研究 は大方、納税者の納めた税金がもととなり、政府の健康政策の基本方針に影響 を与えている。もちろん、それは消費者に直接影響するものである。

だが、消費者は科学誌に報じられた研究報告をいちいち目を通すヒマもなければ、完璧 に理解できる専門知識もない。 そのため、消費者が好んで健康情報を得るのは、 一般紙であり大衆向け雑誌、テレビ番組などからということになる。だが、こ うした媒体が報じる研究報告は完璧なものからは程遠い。そのため、栄養・健康 分野において、科学的研究と公共理解の間には大きなギャップが生じている。

ベータカロチンの肺がん無効説報道に欠落していたもの

5~6年前のこと、サンフランシスコ・クロニクル紙はAP通信の記事に“驚きの 研究結果:ビタミンAは肺がん死亡率を上げる”という華々しい見出しをつけて 掲載した。この研究報告は元々、権威ある科学誌「New England Journal of Medicine」で発表されたもので、体内でビタミンAに転換するベータカロチンを 取り上げたものだった。ベータカロチンは、それまで多くのがんの危険性を低下 させる栄養素として人気があったため、この記事はセンセーショナルなものとな った。

このメディアは、“被験者にベータカロチンをサプリメントで6年投与した”と 報じたが、多くの記事は後で幾分の訂正も含め“研究は、平均36年間喫煙習慣 があるものを対象にし、肺がんは数十年間のうちに進行して、肺がんと診断さ れた被験者はベータカロチンをサプリメント、あるいは食事で摂取しても生存率 が低かった”と伝えた。

記事では、この研究がフィンランドで行われたことを報じたが、フィンランド の典型的な食生活には新鮮な野菜や果物が少なく、脂肪性食品やアルコール摂取 が多いことは記載されていなかった。結果として、読者の多くは最初の報道で、 ベータカロチンのがん予防の作用は誇張されたものだったという考えを抱くに 至った。

メディア側としては、“数十年喫煙習慣のある者はベータカロチンを6年間 摂取しても肺がんを予防できない”という見出しを最初から付けておけばこう した誤解を生むこともなかった。

メディアの後押しを受けて売上を伸ばす「SAMe」

また、超ヒット商品で米国でかなりの売上を誇ったセントジョンズ・ワートも、 ある研究報告がきっかけとなって売上げが失速した。1998年頃、セント・ジョ ンズ・ワートの数製品に品質とその有効性の点で疑問があるといった内容の記事 が、LAタイムズ紙の一面に載った。

その研究報告は同紙が支援した民間研究であり、米国のサプリメント業界は研究 の欠陥を指摘した。そして、その後、それにさらに追い討ちをかける かのように、医学誌「Fertility&Sterility」(1999年3月)も、セント・ ジョンズ・ワートなどのハーブは、精子のDNAを傷つけるという副作用があり 不妊症の危険性を増すと指摘する研究報告が掲載された。また、セント・ジョン ズ・ワートは鬱病でも、重度ではなく軽度から中程度でだけ有効性を発揮すると いう報告を裏付ける研究をNational Institutes of Healthが行った。

一方、サイエンスやメディアの後押しを受けて売上を伸ばしているのが、SAMe。 これは、変性関節炎および、セントジョンズ・ワートと同様、鬱病などに有効性 を発揮するとされている。今までのところ、研究でも概ねそれを支持する結果が 発表されているため、セントジョンズ・ワートをしのぐ勢いを見せている。

一般記事ライターが科学記事を兼務しているケースがほとんど

科学的研究と公共理解との間でギャップを広げているのが、間に立っているメデ ィアだ。研究報告を伝える各誌のライターで専門知識を備えている割合はわずか と言われる。米国内のジャーナリスト養成学校約400校のうち、サイエンスジャ ーナリズム・コースを設置しているのは約20校のみ。科学的知識を持たないライ ターが研究報告の正当性を判断できるわけは無く、殆どが通信記事の借用で済ま している。

さらに悪いことは、読者の興味をやたらに煽る内容に書き変えるか、重要な詳細 部分を削ってしまうというライターも多いというのが現状である。AP通信、ニュ ーヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、ワシントン・ポスト、シカゴ・ トリビューン、サンフランシスコ・クロニクルなどは科学記事専門のライターを 抱えているが、他の殆どは一般記事ライターが科学記事も書いているという。

スポンサーの製品に都合のよい結果を無意識に誘導

研究界も虚飾の部分がある。報告が科学誌のトップに扱われるかどうかで、その 後評判や研究資金に大きな影響を生じることから、メディアへ接近しようとする 研究者は多い。こうしたメディアの関心をひきつけようと競い合うことが研究界 をダメにしていると警鐘を鳴らす専門家も多い。

健康食品として評判が高かったオートブランが、ある研究報告をきっかけにそ の人気が地に落ちたことがある。その内容は“オートブランは低食物繊維の小麦 粉と比べてもコレステロール値低下に有効性はない”というものだった。しかし 発表では“被験者が正常のコレステロール値を示す若いおよび中年女性”という 部分を記載していなかった。それまでの多くの研究が実証したのは、オートブラ ンは高コレステロール症の男性高齢者に対してコレステロール低下の有効性を 発揮するというものだった。

こうしたこともあり、「研究報告を全て鵜呑みにしてはいけない」と忠告する識者 もいる。研究報告を自分のライフスタイルに応用しようと思う場合、必ず報告全体 を通して読む、その報告の資金元はどこか(製品の製造会社がスポンサーの場合、 製品に都合よい結果を無意識にしても誘導する場合がある)、研究報告を書いて いるライター、あるいは研究者などをチェックするようアドバイスしている。