米国・代替医療への道 1997
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農業の機能性を高めるため、また世界の疾病や化学汚染、厳しい環境条件に耐性のある新種を生み出すなどを目的にして開発が進む遺伝子組み換え食品。これまでに開発されているものでは、熟成を抑える遺伝子に組み換えしたトマト、殺虫の細菌性遺伝子組み換えのじゃがいもととうもろこし、化学除草剤への耐性を強める細菌性遺伝子を組み換えた大豆と綿、病気への抵抗力を強化するウィルス性遺伝子を入れたスクワッシュなどがある。
科学、技術者らからは「現代科学の中では最も有益で貴重な発見といえる」との評価を受けるものだが、近年米国内でもその是非を巡って、白熱した議論が展開されている。
議論の柱となるのは安全性。消費者の関心は、「遺伝子組み換え食品は害がないか」の一点だけに集中しているといってもいい。遺伝子組み換えも、消費者にとっては「物質(主に蛋白質)の添加」。異種の蛋白質を別種の細胞に植えつける。ここで最も問題となっているのが、アレルギー誘発物質の移動。消費者は考える。「例えば、魚アレルギーの者が魚の蛋白質を組み込んだトマトを食べると、アレルギー反応を起こすのではないか」と。食品アレルギーは、公衆衛生分野の中でも大きな位置を占める。アレルギー物質を持つ食品には、ミルク、卵、小麦、魚、ナッツ類、豆類などがある。推定で250万から500万人のアメリカ人が、何らかの食品アレルギーを持っているといわれる。その症状は、精神的不安定、皮膚炎といったものから過敏性ショック死に至るまで広範囲。
1996年3月、消費者の懸念を初めて科学的に証明した研究報告が発表された。ネブラスカ大学の研究者らが、ブラジル産ナッツの中にある滋養蛋白質を生成する遺伝子を組み換えた大豆を試験したところ、ナッツ・アレルギーを持つ者にとってかなり過敏な反応を引き起こす蛋白質が大豆の中に生成されていた。家畜用として生産された大豆は、その後製造企業側がその市場販売を断念している。
1992年米食品医薬品局(FDA)は、従来のあるいは最新の品種改良技術によって生産される食品や動物飼料を監督する政策を打ち出した。この政策の下で、生物工学で産出された食品、食品成分(添加物も含む)はその他の食品に適用される法律で規定されている安全基準に準じなければならない。
さらに、生産者は生産物や加工食品を製品として市場で販売する前に、安全チェックと全ての法的規制に照らし合わせた検査を受けることを義務とする。その上で、公衆衛生に有害と判断された生産物、食品を市場から回収する権限がFDAに与えられる。
ただ、この政策で論争を招いている点がある。それは、FDAが一般的に安全が認識されている(GRAS)物質については添加物と見なしていないこと。遺伝子操作で産出された生産物、食品は既存の食品でGRASを受けた物質以外は含んでいないとして、特別検査から除外している。この政府の姿勢は、遺伝子組み替え食品の表示に関する論議でも見られる。
「アレルギー誘発物質有しなければ、特に表示の必要ナシ」が政府の基本姿勢
表示義務を巡る論争は、米国だけでなく世界各国で白熱している。遺伝子組み換えによる食品の表示義務を求める声は、国民の知る権利、選択の権利の行使として消費者団体、環境擁護団体などを中心に盛り上がっている。科学者の中からも「遺伝子操作は、全く思いがけない変化を産み出し、公衆衛生を危険にさらす可能性がある。そのためにも、生産者側はどの製品に遺伝子組み換えが行われているかを、消費者に知らせる義務がある」という意見も出ている。
だが政府は、栄養成分の明白な改変、食品成分、添加物さらに健康を損ねる危険があると証明されるものなどの表示には同意しながらも、全ての遺伝子組み換え食品、添加物の表示義務への反対動議を支持する構えを示している。政府の基本的姿勢は、新変種にどのような技術が使われているかを表示する必要を認めない。また、「遺伝子組み換え製品が通常の交配変種から産出された生産物と比べ、本質的に安全性に欠けるという証明はされていない。よって、特別の表示義務は認めない」とする。また、遺伝子の組み換えは、食品成分の明白な改変にあたる物ではないと受け止めている。例えば、干ばつの耐性遺伝子が組み換えられたとうもろこしの場合、その遺伝子の因が、一般的にアレルギー誘発物質を有する食品でなければ、特別に表示をする必要はない。また、そのとうもろこしの成分が通常のとうもろこし成分と何ら変化がなければ、同じく表示の必要を認めない。その反対の例として、ビタミンCを削除したトマトはその表示義務を認めている。
安全性か、食糧確保か複雑な問題はらむ
こうした政府の姿勢に対しては、様々な団体から反発が出ている。一例として菜食主義を誇る団体は、「植物性食品に動物の遺伝子を組みかえした場合、その表示を要請する」との申し入れをしたが、政府は何ら回答を与えていない。また、別の方向からの動きも見られる。National Organic Standards Board(NOSB)は1996年10月、遺伝子組み換え食品を有機食品の分類に組み入れる事を拒否する決定を下した。同理事会によると、遺伝子組み換えは自然の流れで行われるものではなく、人為的に遺伝子操作を行った結果によるもので、有機品の範疇に入れがたいとしている。そのため、組み換え食品に自然食品、有機品の表示を禁ずると結論づけた。
一方で、遺伝子組み換えを評価するInstitute of Food Technologists(IFT)は96年、各国で起こる米国の遺伝子組み換え大豆、とうもろこしボイコット運動に対し声明を発表して対抗した。それには「現在何千という食品が、遺伝子操作によって誕生している。例えば、チーズ、種無しぶどう、すいか。消費者自身もそれぞれの嗜好を楽しんでいる。また、市場で販売されている遺伝子組み換えの食品は、FDAを初めとしUSDA、EPAなどの政府機関の規制をクリアーしたもの。勿論、その毒性などの検査も受けている。加えて、遺伝子組み換え技術は、今後の世界の食料飢餓を初めとし、食品を媒介とする病気の撲滅など、人類の健康を守るため必要な技術と評価する」と述べられている。