米国・代替医療への道 1997

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米国の健康関連機関・NIH

  生理学、臨床医学研究など全世界の指導的立場

1887年研究所のたった1室からスタートした米国立衛生研究所(NIH)は、今や第一級の生理学、臨床医学研究所として、米国だけでなく全世界の指導的地位を確立した。米厚生省(DHHS)内の一機関であるNIHは、食品医薬品局(FDA)や社会福祉局(SSI)などと並んで、米国民の健全な生活確保を目指し活動を展開している。

NIHの使命を大ざっぱに言うと、ヒトの健康増進に役立つ知識を追求し伝えていくこと。つまり、①NIH研究室内での研究を推進し②国内または世界中の医科大学、各大学の医学部、病院、研究機関の民間科学者による研究を援助し③研究者の指導・育成を支援し④生物・生体臨床医学の情報を一般に広める。さらに、NIHの目指すところは、未知な遺伝子不全から一般的な風邪まで、疾病や障害の治療、診断、予防を促進するための新しい知識を開拓していくことである。

これまでに5人のノーベル賞受賞者を輩出

NIHはメリーランド州ベセスダにあり、現在300エーカー以上の用地に病院、診療所、研究所、訓練所など75の施設が立ち並ぶ。業務を開始した1887年に300ドルだった年間予算も、1996年には120億ドル以上に膨れ上がった。またNIHを支えるスタッフは、研究者、医師、看護婦など約1万9千人。NIH研究所の中にも優秀な科学者の名が連なり、これまで5人のノーベル賞受賞者を輩出している。

NIHの使命の一つに内外の研究調査支援があるが、その援助金の一部には国民の税金が充てられる。そのため、援助金を要請してくる数限りない研究の中から、人の健康促進に有益であるものを厳選しなければならない。

NIHでは、厳しい監視・検討システムを設け、援助金を与える研究を審査・選択している。そのシステムは、まず科学界の専門家を集めた諮問委員会が、応募してきた研究の評価を行う。さらに全米評議会で検討され、そこで最終的に決定されるという。現在このシステムを通し、年間3万6千件の研究費および訓練費の申込を検討している。

「心臓病の死亡率が4割以上低下」など数々の業績

これまでNIHが果たしてきた業績は大きい。主なところで①米国民の死因第一位である心臓病の死亡率が1971年から91年の間に41%減少②卒中による死亡率が同時期59%減少③がんの治療法、診断法が格段に進歩し、5年以内の再発が見られなかった割合が52%増加④脊椎損傷による麻痺が、ステロイドの多量投与という迅速な治療で減少⑤自殺の危険性を常に秘めている精神分裂症患者に対する新しい投薬療法が開発され、妄想や幻覚などの症状が80%減少⑥さらに、新しい分野の遺伝子工学関連の研究は1980年、90年代には飛躍的進歩を遂げている。しかし、人類が抱える課題は多い。21世紀を目指し、エイズを筆頭にがん、心臓病、アルツハイマー病、麻薬・アルコール中毒などの予防・治療の研究においてのNIHへの期待は大きい。

9月にサリドマイドのワークショップ開催、がん、エイズなどへの有用性に着目

NIHは健康・医療を総括するが、その内部はさらにNational Cancer Institute(NCI =現在、乳房X線撮影と乳がん、煙草と肺がん、食事療法などを研究中)、National Heart,Lung,and Blood Institute(NHLBI=コレステロール値の低下と食餌療法、運動と心臓、高血圧などを研究)、 National Institute on Aging(NIA=更年期障害、老化原因、アルツハイマー病など研究)、 National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA=年齢とアルコール中毒、アルコールと妊娠など研究)、 Natinal Institute of Allergy and Infectious Diseases( NIAID=HIV感染とエイズ、慢性疲労症候群、性病など研究)、 National Institute of Child Health and Human Development(NICHD=突然死の減少を目指す、経口避妊薬などの研究)、 National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases(NIDDK=成人の腎臓石、非インシュリン依存性糖尿病など研究)、 National Institute of Mental Health(NIMH=精神分裂症、過食症といった食事障害他を研究)などの部門に細かく分かれ、それぞれの分野の研究に励んでいる。

部門別に研究に関する様々な活動が展開されているが、最近の主なところでは、サリドマイド関連の公開ワークショップを9月初旬に開いた。1960年代、つわりや不眠症治療薬として使用されたサリドマイドが1万人以上の身体障害児を生み出した。そのため、医療関係機関はその使用禁止を通告。以後、30年以上その薬剤は市場から姿を消したかに見えた。だが、サリドマイドは不眠症を始め、炎症の鎮静、がん、さらにはエイズなど有効性は多いとし、国外では治療に使用する医師もいた。国内でも最近になり、サリドマイド復活へ向け研究を望む声が上がっている。こうした流れを受け、NIHはFDAやCDCと共にワークショップを開いた。

また、同じく9月初旬、National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases(NIAMS)は、 National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)、Arthritis Foundationと共に慢性関節リウマチの遺伝子を探索する研究への支援を発表するなど、休みなく活動している。