米国・代替医療への道 2004

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米国・最先端の癒し心理療法~「前世療法」が静かなブーム
5年ほど前、WHO(世界保健機構)が健康の定義の中に精神性の健全化を加えた ことから米国ではボディ&マインドの両面からの健康管理を重要視する傾向が みられるようになった。そうした風潮を反映してか、ヒトに根本的な癒しを もたらす最先端の心理療法として「前世療法」なるものが静かなブームと なっている。もはやそれは荒唐無稽ないかがわしいものではなくサイエンティ フィックなアプローチから先端代替医療の一つとして取り入れようとする兆し も見えつつある。日本でも米国モンロー研究所の最新プログラムに参加した 日本の科学者が「死後体験」なる書を著し、ベストセラーになるなど、なぜヒト は病気になるのかといったことをスピリチュアリズムの観点から探ろうと、 心のルーツに焦点が当てられつつある。米国における「前世療法」の現状を報告 する。

  不安症から過食症まで、問題は「前世」に起因

米国では、ヒーリング(癒し)の一大ブームにのって、「前世療法」が一般の 人々の間にもじっくりと浸透しつつある。「前世療法」というのは、現在 かかえている心や体の病気の原因を前世にさかのぼって解明し、心の最も深い 部分から癒すセラピーである。スピリチュアル・ヒーラーはもとより、既存の 治療法に取り入れている精神科医や催眠療法士も少なくない。

前世療法とは、ある種の催眠状態にある患者の潜在意識に働きかけて前世の 記憶を呼び起こし、前世から囚われている精神的なことがらから解放すること によって、現在抱えている心理的な、または肉体的な問題を癒していくという セラピーといえる。

精神科医・ブライアン・L・ワルス氏の著書「前世療法」がベストセラーに なったことから、スピリチュアル・ヒーリングのひとつとして一般の人々の 間で広がりつつある。
実際にどんな病気のヒーリングに使われているかを挙げてみよう。

・強迫観念障害 ・自殺願望 ・慢性疲労症候群 ・精神分裂症 ・拒食症、過食症などの摂食障害 ・理由のわからない慢性的な痛みおよび不調 ・理由のわからない慢性的な恐怖症 ・殺されたりといった悪夢を繰り返し見る ・人間関係の悩み ・鬱症状や不安症

こうした症状に悩むのは、いずれも前世に端を発っしているため、前世の記憶 を呼び起こし、根本的な問題を探り出すことによってヒーリングが可能になる という。

1回のヒーリングセッションは平均1時間から1時間半で、料金は地域によって 異なるが1セッションの相場は65ドルから125ドルといわれる。 精神科医や催眠療法士が前世療法を治療に取り入れたり、マッサージ療法、 レイキといったほかの代替医療と組み合わせるなど、前世療法とひとくちに いってもさまざまな癒しテクニックがある。

既存医療への不満から、全米各地でセミナー

現在、全米各地でこうした「前世療法」のセミナーが盛んに行われている。 医療行為の幅を広げるようという精神科医、催眠療法医、看護婦ら医療関係者 から、まったくメディカルのバックグラウンドはないが前世療法セラピストに なりたいという人まで、参加者はさまざま。個人的な悩みをかかえワークショ ップに参加し癒しを求める人も少なくないという。

ちなみに今、前世療法のグルともてはやされているワルス氏のワークショップ には、1000人近くが詰め掛けるという大盛況ぶりだ。

精神科医にかかって、既存の治療を受けても症状がまったく改善しないとこぼす 患者は少なくない。不安神経症や鬱病の患者の65%強が代替医療を試みている というハーバード大学の調査報告が、既存医療への不満度を物語っているとい える。

ただし、なんともうさんくさい――と懐疑の目を向ける人たちが指摘するように、 効果を裏付ける科学的データは不明だ。しかし、支持者の多くは「効き目を科学的 に裏付けるリサーチ結果など必要ない。実際に効果があるのを、何年間もこの目 で見ているのだから」と強気だ。

指摘される問題点――訴訟にまで発展したケースも

前世療法のセラピストになるために特別な資格はいらない。パストライフ・ リサーチ・アンド・セラピー協会といった前世療法民間団体らが開催する セミナーに参加したり、在宅学習コースを受ければ、メディカルのバック グラウンドがまるでなくてもセラピストになれる。各団体らが独自のコース 終了証を発行しているものの、政府機関発行の公式認定書はない。

カリフォルニア州のマリン郡では前世療法セラピストをめぐり今年、ライセンス がらみでこんな訴訟が起きている。 ライセンスなしでカウンセリングやソーシャルワーカーまがいのことをしている 女性がいる――。州の消費者局にそんな苦情が寄せられたのが発端だった。通報 された女性は、マリン郡に住むジョージア・リッチーさん(64)で、サイキッ クアドバイザーとして23年間、チャネリングや前世療法などのスピリチュアル・ ヒーリングを行っていた。

消費者局はさっそく、クライアントに扮したおとり捜査員をリッチーさんの元に 送り込み、ヒーリングセッションの一部始終を録音。おとり捜査員は、ガール フレンドの娘がウエッブサイトに自分のヌード写真を掲載、祖母に暴力を振るっ ているなどと身内の悩みを相談していた。

おとり捜査の結果、リッチーさんは、ライセンスなしにファミリーカウンセリ ングなどを行ったほか、虐待を警察に通報しなかった容疑で逮捕された。当初 は、刑事犯罪で起訴されたが、こちらは後に不起訴となり、現在、商法違反で 民事ケースとして起訴されている。もし有罪になれば5万ドルを超える罰金 支払いを命じられる可能性がある。

これに対し、リッチーさんは「ライセンスを持った精神療法医、カウンセラー、 セラピストなどと名乗った覚えはない、ホームページでもあくまでサイキック、 スピリチュアル・リーダーとして自己紹介している」と主張。

さらに、スピリチュアル・アドバイザーに虐待を通報する法的義務はないと反論している。 弁護団も「スピリチュアルヒーラーを狙った魔女がり」と検察局を強く非難。 リッチーさんのクライアントの間からも、「精神科医にかかっていたが効果が ないので、リッチーさんのところで前世療法を受けたところ、効果があった」 という支援の声が寄せられている。

前世療法をめぐっては、前世の記憶を呼び起こす際に、クライアントの イマジネーションやセラピストによる誤った誘導でまったく架空の記憶が作り 上げられる恐れが問題視されている。架空の記憶が、かえってクライアントを 苦しめ、家族らとの関係を崩壊するといった逆効果になる危険があるからだ。 前世に現在の問題の答えを求める人が増える中、セラピストの質が今後、 大きく問われていきそうだ。