米国・代替医療への道 2004

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医療機関も取り入れる「祈りの療法」
米国では、ここ数年代替医療(西洋医療以外の医療)への関心が急速に高ま っているが、医療費の削減などの思惑もあって、米国立衛生研究所(NIH)など 米国政府機関も有効性の検証とコラボレーション体制の構築に積極的な構えを みせている。とくに、がんなどの重篤な疾病については、患者自体が西洋医療 的な処置に満足がいかず、さまざまな代替医療を試みるケースが多い。 米国におけるがん罹患で、女性の場合、乳がんがトップを走っているが、 米国中西部にある大学医療センターでの乳がん患者の8割弱が祈り療法を利用 しているという。日本においては非常に奇異な感もあるが、米国では、NIHなど もこうした祈りによる治療効果の研究に本腰を入れているという。 米国における代替医療の利用状況を報告する。

  「祈りの療法」、エクソサイズやメガビタミンを上回る利用率

ここ数年、代替医療を試みる乳がん患者が増えている。生存率のアップのほか、 再発予防、症状緩和、既存医療の副作用緩和が、代替医療を治療メニューに 加える主な理由だ。 CancerWellness Instituteらの資料によると、とくにがん患者は代替医療を 利用する率が高く、中でも乳がん患者にその傾向が顕著にみられるという。

米国中西部にある大学医療センターが乳がんで通院する112人の患者を対象に 調べたところ、最も利用者の多かった代替医療アプローチが「祈り」で76%、 「エクソサイズ」が38%、「スピリチュアル・ヒーリング」が29%だった。

ほかには、「メガビタミン服用」「自助グループ参加」「イメージ療法」 「ハーブ」「リラクゼーション」「ダイエット」「ホメオパシー」「エネルギー ・ヒーリング」「マッサージ」が既存医療との併用で用いられていた。 また、子供のがん患者81人を対象にした調査でも、64.2%と、がん患者に おける利用度の高さがうかがわれた。

米国成人の3分の1が、代替医療に加え祈り療法を利用

米国で、祈りのヒーリングパワーを信じる人が増えている。もともと、人口 の95%が神を信じ、65歳以上の80%が教会に属している(ギャロップ世論調査) お国柄、祈りで心身が癒されるという観念はすでに浸透済みだ。その観念を 実践し、健康に役立てようという動きが高まっている。

米国成人の3分の1が、健康のため既存医療および代替医療に加え祈り療法を 利用していることが、4月26日付け「Archives of Internal Medicine誌」に も掲載されている。

ハーバード・メディカルスクールの祈り療法に関する調査 報告によるもので、1997年10月から1998年2月にかけ18歳以上の2055人を対象 に全米規模の調査を行ったところ、35%が健康のために祈り療法を利用して いると答えたという。うち75%が健康維持、22%が病気の治療を目的にそれ ぞれ利用しており、69%が効果があったと報告した。

また、鬱症状、慢性の頭痛・腰痛・首の痛み、アレルギー、消化器官の疾患に悩む、高卒以上の学歴 のある33歳以上の女性は、ほぼ100%が祈り療法を試しているという。

報告書は、「健康維持のため祈り療法を利用している人が多く、治療目的では 既存医療との併用が主流。患者の大半が医者に祈り療法を試していることを 話していない」と結論づけている。

がん、多発性硬化症、糖尿病など祈りで癒す

祈りのヒーリングパワーを信じる患者たちの病名は、がん、多発性硬化症、 エイズ、糖尿病と幅広い。 ニュージャージー大学医学・歯学部が多発性硬化症(MS)の成人患者3140人を 対象に調べたところ、57%が少なくとも代替医療を1度は試みたと解答。闘病 生活の長い人ほど、既存医療への満足度が低く、代替医療の利用度が高かった。

どんな代替医療を受けているかについては、ビタミンが最も多く44.8%、次が 祈り療法で27.3%、そしてハーブの26.6%と続いた。 祈り療法を実践している期間は平均9.53年で、代替医療の中でも最も利用期間 が長いことも分かった。

また、祈りの療法を実践しているMS患者1038人を対象にした調査では、不安、 ストレス、鬱などの症状が改善されたという解答が目立ったほか、約60%が ほかの人にも自分の健康のために祈ってもらっていた。

がん患者の利用率も高い。入院中のがん患者25人を対象にした調査報告では、 「病気と闘うため祈っている」が84%。患者59人の調査でも、68%が祈って いた。 祈りの効果として、「希望が持てる」、「痛みをのりきれる」を挙げた人が 多い。

他にも、1997年11月から1998年2月にかけ全米の2055人を対象に代替医療の利用 頻度について調べたところ、95%が糖尿病と解答。糖尿病と答えた人の46%が、 治療目的ではないが祈り療法を利用しており、治療目的は約29%だった。

祈っているグループは祈らないグループより死亡率が5割低い

こういった状況を受け、米国立衛生研究所(NIH)などの政府機関も乗り出し、 すでに祈りの治療効果を裏付ける研究結果がかなり報告されている。

これまでに、健康向上、慢性疾患の患者の生活の質向上、心臓病患者、がん 患者、AIDS・HIV患者、リュウマチ患者、やけど、出産時の併発症、高血圧、 アルコール・麻薬中毒への祈り効果の研究が盛んに行われている。

中でも代表的なのが、1986年から1992年にかけ、65歳以上の男女4000人を 対象に祈りの効果を調べたデューク大学医学部(ノースカロライナ州)の調査 報告。祈っているグループの死亡率は祈らないグループより46%低く、さらに 免疫力も高く、「祈っている高齢者は、健康で長生きしている」と結論づけて いる。

また、Dartmouthメディカルセンターが、心臓病の手術をした患者232人を 対象に調べた結果、生存率の高さに、祈るなどなんらかの信仰が明らかに 影響していると報告。

他にも、マイアミ大学がエイズ患者を対象に行った調査では、カトリックに 限らずなんらかの信仰を持ち、ボランティア活動などに参加している患者の 生存率が高いことも分かっている。

また、鬱症状、アルコール・麻薬中毒からの回復効果を指摘する調査報告も いくつかあるほか、患者本人ではなく他の人に祈ってもらう治癒効果に触れ た23の研究(対象合わせて2774人)をまとめた調査報告は、57%が祈り効果 を指摘している。

ストレス緩和による免疫力向上説から超自然現象説まで

こうした、「祈りの療法」による治癒のメカニズムとは一体どのようなもの なのか。中には何やら神秘的な超自然的な力さえ感じさせる調査報告もある。 ある研究者は「祈ることでストレスが解消されている」とストレス緩和による 免疫力の向上を説く。

祈りと瞑想のストレス解消のメカニズムはと同じで、 ストレスが高まるとアドレナリンなど体に害をおよぼすホルモンが分泌さ れ、高血圧や免疫力低下を引き起こすが、祈りや瞑想は、ストレス・ホルモ ンを抑える脳の化学物質「神経伝達物質」の分泌を促進するため、ストレス を解消するという。

しかし、中にはこういった研究報告とは違い、ミステリアスなものもある。 本人ではなくほかの人に祈ってもらった「祈り療法」の調査報告がある。 調査は、ミズリー州の病院で心臓発作を起こし入院中の男女1000人の患者 を対象に行われた。

まず、患者の半分を人に祈ってもらうグループ、残り 半分をそうでないグループに分ける。祈る人には、患者のファーストネーム (苗字は渡さず)だけを渡し、4週間にわたり毎日、その患者の回復を願って 祈るように頼んだ。祈る人は全員クリスチャンだった。患者には、だれかが 祈っていることは知らせてない。

同期間中の患者の健康状態を表にしたところ、祈ってもらっている患者グル ープの方が、そうでない患者グループより10%ほど回復率が高かった。患者 自身は祈りのことなど何も知らないのだから、祈ることでリラックスし脳の 神経伝達物質の分泌が活発になるという前述のデューク大学の説明は当て はまらない。

ただ、「祈りの療法」による肯定的な効果が相次いでいるものの、医療現場 では、あくまでも既存医療との併用が望ましく、祈り療法にのみ治療効果を 期待するのは危険という声も当然あがっている。