米国・代替医療への道 2002

米国マスコミの健康関連報道の裏側 / 狂牛病で、代替ミートに熱い視線 / チルドレン向けサプリが順調な伸び / NIH、サプリ研究報告トップ25を公表 / 性機能や更年期対策サプリで活性 / 健康的な「食」の新ガイドライン発表 / 堅調に推移、米国ダイエット産業 / サプリVS医薬品の相互作用② / 中国産ダイエット食品、医薬成分配合 / サプリVS医薬品の相互作用① / 信頼回復の基盤作り進む / 肉から魚へ、進む”魚食”化 / 認知される穀類の有用性 / 「食」が代替医療の中核に / 2002年度「がん現状・統計」報告 / NATURAL PRODUCTS EXPO2002 / 高齢化で、アンチエイジングが好調 / 栄養療法でがんを撲滅できるのか

米国で認知される穀類の有用性
ミート・イーターからフィッシュ・イーターへ―アメリカ人の食生活にそんな 異変が起きている。以前だったら「生でサカナを食べるなんて気味が悪い」と 言っていたアメリカ人たちが、「アイ・ラブ・スシ」と大の寿司好きに変身。 とにかくちょっとおしゃれな街に行けば、数10メートルごとに寿司屋があると いってもいいほどだ。移民が増えすぎたなどの理由から外国人の就労ビザがと りにくくなった今でも、スシ・シェフをはじめ寿司がらみのビジネス関係者に は年間、約1000件のビザが発行されているという。脂肪分の多い肉の食べ過ぎ は心臓病のもとと脅かされ、「健康のために少なくとも週に二回はサカナを食 べましょう」という健康団体らの呼びかけで高まった「サカナ・フィーバー」。 そんなアメリカのシーフード市場を報告する。

  ヘルシー通たちの間で、スーパーグレーンが人気

ナチュラルフード店で買い物するアメリカ人たちの間で最近、話題になってい るのが雑穀。かつて人間が食べていたのに、いつの間にか家畜のエサのイメー ジが強くなったものの、ここにきてがん予防やコレステロール低下など、その 機能性が再認識されつつある。

店の雑穀コーナーには、エキゾチックな穀類がずらりと並ぶようになった。 キヌア、ブルーコーン、スペルトコムギ、アマランサスはナチュラルフ ード店で売上げの上位につく。中でもアンデス原産のアマランサスや南米原産 のキヌアは、プロテイン、カルシウム、鉄分、ビタミンを豊富に含んでい ることからスーパーグレーン(穀物)と呼ばれ、ヘルシー通たちの関心度は高い。 またカムートコムギも人気だ。普通の小麦によく似ているが、小麦アレルギー でも問題なく安心して食べられるからだ。

カートコムギのパスタは、精製した小麦で作ったパスタより、栄養価の高いう えにこしがあると、小麦アレルギーの人はもちろん、一般消費者の間でもなか なかの評判だ。また、プロテイン、オメガ3をたっぷり含んだ、アメリカ南西部 とメキシコ原産のチアも、市場を広げつつある。

需要はますます高まり、安定した売れ筋商品に

ナチュラル・フーズ・マーチャンダイザーが健康食品の小売店およびメーカーを 対象にした調査では、「雑穀市場は成長株。シリアル、パスタ、クッキーなど の原料として需要はますます高まる」と結論づけている。しばらく成長が続い た後、安定した売れ筋商品になるだろう―と予想する業界関係者は多い。

とはいえ、「雑穀が体にいいのは知っているけれど、いったいどうやって食べ たらいいの」という消費者がほとんど。そこで、販売促進はもとより消費者教育 もかねて、雑穀料理教室を開くヘルシーストアーが増えている。また、パッケー ジに調理方法や栄養効果を記載するなど、雑穀へのとっつきにくさを取り払 おうと各社で工夫している。

コメの主流はまだまだ「ホワイト」

パン、シリアル、クラッカー、パスタ、スナックを買うときに、原料ラベルを みてホールグレーン(全穀粒)を使っているかをチェックする人が増えている。 精製すると、せっかくの栄養分も一緒に削り取られてしまう。というわけで、 精製したホワイト穀類から精製度の低い色つきに人気が移行している。

しかし、コメとなるとまだまだ主流は「ホワイト」。玄米(ブラウンライス)に 比べ、料理の時間が短く、食べやすい、長期保存がきくといった点で重宝がら れている。加えて、玄米というとまだ家畜のエサといったことを連想する人も 少なくない。

雑誌「オーガニック&ナチュラルニュース」2001年5月号によると、アーカン サー州に拠点を置くサザン・ブラウン・ライス社がブラウンカラーのBasmati米 を売り出したところ、消費者の反応は冷ややかであったという。

ホールグレーンの利点は理解していても、コメとなるとまだまだ「ブラウンは ちょっと」と考える人が多いようだ。

アメリカ人の4割はホールグレーン(全穀粒)を摂っていない

最近のギャラップ世論調査によると、調査対象の83%が「穀類はエネルギー源 になる」、70%強が「穀類は、ダイエット、心臓病予防、がん予防の効果が ある」と、いずれもポジティブな回答をしている。

しかし、身体にいいのは分かっていても、実際に食べている量となると別の話。 理想的な食生活を示したフードピラミッドは、「穀物を1日に6から11サー ビング摂りましょう」とアドバイスしているが、一般消費者が食べている量は 平均すると6サービングがやっと。

しかもホールグレーンとなると、平均1サービングにも満たない。アメリカ人 の40%は、ホールグレーンをまったく摂っていないという統計もある。

そんな食生活ぶりを反映してか、相変わらず死因のトップは心臓病。米国心臓病 協会によると、現在、アメリカ国内の心臓病患者は約6千180万人。うち高血 圧が5千万人、卒中が460万人という。心臓病による1日の平均死亡件数は 2600人。アメリカのどこかで33秒ごとにひとりが心臓病な亡くなっている ことになる。

National Heart, Lung, and Blood Institute(NHLBI)が今年2月に発表した 調査報告も、中高年のアメリカ人が生涯のうちに高血圧になる確率は90%と 伝えている。

ゴールデンライスなど、遺伝子組み換え(GM)穀物がバッシング

ところで、気になる穀物の遺伝子組み換え(GM)の動き。 カナダの農家が今年3月、GM種子の大御所「モンサント」を相手取り、GM小麦 の種子販売中止を求めて訴訟をおこした。

商品化はまだ当分先だというのに、なぜ今?
実はこの訴訟、原告の味わった過去の痛い経験がバックグラウンドになっている。 以前に近所の農家の蒔いたカノラGM種子が、原告の畑まで入り込み作物を汚染し た。同じ被害を二度と味わいたくないと、手遅れにならぬよう開発段階の今の うちに叩きつぶしてしまおうとした。これに対し、モンサント側は、GM小麦は 政府の許可なしには販売しないし、商品として売り出すにはまだ3年はかかる と話している。

商品化する前からバッシングされている穀物といえば、ゴールデンライス。体内 でビタミンAにかわるβ-カロチンが含まれているため米が黄色くなることから、 この名が付いた。

GM推進サイドは、ビタミンA不足を解消できる―と消費者サイ ドのメリットを強調、さらに開発に欠かせない技術の特許をもつ、多国籍バイオ 企業のモンサント、シンジェンタ、バイエルらは、人道的な目的に限って特許権 の無償使用を国際稲研究所に与えた。現在、フィリピンとインドで研究開発が進 んでいる。

フィリピンの国際稲研究所は昨年、環境保護団体「グリンピース」に対し、「ゴ ールデンライスを実際に畑に蒔いて実験するまでにはあと5年間はかかりそうだ」 と説明。環境への影響などじゅうぶんに調べたうえでの商品化ということで、ま だまだ時間がかかりそうだが、賛否両論をめぐり今後の風向きが非常に興味深い。

また、小麦やコメより一足先に、商品化されたGMコーン。アメリカ国内で2000年 に生産したコーンの推定25%がGMだ。前年の35%を下回るものの、今後はこのま ま25%前後をキープするものと見られている。

そんな状況を横目に、「β-カロチンを摂るなら玄米を食べればいい」とうそぶく コメ専門家も少なくない。GM穀物が反面教師となり、玄米や雑穀ブームに拍車が かかるかもしれない。