米国・代替医療への道 2000
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薬を使わず自らの意志で血圧降下や頭痛を緩和
心と体の結びつきを利用した多くの療法が最近注目を集めているが、「バイオフィードバック」もその一つ。この言葉は、1969年、人の脳の活動を変えるトレーニング研究の中で生まれた。そもそもは、1961年、「自律神経や内臓神経はトレーニングできる」として、心理学者ニール・ミラーが試験的に行ったもの。始めのうちは首などに関する疾患に使用された。
数十年、ミラーの考え方はさらに広がり、バイオフィードバック関連では文献3000、書籍100冊が刊行され、米国にはバイオフィードバックを行う医師が1万人いるといわれる。基本原理は、普段無意識のうちに行われている機能、例えば血圧、体温、心拍数、脈拍、などを意識してコントロールできるようにトレーニングするもの。このトレーニングをマスターすると、薬を使わず自分の意志で血圧を下げたり頭痛をなくしたりすることが可能となる。
自身で脳波を調整、「脳のエアロビクス」
現在は、ニューロフィードバックとして知られる治療法で、通常のセッションでは患者はモニターされる部分(筋肉療法なら筋肉に、脳波を看る場合は頭部)に電極を装着する。多くの場合、筋肉の緊張、体温、脳波を測る。電極を通し情報がモニターに映し出され、患者が受け取ることになる。例えば脳波の場合、仕事に集中するため脳は高い周波数のベータ波を出す必要がある。反対にリラックスするなら低周波のシータ波が出る。
これを利用し、コンピューターゲームに似たプログラムを使うと、画面をコントロールして好みの脳波を出す精神状態を得ることができるようになる。そのため、こうしたシステムを「脳のエアロビクス」と呼ぶ専門家もいる。通常のトレーニングは、8~10セッションを消化する。重度の疾患ではそれ以上が必要となるが、機械の助けを借りずに内的な精神状態と身体的プロセスを患者が調整できるようになるのが最終目標。
鬱病や喘息、心臓病など幅広く応用
また、ニューロフィードバック療法の、特に子どもの注意力欠如多動障害(ADHD)患者に対する有効性が注目されている。テネシー大学の心理学者、ジョエル・ルーバー博士が1970年代に始めて、ADHD患者に対しニューロフィードバック療法を試したもので、子どもにゲームを行わせることで脳のシータ波を少なくしベータ波を増強、注意力を高めようとした。Applied Psychophysiology and Biofeedback(1998年12月号)にカナダの研究者グループが行った研究が掲載されているが、それによると患者は40セッションを終了したところで、その症状にかなりの回復が見られたという。
60~80%の症状改善、薬物治療の減少など有効性明らかに
Association for Applied Psychotherapy and Biofeedbackによると、全米で700以上の機関がADHD/ADD患者にバイオフィードバック療法を実施しており、患者は60~80%の症状改善や薬物治療の減少を報告している。また、ワシントン州の精神科医は鬱病、中毒患者、ADHD、双極性障害患者の25~35%に同治療を応用すると報告している。ロンドンの研究者も、International Journal of Psychophysiology(1999年12月号)の中で、精神分裂病患者にニューロフィードバック療法を施したところ、脳内で薬物療法によるものと同じ電気パターンが起こっていることを報告した。
精神関連疾患ばかりでなく、慢性疾患に対する有効性でも様々な報告が発表されている。UCLA並びにオハイオ州大学、ハーバード大学研究者グループは、慢性心不全(CHF)患者40人に20分のバイオフィードバック・セッションを受けさせた。皮膚の温度を測りながらのセッションでは、患者に暖かい手をイメージさせることで温度を上げ血液の流れを良くすることに成功した。また、バイオフィードバック・グループでは呼吸数も安定したという。さらに、ニュージャージー州の研究者グループは、喘息患者18人にバイオフィードバックと呼吸法を施したが、薬に頼らず喘息症状を改善させたことが分かった。
Journal of the American Medical Association1998年12月号に掲載された研究によると、バイオフィードバックと運動療法により高齢者の「切迫性尿失禁」が改善されたという。「切迫性」あるいは「腹圧性」尿失禁患者190人に運動、筋肉コントロール、リラクゼーション法を8週間施したところ、症状が平均81%改善された。薬物(通常の治療薬、oxybutynin)/偽薬グループはそれぞれ69%、40%の改善だったという。