乳がん患者さんのためのヨガクラスが人気
このところ著名人ががんに罹っていることを公にするなど、がんに再び注目が集まっています。なかでも乳がんは多くの女性の関心事で、乳がん検診の予約がなかなか取れず、医療機関に検診希望者や問い合わせが殺到しているそうです。今回はヨガと乳がんの関係についてお話しします。

■ 乳がんの術後リハビリでヨガを行う人が増えている
一括りに乳がんといっても、発見から術後の経過まで個人差が相当あります。他のがんと違い、乳がんは「体の形」が変わってしまう唯一のがんです。 女性のシンボルである乳房にがんが生じるわけですから、多くの女性が不安を抱くのも無理はありません。しかし、今は乳房再建手術も進んでいて、温浴施設などでも、術後乳がんキャリアであることを全く気づかれないこともあるほどです。 ところで、この乳がんの手術を受けた女性で、術後リハビリの一貫としてヨガを選択する人が増えているのをご存知ですか。 インターネットで「乳がん ヨガ」と検索すると、「乳がん患者さん専用クラス」の情報がかなりヒットします。クラス名はスタジオによってさまざまですが、「乳がん患者さんをサポートするヨガ」とはいったいどのようなものでしょうか。
■ 乳がんとヨガの相性が非常に良い
「乳がんヨガ」のクラスで目的としているのは、ガンを治療することや再発を予防することではありません。乳がんを経験された女性の生活の質や精神状態を向上させるサポートを目的とするものです。欧米では補完代替医療の一貫で、こうした「ヨガセラピー」のニーズが高まっています。 特にがんの治療やリハビリにヨガを導入するケースが増えていますが、なかでも乳がんとヨガの相性が非常に良いというデータがあります。 その最大の理由として、乳がんは他のがんに比べて早期発見・早期治療が行われることが多く、また転移していなければ部位も限られているため、術後の予後が格段に良いということがあります。 しかし、ここがまた乳がんになった女性を悩ませる最大のポイントでもあります。つまり、乳がんになっても予後が良ければ「日常生活を普通に過ごせてしまう」からです。 これは本来喜ぶべきことですが、一方で、乳がんの術後10年は経過観察を含め治療が続くことになります。これは非常に長い期間であり、その間、心の片隅で乳がん再発の不安を抱きながら、日常生活を送ることになります。
■ 乳がん患者さんが抱える不安感や孤独感
今や、乳がんの手術は格段に進化していて、日帰りも可能といわれるほどです。術後1年も経過すれば、おそらく誰もその人が乳がんサバイバーであることなど気づかないくらいの日常生活に戻れます。 本人が普通に生活しているわけですから、周囲や家族も乳がん患者さんが抱える不安や不自由を見過ごしがちです。乳がん患者さんも「どうせ私は理解されない」という気持ちに囚われ、家庭や職場でも孤独になりがちです。 また、乳がんであることを認めたくない、という方もいれば、乳がんだからといって甘える訳にはいかない、という方もいます。仕事や家庭生活を継続しなければいけない以上、医師に勧められても忙しくてリハビリを受けられないという悩みを抱える女性も少なくありません。
■ 乳がんになりやすい40代
この数年、乳がんになる女性の年齢が低下傾向にあります。乳がんになりやすいのは40代からです。多くの40代女性は子育ての真最中、親の介護をしている場合もあります。 働き盛りのご主人のサポートも欠かせません。仕事をしている女性であれば主要なポストに就いていることも少なくないでしょう。40~50歳、あるいは50~60歳という年代だと、大きな病気をしていなくても自分自身の更年期の問題や親の介護の問題、子どもの進学の問題、定年後の不安など、人生で中で大きく揺らぎがちです。 その時期に日常生活を送りながら「治療」や「経過観察」を続ける不安は、おそらく想像以上のものでしょう。ストレスフルな年代に、さらに病気のストレスをプラスして過ごさなければならないのです。 乳がんに限りませんが、手術をしたからといって術前の自分には戻れません。常に、再発の恐れがついてまわります。
■ リハビリヨガ、 ただ「今」に意識を向ける
それではこのような状況に、ヨガがどのように役立つのでしょうか。それは「病気になった後の私も幸せだ」という肯定的な自分作りがヨガでできるということです。 そのためのヨガは、ゆっくりとしたポーズで、呼吸や瞑想に重きを置いて行います。ヨガの呼吸法とポーズによって身体能力は回復しやすくなります。 また、こうしたヨガは乳がんの術後に一番多い「リンパ浮腫」の予防にも効果的です。これらは多数のエビデンスによって報告されています。また呼吸の質がどんどん高まることで、免疫力が高まり、再発の予防にもなります。 リハビリにはいろいろな方法がありますが、自分にあったやり方を選ぶことが大切です。なぜならリハビリの質がその後の人生の質を左右するといっても過言ではないからです。そのなかで、リハビリを目的としたヨガはおすすめできる選択肢の1つといえます。 ただ意識を「今」に向け、「今できること」「今持っているもの」にどんどん感謝する気持ちが自然に湧いてくる。それがリハビリヨガです。
■ 前向きに生きることを教えてくれるヨガ
定期検診の結果を聞くまで心配で眠れない、不安な時間。リハビリをしながら社会復帰する不安……。 このような状況でも、ヨガの正しい呼吸を身に付ければ、不安を乗り越えられ、安らかに眠ったり、穏やかな心でいられるようになります。 ベジタリアンでもがんになる人もいれば、喫煙者でがんにならない人もいます。「なぜ私が乳がんになったのか」「なぜ私なのか」という、犯人探しをやめられるようになります。 大切なことはどんな状況下でも、前向きに生きる強さ。乳がんのリハビリヨガクラスはそんなことを教えてくれるクラスです。