米国・代替医療への道 2003
サプリのネット販売、誇大告知規制 / サプリメントと医薬品との相互作用 / 現代人、流出する栄養素 / がん患者の9割強、代替医療を経験 / FDAお墨付き、機能性飲料登場 / 感染症、米疾病予防センターの役割 / アンチエイジング市場の今 / ハーブサプリ、安全性の監視強化 / 米国サプリ、マスコミ報道の今 / 遺伝子組み換え原料、急速に浸透 / 疾病に焦点当てた栄養機能食品続々 / サプリ製造、安全性への監視強化 / 米国におけるサプリメント使用調査 / 化粧品にも栄養素添加、コスメ市場 / 米国ダイエット産業の近況 / 米国サプリメント栄養行政の最新報告 / トリップハーブ、高揚感求めニーズメラトニンにカバカバ、そしてセント・ジョンズ・ワート。これらは米国で 一時期ブームを巻き起こし、今もなお根強い支持者を持つサプリメントおよび ハーブだ。これらに共通しているのが精神安定や鬱症状からの開放といったも の。20人にひとりが鬱症状をかかえるといわれる競争社会・米国にあってはも はや必需品といえるのかも知れない。さらにストレスからの開放、あるいは気 分の高揚を求めトリップハーブ、ドラッグハーブと呼ばれるものもアンダーグ ラウンドで愛用者を増やしている。ある種の”癒しの非合法ハーブ”ともいえ るものだが、ストレスに蝕まれた現代人はこうしたものに頼らざるを得ないの だろうか。米国でのトリップハーブの現況を報告する。
米国食品・医薬品局(FDA)が効能の研究に乗り出す
昨秋、米国食品・医薬品局(FDA)はMDMAの精神療法における治療効果を調べ る研究にゴーサインを出した。 MDMAとは医薬用語では「メチレンジオキシメタンフェタミン」と呼ばれる神経 興奮剤で、代表的なものとしては日本でも話題になった精神の活性化や幻覚 作用を誘発する非合法ドラッグ『エクスタシー』がある。構造的には中枢神経 興奮剤のアンフェタミンと同じような働きをすることで知られる。
MDMAはもとはといえば精神療法に使われたドラックであることもあり、「人体 への悪影響ばかりがクローズアップされるのは、あくまで使用方法に問題があ るから」という支持派の要請に応える形で、今回FDAが本格的に治療効果の研究 に腰を上げることとなった。
1914年に登場、薬剤研究者たちが実験的に製造
『エクスタシー』のようなMDMAは「デザイナー・ドラック」の俗称でも知られ、 そのほとんどがアンダーグラウンドの研究所で密造されている。最も多いのが 錠剤かカプセル入りタイプで、中にはコカインのようにパウダー状で鼻から吸 い込むタイプのものも出回っている。
密造先によりドラックのサイズやカラーなどまちまちだが、だいたい一回に50mg から200mgが服用されているという。値段にばらつきがあるものの、一錠25ドル 前後が相場だ。摂取した後、一時間以内にハイになり、その状態が4時間から 6時間続くといわれている。
ここ数年、「新ストリート・ドラッグ出現」などと騒がれているMDMAだが、 お目見えしたのは1914年。薬剤の研究者たちが実験的に製造した。70年代に入 るとごく少数の精神療法医が「感情の移入を助けるため治療に役立つ」と、 精神療法に使いはじめた。
そして、80年代には当時流行した野外や倉庫での大型パーティー「レーヴ」に通う若者たちの間に、レクリエーショナル・ド ラックとして一気に広まった。ここ数年は、ティーンをはじめアーバン・プロフェッショナルたちの間でリバ イバルしている。
気分が高揚するも、緊急治療室に運ばれる若者も少なくない
ところで服用するとどんな身体的変化があるのか。少量だとマイルドなハイ状態 になり、元気がわいてきて、幸福感が高まり、社交的になり、おしゃべり上手に なるという。
しかし、気分をハッピーにする一方で、大量の汗をかく、血圧が上がる、心臓の 鼓動が早くなる、吐気やパニックアタックに襲われる、といった副作用が報告さ れているほか、ハイ状態が収まると、困惑、パニック、不眠、パラノイアとい ったネガティブな精神状態に陥り、それが数週間にわたり続くこともあるという。 また、レーヴ・パーティーでMDMAを服用した後に体温調節が効かなくなり、脱水 症状や低体温症を起こし緊急治療室に運ばれる若者も少なくない。
長期服用や多量投与についての詳細な報告はまだない
ジョン・ホプキンス大学医学部神経生物学科のジョージ・リコールテ博士らが サル、ヒヒ、人間を対象にエクスタシーの影響について調べたところ、「セロ トニンを調整する脳細胞に有害」と結論づけている。
また、同研究チームは雑誌「サイエンス」の中で、動物実験では、MDMAがドー パミンとセロトニンの値を下げ、パーキンソン病の罹患率を高める恐れがある ――と報告している。しかし、実際にエクスタシーを使用している人の罹患率 が、非使用者に比べ高いという報告はない。
長期服用の人体への影響についてのデータは今のところほとんどないうえ、 一体どれぐらい服用するとマイナス影響が出るのかも分かっていない。ただ、 一度に大量服用したり、常用すると人体への悪影響の危険が高まるほか、 何らかの精神障害がある場合の服用も危険であると指摘されている。
ハーブ版『エクスタシー』相次いで登場
今後、『エクスタシー』のようなMDMAの合法化をめぐり議論が高まりそうだ。 現在、同品はアンダーグラウンドで売れているが、あくまで非合法ドラックで ある。
そこで出てきたのが、ハーブ版『エクスタシー』といわれる数々の『エクスタ シー』もどき製品。ハーブだから合法とばかりにインターネットなどで堂々と 販売されている。しかし本当に安全なのか。
化学物質は一切使わず。成分はすべてナチュラルだから安心してハイになれる ――そんなうたい文句で登場したのがハーブ版『エクスタシー』の『クラウド9 』『ゴー・フォー・イット』『ハーバル・フュエル』『ハーバル・エクスタシー』 といった商品。MDMAの代替品として人気を呼んでいる。
ハーブという性質上、非合法ドラック扱いされていないのも何となく安心感を 与えている理由のひとつとなっている。
エフェドラ配合製品で死亡者
ハーブ版『エクスタシー』の主な含有成分は、エフェドラ(中国名、Ma Huang)。 エフェドラを服用すると、ハイな気分になる、全身の感覚が非常に敏感になる、 エネルギーが湧いてくる――などMDMAと同じような効果がある他、減量効果も あるためダイエットサプリメントの成分としても使われている。
しかし、「100%ナチュラルだから安全」という宣伝文句を信じたばかりに、 悲劇が起きた。 1996年のことである。フロリダで春休みをエンジョイしていたニュヨークの 学生が、ハーブ版『エクスタシー』を8錠飲んだ後、死亡した。まだ20歳と いう若さだった。
これを機にハーブ版『エクスタシー』の安全が疑問視されは じめたのはいうまでもない。さっそく、ニューヨークとフロリダはエフェドラ を含んだ興奮剤販売の全面禁止に踏み切った。ただ、オハイオ州も一時は禁じ たものの、健康食品業界の強いロビー活動に合い、すぐに禁止令を取り下げた。
FDA、ハーブ版『エクスタシー』に警告
エフェドラの副作用として指摘されているのが、吐気、頭痛、心臓発作、パ ラノイア、けいれん、脳卒中、動悸など。 消費者擁護団体「パブリック・シチズン」によると、これまでFDAに、エフェ ドラ入りハーブ版『エクスタシー』の使用で少なくとも80人の死亡が報告さ れているという。ただし、報告されていないケースもあるため、実際にはもっ と多くの被害が出ている可能性が高いとみられている。
こうした状況を受けて、FDAは「非合法エクスタシーの代替品にハーブ版『エ クスタシー』を利用するのは危険」と消費者に警告しているほか、販売業者に 対しても「サプリメントはあくまで健康向上を目指す栄養補助のためのもの。 ハーブ版『エクスタシー』をサプリメントとして宣伝するのは違法行為」と、 厳しく取り締まる姿勢を示している。
また、エフェドラの副作用として「中枢神経系および心臓に損傷を与える危険 があり、服用量が増えると危険度も高くなる」と、きちんと表示するよう義務 付けている。
消費者が安全量を把握するのは困難
一方、エフェドラバッシングが続くなか、「人体に悪影響を及ぼすのは、過剰 摂取と長期使用した場合であって、正しく使えば肥満解消に効き目のある安全 なハーブ」という擁護派の声もある。
FDAが指摘する安全な摂取量は8ミリグラム。しかし薬剤と異なりハーブを含む サプリメント規制はかなり緩いことから、消費者が正確な含有量を知るのはむ ずかしいという。
ましてや、ストリートドラックとして販売されているハーブ版『エクスタシー』
はなおさらのこと。エフェドラ擁護派も「ハーブ版『エクスタシー』は排除
されるべき」と強調している。