米国・代替医療への道 1998

「食」に不安、栄養補助食品に期待かける米国 / 過熱する健康情報メディア、問われる信憑性 / 膨張する米国民医療費、高まる予防医学への期待 / 米国のがん罹患率、1990年から毎年0.7%減少 / 糖尿病人口急増、予備軍含め1,600万人 / 食餌と「キレ」る行動との関連 / 米国・ぜんそくアレルギー患者の実態 / 米国におけるアトピー・アレルギー人口の現状 / ミネラルウオーター人気依然根強い、米国水事情 / ホルムアルデヒドなど、米国で深刻化する室内空気汚染

ホルムアルデヒド、深刻化する室内空気汚染

  大都市では戸外より屋内の空気汚染が深刻化

産業の発展と共に比例して浮上してくるのが汚染問題。公害に順列はつけられないが、空気汚染は地球規模の問題として優先的に取り上げられ、空気浄化対策が長い間の課題となっていた。米国では特に車社会が導き出した空気汚染を重要視し、ガソリンの無煙化、車のスモッグチェックなど次々と立法化し、施行している。空気汚染がヒトの健康を蝕むのは周知の事実。 最近もハーバード大学の研究グループが、汚染された空気を吸っていると心臓発作の危険性を高めるという報告をAmerican Lung Association(米肺協会)定例会議で発表したばかり。

大気汚染とは別に、現在、他の角度からの空気汚染が問題となっている。米環境保護局(EPA)が発表した報告によると、健康危機のトップクラスにあげられるようになった。「Sick Building Syndrome」---閉め切った屋内に長い間いるうちに、決まって頭痛や気分が悪くなるといった症状が出る疾患をこう呼ぶ。ヒトの健康を食い荒らす建物は、現代社会のいたるところにある。企業オフィス、公共機関のビル、学校も範囲のうち。

煙草、ホルムアルデヒドなどによる室内空気汚染の健康への影響懸念

Mayo Clinicが昨年末ヘルスニュースに掲載したリポートの中で、屋内空気汚染を引き起こす要素に次のようなものを挙げている。 ①煙草の煙…紙巻煙草、葉巻などの煙りが肺がんを起こす危険性があることは周知のこと
②ラドン…土壌や岩石などのガス放出で発生する放射性物質。無味、無臭の厄介な代物。建物の地下の割れ目、壁と床の継ぎ目などから放出される。この粒子を吸い込むことによって肺がんに罹る危険性が指摘されている
③一酸化炭素などの有毒ガス…オイル、天然ガス、暖炉の薪などを燃す時に発生する可能性あり。さらに、現在問題になっているのが揮発性化学物質ホルムアルデヒド。これは、建物の素材から日用品に至るまで様々な製品に配合されている。例えば、壁などに使用するベニヤ合板、壁紙、接着剤、ペンキ、洗剤、化粧品、食器類、カーペット、パーマネントプレス仕立てのシーツや枕カバー、カーテン、果ては紙おむつ、ベビー石鹸にも。含まれていないものは無いといっても言い過ぎではないほど。こうした製品の長期使用からくる影響が懸念されている。

ホルムアルデヒド、低濃度でも長期吸引で慢性疲労や免疫低下招く

ホルムアルデヒドの人体に対する影響を調べた研究は数多く行われているが、1991年フロリダの研究者がホルムアルデヒドと労働者(航空産業従事者)の健康との関連を調べた調査によると、様々な症状が報告されている。例えば労働者の52%に湿疹、目がチカチカするが68%。以下、喉がいがらっぽい(85%)、咳(47%)、息切れ(46%)、胸の痛み(35%)、下痢(24%)、頭痛(75%)、さらに記憶力減退(57%)などとなっている。その他、軽い症状では涙目、吐き気などを挙げる。

一方、ホルムアルデヒドを長期に受けた場合、慢性疲労や免疫システムの低下などの影響が現れる。また、ヒトへの影響とホルムアルデヒド濃度の関係を調べた研究(1996年)では、低い濃度でも定期的に吸い込んでいると確かに障害が現れると指摘した。例えば、濃度1.46~3.1ppmの職場で就業日約半日を平均13年間にわたって仕事をした場合、かなりの割合でDNAプロテインの交差結合が見られたという。一方、0.043ppmを示す学校の教室で授業を受けた子供たちは、疲労、頭痛などの症状を訴えた。

さらに、97年11月中New England Journal of Medicineに掲載された研究報告によると、世界工業国では企業オフィスで働く労働者が全労働人口の半数以上を占めるが、何らかのSick Building症候群に罹る割合はかなりのものと指摘する。その中にはLegionnaires' Disease(在郷軍人病)や流感に似たポンティアック熱に罹る労働者も見られたが、殆どは吐き気、頭痛、咳などと数種の症状をいっぺんに表している者が多かったと報告している。

環境保護団体から米環境保護局(EPA)に汚染対策要請

屋内汚染への問題意識が高まるにつれ、各団体から対策強化を求める声も大きくなってきた。環境保護団体Sierra Clubは93年、空気汚染を改善するため独自のポリシーを確立した。それによると、
①率先して屋内空気汚染対策のための調査プログラム、教育プログラムなどを確立し推進していくようEPAに働きかける
②率先して煙草の煙をなくすようCDC(米疾病予防センター)に働きかける
③率先して、エネルギー節約を考慮した効率的な換気システムを研究するようエネルギー省に働きかける。またこの他にも、消費者の揮発性化学物質を配合する製品情報を「知る権利」を確立、家具、日用品、文房具、ホビー製品、建築用材などに「不適合な使用法では健康に有害となる可能性がある」といったラベル表示を行うよう働きかけることを目標にしている。