日本プロポリス株式会社 品質管理室
これまで一般的にはプロポリスと言えばどれも同じという認識でしたが、様々な研究によりプロポリスの姿が明らかになりつつあります。
1990年代に入り、富山医科薬科大学和漢薬研究所でプロポリスの先駆的系統的な研究が始まりました。
1999年カナダのバンクーバーで開催された国際養蜂会議では、同大学の門田教室のA.H.バンスコタ博士がブラジル産プロポリスの詳細な生化学的評価及び基源植物としてバカリスドラクンクリフォリアを報告し、数10種におよぶ生化学的評価もさることながら、化学的に基源植物を解明した初の研究者として、大いに注目を集めたのは記憶に新しいところです。
[温帯産プロポリスと亜熱帯産プロポリスの成分の比較は・・・]
私たち(富山医科薬科大学和漢薬研究所化学応用部門)は市販品レベルのブラジル産プロポリス及び他国産プロポリス(中国、オランダ等)原料についての検討を行って来ました。
その研究過程でプロポリスは大きく温帯産と亜熱帯産に区分出来、その要因は蜜蜂が活動する範囲の植物に影響されるということを確信するようになりました。
温帯産プロポリスはポプラを主要な基源植物とするプロポリスで中国・オランダ(ヨーロッパ)産があげられますが、それらからカフェイン酸エステルやフラボノイド類、桂皮酸誘導体等を単離同定しています。
カフェイン酸フ
ェネチルエステル (CAPE) はプロポリス中の細胞増殖阻害活性成分として良く知られていますが、オランダ産プロポリスから他に2種のカフェイン酸エステルを単離同定し、それらがCAPEより強い活性を有する事がわかっています。
亜熱帯産のプロポリスとして日本で繁用されているのはブラジル産で、国内への輸入量の80% 以上を占めていると言われています。
これまでの研究で商業的に重要なブラジル産プロポリスから、クロマン誘導体4種、桂皮酸誘導体4種、ラブダンタイプのジテルペン6種、フラボノイド類4種、ベンゾフラン誘導体7種、キナ酸のカフェー酸エステル4種、その他2種の計31種の化合物を単離同定しています。その内3種が新化合物で15種がプロポリスからは初めて単離された化合物でした。
温帯産と亜熱帯産で共通成分はフラボノイド類及び桂皮酸誘導体で、また温帯産のみにみられる特長的な成分は前述のCAPE等のカフェー酸エステル、亜熱帯産に報告のある成分はジテルペン類ですがブラジル産の特長成分と言うとキナ酸のカフェー酸エステル、アルテピリンCなどです。
気候風土の相違、それによる植生の相違により、プロポリスと言ってもこれほどの成分の相違があり、以前にヨーロッパ産より得られた知見が、新しく登場して来たブラジル産には当てはめにくい部分もあるという事が明らかになってきました。
[等級の判別や産地特定がLC-MSで可能に]
ブラジル産原料6種の水及びメタノールエキスを作成し細胞増殖阻害活性、DPPHラジカル消去活性、肝保護活性の3種の試験を用い原料6種間の比較を行ったことにより、これまで香りや色など官能的手法に重きがおかれていた等級評価に科学的な判別法が適用出来る事を見出しました。
さらに前述の31種の化合物についても同様の活性試験を行いエキスの活性に寄与する化合物を調査しました。分析を行う場合、測定に使用できる標準品がある事が重要ですが、今回はすでに同定されているこれら31種の化合物に加え既知の10種(フラボノイド類、桂皮酸誘導体など植物成分として知られている化合物)計41種の化合物をLC-MS分析に供する事が出来、ブラジル産のみならず他産地のプロポリスにも応用可能な分析条件を開発する
事が出来ました。
[LC-MS分析:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を質量分析計(MS)に接続して用いる測定法。HPLCで得られる情報に加え、化合物の分子量やその関連情報が得られ、より詳細な分析が可能になる。]
その結果キナ酸のカフェー酸エステル類やケンフェライド等の肝保護活性成分の含有量がブラジル産の等級評価に利用できる事がわかり、さらに高い等級群と低い等級群でそれぞれ類似のクロマトグラムパターンを示す事もわかりました。またアルテピリンCもその含有量も含め重要なポイントとなる成分であることもわかっています。
前述の、主要な基源植物バカリスドラクンクリフォリアについては部位別(葉、茎、花及び新芽)のLC-MS分析による比較から化学的にバカリスドラクンクリフォリアの新芽がプロポリスの主供給源である事を見出しています。
バカリスドラクンクリフォリアとブラジル産プロポリス間の化学的な裏付けが得られたのは重要なことであり、これらの手法により植物の部位まで把握できたというのは、画期的研究成果のひとつであるといえます。
同じ南米産のプロポリスと言っても、ブラジル産とペルー産では明らかに異なることを確認しており、また、ブラジル産であっても、中南部のイグアスの滝のあるパラナ州のそれと、リオに近い所に位置するミナスジェライス州のものとは違う成分が含まれていることも確認しております。
また、さらに同じミナスジェライス州産であっても季節によって、そしてCPIと呼ばれる新手法によって収穫されたプロポリスも異なる性質を持つことが明らかにされています。
温帯産か亜熱帯産かというおおまかな区分けではなく、ブラジル産の〜州の〜系の〜の季節に収穫されたプロポリスという特定まで可能になると思われます。今までまことしやかにささやかれていた"ユーカリのプロポリスが・・・"とか"ケルセチンがプロポリスに含まれるフラボノイド類の主成分で・・・"とかいったことが死語になり、いわばをそういった神話に終止符が打たれるのは、化学的裏付けこそ必要と思っています。
私たちは、どういったタイプのプロポリスが最も有効成分が高いかも特定することに成功しておりますが、プロポリスの真価が単一のものに断定しきれない今、幅広く成分を含有させるプロポリスが人間の健康をつかさどる機能に対し、有効に働きかけるのではないかと思っています。
あるいは、この州のこの季節にとれたプロポリスとあの州のこの冬の時期にとれたプロポリスをブレンドするのが〜と言った疾患を抱えている人により、有効に働きかけるのでないか・・・というところまで、究明していけるのではないでしょうか?私たちの眠っている機能にスィッチを入れ、起こしてくれるその"キッカケ"作りをプロポリスの自然のパワーがしてくれるのではないかという気がしております。
社内の品質管理室内においては、それぞれの季節のプロポリスの傾向を見出すことも試みておりますが"夏のプロポリスの方が冬のプロポリスよりフラボノイド値が高い"というあたりまえの単純なことではなしに、植物群は豊富であっても、いつ何時スコールに見舞われるか、また、いつまで日照りが続くかしれないといった過酷な夏と、新芽のない、花の咲かない、これもまた厳しい冬とを対比させた時、冬は冬なりの豊富な夏の植物群の代替となりうる強い生命力を持っている植物の要素を持っているに違いなく、それは、また何なのかをも、見極める必要性も感じています。
四季を通じてプロポリスがそれなりの役目を担っていることは間違いないのですから、どの季節のものが一番良い、とは断定しきれません。知りたいことが沢山ありますが化学的特性の見極めが簡便にできる手法をLC-MSによって見出せたことが、更なる目標の足がかりとなると、期待に胸を膨らませています。
プロポリスは成分の集合体として役目を果たすものです。その詳細を知ろうと努力して行く事はプロポリスの発展には必要な事です。プロポリスは産地が異なればその成分構成も異なってくることを認識する事はプロポリスを扱って行く上で大変重要な事です。プロポリスという奥深いもののほんの一部を明らかにしたものに過ぎないと思う一方、ここへ来て思いの他早い速度で、成分の特定が進んでいるのではないかという気もしています。
世界中で100年かけてプロポリスより同定した化合物が200種類ほどであるのに、現在、富山医科薬科大学の門田先生を中心とする研究グループがわずか数年の間に単離同定した化合物が、新化合物、プロポリスから初めて単離された化合物を含め50種類以上。この数字はいったい何を意味するのでしょうか。
私は研究は積み重ねであリ、また熱い思いが介在するものだという事を強く感じないではいられません。私も加わらせていただいているこの研究グループが、プロポリスの研究において一歩も二歩も先んじている事を実感するとともに、驚異的な業績を残していることに畏敬の念を抱いております。
富山医科薬科大学和漢薬研究所の門田教授、手塚先生、バンスコタ先生、松繁先生の諸先輩の業績に今一度敬意を払いたく思います。プロポリスには、まだまだ未知の部分が多く、これから解明されていく事が数多くあるはずです。この私たちの研究グループが必ずまた新たな発見をし、世界に向け発表することでしょう。