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代替医療から統合医療へ 平成13年6月24日、早稲田大学国際会議場(東京都新宿区)で「第1回日本統合医療学会(JIM)」大会が開催された。この中で、渥美和彦JIM代表は、5月にハーバードおよびスタンフォード大学の合同シンポで報告された世界のCAMの最新動向を紹介した。 CAM(Complymentary and Medicine):相補・代替医療の意。一般的に西洋医療以外の医療を指す。カイロプラクティック、漢方、アーユルヴェーダ、心理療法、イメージ療法、気功、食事(栄養)療法、アロマテラピーなどの伝統・伝承医療。WHO(世界保健機構)によると医学的論拠が認められるCAMは世界におよそ100あるといわれる。)
代替医療から統合医療へ、米政府機関(NIH・米国立衛生研究所)が後押し
代替医療から統合医療へ、米政府機関(NIH)が後押し
同学会は昨年12月に発足。その2年前にCAMと西洋医療を融合した統合医療の推進を目指した「日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)」が発足したが、同学会はこれを国際的な学術対応機関として発展させたもの。両会とも代表は日本における人工臓器、レーザー医療の最高峰として知られる渥美和彦氏(東京大学名誉教授)。
近年、先進諸国にとって最も頭の痛い問題が高齢化人口の増加とそれに伴う国民医療費の増大、それによる医療経済の破綻だが、欧米では西洋医療以外の医療(CAM:相補・代替医療)に解決策を求め、エビデンス(医学的な根拠)の調査・研究を行ってきた。ここ数年は、政府機関の後押しもあり、医療現場への導入が進み、西洋医療と代替医療の統合化へと向かっている。
とくに、生理学、臨床医学研究など世界の指導的地位にある※NIH(米国国立衛生研究所)などで代替医療の研究・普及が盛んに進められ、米国では医療費の50%以上を代替医療が占めるまでになり、医療費の削減へとつながっている。
渥美氏はこれまでにJACT大会や国内外の各種シンポジウムを通し、欧米の代替医療への先進的な取り組み紹介するとともに、各種代替医療の有効性の立証と日本の医療現場への導入に邁進してきた。
今大会で、渥美氏は、「米国の通常の医者の60%以上がCAMを推薦しており、47%の医者がCAMを使用している。米国民の半分以上がCAMを使っている」とCAMの急速な浸透を明らかにした。現在、米国に170程ある医科大学の70あまりでCAMの講座が受けられるという。
これに対し、渥美氏は、日本の代替医療への取り組みが数段遅れていることを指摘、なかでも、「食事(栄養)療法は代替医療の骨格ともいえる」(同)が、「米国では日本食を取り入れ、食事を切り替えたことで生活習慣病がだんだん減ってきている。日本はこれと逆で、食事が欧米化し、心身が病み、生活習慣病がどんどん進んでいる」(同)と述べ、食を含めたライフスタイルの欧米崇拝は疾病を招く要因であり、もはや時代遅れのものになっていることを説いた。
数ある代替医療のなかでも、食事(栄養)による疾病の予防・改善は、身近で手っ取り早いということもあってか、もっぱら栄養補助食品(サプリメント)を用いた栄養療法は、1990年代半ば以降米国で加速度的に利用者を増やし、栄養補助食品市場は毎年2ケタ台の伸長率を示す好景気に湧いた。
この中で、とりわけ著しい伸びを示したハーブ(サプリメント)は、セント・ジョンズ・ワート、イチョウ葉、ジンセン(朝鮮人参)、ガーリック、エキナセア、ノコギリヤシ、カバカバなど。またサプリメントではグルコサミン・コンドロイチンがダントツの伸びで、ビタミンE・Cも依然好調な売れ行きを示した。効果・効能が明確なものほど人気で、他に、アミノ酸、抗Q10、魚油オイル(DHA・EPA)、メラトニン、マルチビタミン、カルシウムなども売上げの上位についた。
ただ、こうしたハーブ・サプリメントによる代替医療の利用者が増えるに従い、通常(西洋)医療の従事者の間で、ある問題が浮上してきた。代替医療を利用している患者は、通常の西洋医療を併用していることが多く、医者の与える医薬品とサプリメントとの併用で何か弊害(相互作用)が生じないかということである。
ある種のハーブ・サプリメントについては、医薬品と併用すると薬剤の効き目を阻害するものもある。また、妊娠中の服用など安全性が未検証のものもあり、ハーブ・サプリメントの安易な使用を疑問視する声が米国医師会などからも挙がっていた。これを真っ先に指摘されたのが、天然の抗欝剤として米国で高い人気を誇っていたセント・ジョンズ・ワートである。
とくに需要が多いハーブ・サプリメントについては、医療従事者らによる検証の目も厳しく、20人に一人は欝病ともいわれる米国で国民的ハーブといわれるほど親しまれていたセント・ジョンズ・ワートがまず俎上に乗せられた。同ハーブに関しては昨年4月に、避妊薬や抗HIV薬との相互作用が指摘され、さらに効能までもが疑問視された。その後、有効性について徹底検証が開始されたが、研究途上で、重症の鬱患者には効き目がないといったことがマスコミで取り沙汰され(ハーブの世界的な評価委員会として知られるドイツのコミッションEでは軽度から中度の鬱病患者への同ハーブの有効性を確認している)、そうした影響もあって、その後、売上げが急降下した。
それだけでなく、同ハーブの信頼性の失墜は他の栄養補助食品の売上げにも波及し、米国の景気の減速とも重なって、昨年から今年にかけて、米国栄養補助食品市場は急激な冷え込みを見せた。米国での量販店のハーブ・サプリメント売り上げは、'97年が6億9950万ドル、'99年が12億6千万ドルと80%アップした。だが、この'99年をピークに、2000年の売り上げは前年比1.2%増と鈍化、ほぼ5年、毎年2ケタ台の成長率を示していた米国栄養補助食品市場はここにきて失速した(※米国インフォメーション・リソース社調べ)。
また、'94年施行のDSHEAの見直しを迫る声も挙がるなど、代替医療ブームの中で急成長した米国栄養補助食品市場は皮肉にもそれがピークに達した時、医療サイドからのハーブ・サプリメントの安全性・有効性の再検証を求める声で、一転受難期を迎えることとなった。
日本でもそうだが、これまで栄養補助食品の代替医療としての有効性については、一部のものを除いて、医療従事者からとくに高い評価を得られるということはあまりなかった。全ての素材に対し、医薬品のように十分な基礎・臨床研究が行われているわけではなく、あくまでも民間伝承の延長線上での効能評価にすぎないものが多くあった。
現在、米国栄養補助食品市場で起きている状況は、これまでないがしろにされてきたハーブ・サプリメントが正当なる評価を与えられるべく次なる段階へと進み、代替医療の中枢として超えなければならないハードルが差し出されたというように解釈していいかも知れない。
(1)鬱症状に対するセントジョンズ・ワートの有効性
(2)関節炎に対するグルコサミンとコンドロイチンの有効性
(3)痴呆症の予防にギンコビロバ(イチョウ葉エキス)の有効性
(4)前立腺肥大に対するノコギリパルメットの有効性
(5)がんに対するサメの軟骨の有効性
日本でも疾病の予防・改善が期待される栄養補助食品の評価・認定機構創設の動き
一方、日本における栄養補助食品の位置付けについては、この4月から「保健機能食品」制度(厚生労働省)が施行され、新たに有効性の表示が許可された「保健機能食品」(「特定保健用食品」(※従来の「明らか食品」以外にカプセル・錠剤タイプも対象に)、「栄養機能食品」)というカテゴリーが加わった。効能表示に関しては、ビタミン・ミネラルが基準量含まれている商品に対し、ビタミン・ミネラルの効能表示を許可するというもの。
これに対し、前述の「日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)」では、栄養補助食品の代替医療としての有効性に照準をあて、原料、加工・製造法、商品の安全性・機能性などの観点から独自の評価・認定を与える評価・認証委員会をJACT内に発足すると発表。
委員には、糸川嘉則氏(福井県立大学看護福祉学部長)、帯津良一氏(日本ホリスティック医学協会会長)、奥田拓道氏(熊本県立大学教授)、近藤和雄氏(お茶の水女子大学教授)、吉川敏一氏(京都府立医大教授)、池川哲郎氏(金沢大学教授)ら栄養学、免疫学の第一人者を揃え、学術的根拠に基づいた機能性力価基準を設け、栄養補助食品の一歩踏み込んだ評価・認定を行い、代替医療として有効な栄養補助食品を通常(西洋)医療の従事者や国民へ向けて広く告知していく方針を固めている。
代替医療の中でも、とくに骨格となる食事(栄養)療法についての米国の先進的な取り組みを紹介したが、米国では、これに加え「もう一つの代替医療」に注目が集まっている。医療費が全くかからないという、まるで医療経済の破綻から米国民を救い出す救世主のような、その代替医療の研究に、政府機関も本格的に乗り出している。
日本では少しばかり奇異にうつるかもしれないが、米国の医療従事者がまじめに関心を払いつつあるのが「祈りによる治癒」。直接、患者に施術しない、いわば思念による遠隔療法で、もともと、クリスチャンの多い米国では「祈り」により「心身が癒される」という観念はすでに日常生活に定着している。
この「祈りによる治癒」効果について、NIH(米国立衛生研究所)は、これまでに発表された200以上の研究報告を検証、がんや心臓病といった病気への効果を調査している。また、各大学で「祈り」の治癒メカミズムを科学的に解明しようとさまざまな研究が行われている。ちなみに'98年に、CBSニュースが成人825人を対象に「祈りによる病気を治す効果」について意識調査を行ったところ、下記のような結果が出たという。
・ 祈り療法は回復を早める 80%
また、タイムズ誌とCNNが共同で、成人1,004人を対象に行った意識調査でも、「祈りのヒーリングパワーを信じる」が82%、「病人本人ではなくほかの人が祈っても治癒効果はある」が73%、「重病人が治る際にたびたび神の力が働いている」が77%と、「祈りによる治癒効果」を信じる人々が多いことがわかった。
この他、昨年6月に発表され、注目を浴びたのが、デューク大学医学部(ノースカロライナ)の調査報告。'86年から'92年にかけ、65歳以上の男女4,000人を対象に「健康におよぼす祈りの効果」を調べたところ、「祈ったり、聖書を読んでいる高齢者は、健康で長生きしている」という結論に至ったという。
また、米国の老人学の専門誌に掲載された調査報告によると、6年の調査期間中に亡くなった人の数は、祈らない高齢者の方が約50%も高かったという。ただし、祈りの頻度による違いはなかった。
こうした「祈りによる治癒効果」が次第に明らかになるにつれ、これまで身体を「物」としてとらえてきた西洋医療従事者の間で、「心(精神性)」を重視する気運が高まってきている。
ところで、今後の統合医療の構築においてアイゼンバーグ博士はCAMに対し、以下のような問題点を指摘している。
ここで、再度米国の代替医療への取り組みの経緯と予算について要約する。米国では国民医療費の高騰と'90年代以降、急速に膨れ上がる国民の代替医療への関心を政府機関も見過ごすことができなくなり、代替医療の研究に本腰を入れることになる。
1992年:NIH(米国立衛生研究所)は26番目の研究事務所としてOffice of Alternative Medicine(OAM:代替医療調査室)を設立、本格的に代替医療への研究に取り組む。
こうした徹底検証により、米国で今後5年以内にも各種代替医療の有効性についての何らかの結論が出されるともいわれている。21世紀は遺伝子(ヒトゲノム情報)解析も含め、個人に最も適したテーラーメイド・メディスンの必要性が叫ばれている。代替医療の徹底検証は西洋医療との融合による統合医療を構築していくうえで避けては通れない。医療統合化、医療の再構築に向けて、世界の動きが加速している。
1887年、研究所の1室からスタート。これまでに5人のノーベル賞受賞者を輩出し、今や第一級の生理学、臨床医学研究所として、米国だけでなく全世界の指導的地位を確立している。NIHはメリーランド州ベセスダにあり、現在300エーカー以上の用地に病院、診療所、研究所、訓練所など75の施設が立ち並ぶ。業務を開始した1887年に300ドルだった年間予算も、1996年には120億ドル以上に膨れ上がった。またNIHを支えるスタッフは、研究者、医師、看護婦など約1万9千人。優秀な科学者が名を連ねる。
NIHの使命は、ヒトの健康増進に役立つ知識を追求し伝えていくこと。つまり、@NIH研究室内での研究を推進、A国内または世界中の医科大学、各大学の医学部、病院、研究機関の民間科学者による研究を援助、B研究者の指導・育成を支援、C生物・生体臨床医学の情報を一般に広める、などである。
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