医療統合化の動き、世界的潮流に
〜「第4回JACT大会2000」

平成12年6月2日、3日、4日の3日間、東京女子医科大(弥生記念講堂)で、日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)による「第4回JACT大会2000」が開催された。この中で、渥美和彦JACT理事長が世界の相補・代替医療の現状について報告した。また、日本の相補・代替医療への取り組みの遅れを厳しく指摘した。

日本は医療危機への認識が低い

渥美理事長は“世界における相補・代替医療(※注1)の現況”を次のように報告した。
「昨年後半より今年4月末まで、韓国のソウル、米国のアリゾナ、ドイツのミュンヘン、ハワイにおいて、CAMに関する国際会議が行われたが、日本からの参加者は私の他に数人であった。この1年の間に、世界のCAM(※注2)をめぐる状況は急激に変化している。欧米の各地においてCAMに対する研究は急速に進み、臨床応用は普及し、かつ発展しつつあり、その医療および経済へのインパクトの影響はきわめて大きい。西洋医療とCAMとを統合する医療の流れは、奔流となり、国民運動に発展し、医療革命となりつつある」。

また、こうした世界の医療統合の動きに対し、日本の取り組みが遅れていることを指摘。「日本での学会、マスコミ、企業などから発信される情報は過去の情報に基いており、誤情報の伝達はCAMの発展に対して弊害をもたらす可能性がきわめて高い。一方、戦後から続いた国民皆保険制度は、社会の変化と国民のニーズに対応しきれなくなっており、制度的にも経済的にも自己崩壊の危機にある。しかしながら、それにも拘らず、未だ根本的改革が行われていない。つまり、日本の医療体制は、西洋医学に基いており、CAMが導入される余地がない。国際化、規制緩和により米国の生命保険、病院チェーン、製薬などの企業はCAMを旗印にかかげ、日本への進出を企てており、日本の医療体制は、外圧により内部崩壊をきたすものと考えられる」と述べた。

(※注1)相補・代替医療:伝統医療、ハーブ(薬草)療法、栄養療法、漢方、鍼灸、カイロプラクティック、精神療法、伝承医療などを指す。
(※注2)CAM:Complymentary and Medicineの略。相補・代替医療の意。

早急にCAMの世界的動向を把握する必要性

さらに、「このような、医療危機に対して、政治家、政府、財界、学会、マスコミおよび国民の認識がきわめて低いのが現実である。そこで、CAMの急激な世界的変化への対策は、先ず、CAMに対する世界的動向に対する調査である」とし、 今後のJACTの活動について、次のような検討項目を挙げた。

○CAMの世界的動向の把握として、
1) 国際学会との学術交流による情報の把握 2)政府内に調査機関の設置 3)海外の調査施設との連絡 4)大学、研究所、企業などとのCAMの実態調査、など。

○CAMに対する教育・研究として、
1)CAMの有効性、安全性の検討 2)CAMのコスト/効果、つまり医療経済の分析 3)CAMのメリット、およびデメリットの検討 4)CAM導入の政策プロセスの検討 5)現状の医療体制の改革計画(日本の21世紀医療ビジョン) 6)CAMモデル病院による地域医療計画 7)CAM大学の設立による若手CAMリーダーの教育、など。

○CAMの広い分野への啓蒙として、
1)国民の健康、医療意識の向上と、国民のCAMへの関心の助成 2)CAMの啓蒙講演会、展示会、イベントの実施 3)CAMの啓蒙のための情報伝達(インターネット、出版物など) 4)健康・医療・福祉介護などの諸団体との連携 5)政財界のリーダーの意識改革への働きかけ、など。

「これらは、JACTがなすべき重要かつ本質的課題であり、JACTが総力をあげて、協力すべきところとは協力し、着手すべきところから、緊急に推進する必要がある」とした。

通常医療も、エビデンスが実証されたものは2〜3割

また4月6日より8日まで3日間、ドイツのミュンヘンの大学病院においてシンポジウム“エビデンス(※注3)に基いた相補医療” が行われたが、渥美理事長は同シンポジウムの内容についても報告した。
シンポジウムのサブタイトルは、“エビデンスの現状、方法論への挑戦”というもので、ミュンヘンのメルハート博士と、米国ボストンのアイゼンバーク博士により組織され、欧米の主要メンバーが参加した。

内容は、プレナリーセッションで総論的な展望を行い、植物医学、鍼、エビデンスの手法、古典的自然療法、CAMの安全性、高質性などの各重要項目についてのエビデンスの現状を検討し、さらにフリーコミュニケーションとして一般演題の発表、さらに、ポスターセッションを行うなど多角的なものとなった。

(※注3)エビデンス:医学的な根拠。

ヨーロッパでは、ハーブ、ホメオパシーが伝統医療だが、最近、著しく普及しつつある鍼、また温泉療法なども研究対象となった。

第1日目の4月6日は、プレナリーセッションとして、アイゼンバーク博士の“相補・代替医療の利用の普及と未来へのインパクト”が行われ、米国のNIHの国立相補・代替医療研究センターの推進する研究内容、米国におけるCAMの統計的データ、通常医学とCAMのエビデンス、米国における心身医学、鍼、ハーブ療法の現状が報告された。

また、サンアントニオのマルロー博士の“CAMはエビデンスに基きうるのか?”、グラスゴーのレリー博士の“エビデンスに基いた技術”、ブリストールのエガー博士の“体系的レビューおよびメタアナリシスの可能性と限界”、ミュンヘンのリンデ博士の“CAMの体系的レビュー”、ヨークのクライネン博士の“臨床試験におけるプラセボ効果”、さらにカプチェク博士の“CAMの評価におけるプラセボ”などの講演が行われた。
講演内容について、「特に興味のあったのはCAMはエビデンスのないものが多いといわれるが、通常医療においても、科学的エビデンスが必ずしも実証されたものばかりではなく、統計的には、20〜30%であり、時代とともにその比率は向上してゆくものだという発表であった」と渥美理事長。

ハーブ、カイロプラクティックなどの副作用を報告

また同シンポジウムで、イチョウの葉、セント・ジョンズ・ワート、ガーリック、ショーガ、ワレリアナ根、朝鮮ニンジンなどの各種のハーブに対する有効性と安全性について、支持するデータ、否定するデータが詳細に発表された。また、ハーブと医薬品の併用による副作用、ハーブに含まれる重金属の測定からの警告、鍼の副作用の集計的データ、カイロプラクティックの副作用なども指摘された。「ヨーロッパ諸国でCAMが如何に教育、研究、そして普及したのか。各国の差、ハーブ市場の急速な拡大など興味あるデータが報告され、きわめて有意義な会議であった」(渥美理事長)。

また4月25日〜29日まで、ハワイ島において「第5回代替医療シンポジウム」が行われた。同シンポジウムは、第1回目はワシントンでNIHのOAM(代替医療調査室)の後援により発足し、年に1回行われているが、米国におけるCAMの主要メンバーが集まることで有名である。

「最近の医学は、精神的、霊的なものを無視できなくなってきている」(アクターバーグ博士)

渥美理事長は同シンポジウムについても報告した。初日の4月25日はシンポへの導入として、プレカンファレンスが行われ、アクターバーグ博士による“癒しの儀式”、ドッグ博士による植物医学、ロズマン博士およびプレスラー博士による魂の医学の講演があった。アクターバーグ博士は、「心と身体との関係は西洋医学の歴史の中で、最も困難な哲学的問題であるが、最近の医学は、社会的、精神的、霊的なものを無視できなくなってきている」と述べた。
ドッグ博士は、ハーブを評価するための研究データ、ハーブと医薬品との相互関係、適用について、6つの主なハーブについて述べた。ロズマン博士は、信仰、感情、医師・患者関係、そして身体・精神・魂などの健康に影響する諸データを検討した。

プレナリーセッションは、4月27日、ジェフェン博士による“がんへの旅、癒しと全的人間への変換”であり、がんによる患者、家族および社会の苦悩の中で、医学の究極の目的は何であるか、がんの医療において身体、精神、霊性の最も深いレベルの癒しを願い、全人的変換を願う患者に対して答えるべき7つの問題を提示した。

※記事につきましてはJACTニュース6号(ヘルスインフォネットメディア編集・製作)より抜粋・リライトいたしました。

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