バックナンバー > '99/12月記事
一昨年の12月20日、砂防会館(東京都千代田区)で「国民のための統合医療」の普及を掲げ、JACT(日本代替・相補・伝統医療連合会議)は「第1回設立記念講演会」を開催、学会発足の旗揚げを行った。その後、2回の大会を開催し、各界から大きな期待が集まっている。設立から1年が経過しようとするなか、JACT理事長の渥美和彦氏、理事の阿岸鉄三氏、帯津良一氏に昨年の総括と今年の展望など語っていただいた。
これまで近代医学は個人の医学というものから離れ、何万人という集計から薬はこういうものがいいとか、治療はこういうものがいいという統計的な医学を行ってきました。しかし必ずしもそれが個人にとって最良ではないということで、個人の医療の必要性が出てきました。 そのような点で、今後”テーラーメイド”の医療、つまり患者の個性や体質に適合した医療が必要になります。それには、最近の遺伝の研究が大きく貢献するものと考えられ、JACTでも今後”遺伝とCAM”の研究を推進したいと考えています。 「個人」に最も合った医療が必要。代替医療は今後、遺伝子解析の研究成果を取り入れる必要がある 代替医療が盛んになったもう一つの理由として、ライフスタイルとか食事とか精神的な問題も含めて、治療ということにおいて、こうしたことの重要性が今までの臨床治療学に対するアンチテーゼとして出てきました。医療の融合ということについては、「国民のため」ということを考えた時、西洋医学も東洋医学もそれぞれいいところがあるわけですからそれらを融合させなくても、東洋医学のいいところ、西洋医学のいいところを、個人が時と場合に応じ、最も合ったものを選択していけばいいのではないかと思います。例えば交通事故のような緊急時には西洋医学しかないわけです。ですが、その後の治療においては生体エネルギーであるとか、磁気が有効かもしれません。あるいは気功が必要かも知れません。 個々人によって医療が違うわけです。各医療は独立して存在しますが、まず患者さんを主体にして、この人にはこれがいいといった医療を選択することが「統合医療」と考えています。インテグレイトというのはそういう意味です。つまり、患者の個人において適切な医療を選択できるように支援するということです。ですから、JACTでは東西の医療を全部寄せ集めてこれを一つにまとめようとは考えていません。今後100年、200年後にはあり得るかも知れませんが、そうしたことは今はまだできないと思います。
---医療の統合化ということについて、米国など海外の動きについてはいかがですか
帯津:まだ創刊して2年経ちませんが、アンドルーワイル博士が出している「インテグレイティブ・メディスン」という雑誌があります。表紙のタイトルはインテグレイト・メディスンですが、その下にインテグレイティング・コンベンショナル・アンド・オルタナティブ・メディスンとあります。インテグレイトというのは西洋医学とそれ以外の全ての医療を含んだものというのが彼の考えです。
渥美:JACTでは、2002年に日本で代替医療の国際会議を開きたいという目標を掲げています。その時にそういう定義も検討したいと思います。NIHでオルタナティブ・メディスンとは何かということを議論して非常にぶ厚い本にしてまとめていますが、はっきりとした結論は出ていません。 人間の浅はかな知恵で医療を融合させようとすると、必ずどこかにひずみが生じる
阿岸:医療というのは文化であると思います。その地域の風土や気候などに影響されて生まれてきたものが文化で医療においてもそういうことがいえると思います。日本には日本の風土に合った医療があります。ですから、これを他の医療と融合させるというのはどこか無理があると思います。
渥美:私も阿岸先生と同じように考えています。そういう意味からいうとCAMについても日本独特のCAMというものがあると思います。食事と健康、社会的習慣と健康、地域に発生した民間療法など、我が国の風土に密着したCAMの研究が必要となってきます。 ---代替医療の中には非科学的と批判されがちなものもありますが
帯津:NIHの初代副室長でもあるコロンビア大学のエスキナッチさんが、代替療法にはどうしてもスピリチュアルな要素が入ってくるとおっしゃっていました。今までの西洋医学のマテリアル(物質)を解明しようとする手法で、スピリチュアルな部分にアプローチしようとしても非常に難しいということです。それでスピリチュアルな部分に入り込めないから、それをそのまま切り捨てるというのではなくて、それはそのまま残しておいてマテリアルな手法で解明できるところは解明し、スピリチュアルな部分はそれはそれで認めていかなければいけないとおっしゃっています。私もそう思います。 米国代替医療、背景に科学で割り切れないものに挑戦する精神
阿岸:それについては超科学という理解の仕方でいいんじゃないかと思います。私は、これまでのエビデンスベースト・メディスン(EBM)というものは、医療の節減に役立っても医療の進歩には役立たない、逆に足枷になるものだと思っています。
渥美:私は、それが米国を発展させた理由の一つでもあると思います。多様なものを受け入れながら、たとえ矛盾をかかえながらも、カオスの中でいろんなものに挑戦する、これこそが米国を進歩させた原動力であり、そこから代替医療も出てきました。
渥美:代替医療の理論研究会を作りたいと思います。”EBMと医療”、あるいは”超科学と医療”の問題はCAMにとっても重要な課題であり、CAM独自の理論体系を創り出す必要があるからです。エビデンスベーストで追い込めるところは何割かありますが、それ以外はダメといっていますと代替医療の本質を見誤る可能性があります。
帯津:私の病院では鍼灸に漢方、健康食品にアロマや気功や瞑想までいろいろなことをやっていますが、患者さんは気持ちのいいことが多いといいます。西洋医学では薬を飲んでも注射を打っても気持ちがいいということがありません。気功やアロマですと、今までと違ってやる気が出てくるといいます。そうしたことが、特にお年寄りには必要じゃないかと思います。
渥美:高齢者ということについては、私は代替医療によるシルバータウン構想というものを立てましたが、これは特にシルバー対象ということではなくて若い人達も共存できるようなオルタナティブタウンというものを考えようと思っています。クリニックがあって、研究所があって、滞在できるホテルがあって、そこで個々に合った療法が選択できてというようなものです。実際にモデルを作ってみようということで、今年研究会をスタートさせようと思っています。
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