アメリカ、メリーランド州およびフィンランドの研究グループが、フィンランドで行われたがん予防に関する研究資料を分析し、男性の肺がん患者1,144人のビタミンEの摂取状況を調べたところ、アルファトコフェロール(ビタミンE)の摂取量と肺がん罹患率とは関連することが判ったという。
とくに60歳以下の男性の場合、40年間喫煙したとしてもビタミンEを飲んでいると、肺がん罹患の危険性が低くなることが明らかになったという。
また、バッファロー大学の研究グループが、35歳から79歳の男女1,616人の抗酸化系ビタミンと肺機能の関係を調べたところ、ビタミンEとベータクリプトキサンチン(オレンジに含まれる色素)が血中で高濃度のグループは低濃度グループと比べ肺機能が高かったという報告もある(The American Journal of Respiratory and Critical Care Magazine誌'01/4月号)。
この中で、ビタミンC、ビタミンA、ルテイン、ベータカロチン、リコペンなどの抗酸化系ビタミンの血中濃度が低いと肺機能が衰えていることも判ったという。
合成ベータカロチン、煙草の煙に含まれる発がん性物質と相互作用
ただ、気にかかる点として、それら栄養成分を一般の食品素材ではなくサプリメントで摂取した場合、むしろがん罹患を促進する可能性があると報告されていることだ。これまでにも幾度となく報じられたが、抗酸化系ビタミンのベータカロチンの錠剤を喫煙者が摂った場合、逆に肺がん罹患の危険性が増大するという。
米国National Cancer InstituteがフィンランドのNational Public Health Instituteと共同で行った50歳から69歳までの男性喫煙者2万9千133人を対象にした栄養介入試験(ATBC研究)で明らかになったもので、被験者は1日に平均20本のタバコを36年間吸っており、無作為に、1)合成ビタミンE50IU、2)合成ベータカロチン20mg、3)ビタミンEとベータカロチン併用、4)偽薬、という4つの投与グループに分けた。
結果、876人が肺がんを発病、564人が死亡した。そのうち、ビタミンEグループの発病者は2%と低く、ベータカロチングループは16%と高い結果が出た。ただ、毎日の喫煙量が20本以下でアルコールを摂取しない被験者の場合、ベータカロチン投与における評価はできなかった。
喫煙者への合成ベータカロチン投与ついては、その後、1996年に発表された米国のCARET studyでも否定的な見解が下された。
試験は、喫煙者あるいは以前タバコを吸っていた被験者および職場環境にアスベストがある労働者18,000人以上を対象に、半数に偽薬を、残り半数に合成ベータカロチン30mgとビタミンA25000IUを与えるというものだった。
しかしながら、この研究は予定より21ケ月早く中断された。というのも、ビタミン投与グループは偽薬グループに比べ、肺がん罹患が28%、死亡率が17%も高くなったためだ。
その後、こうした合成ベータカロチンの弊害については、「イタチによる実験で、合成ベータカロチンを多量投与したところ、特に煙草の影響を受けたグループとアスベスト環境にいたグループで、肺がんの危険性が増大した」と報じられている(Journal of the National Cancer Institute誌'99/1月号)。
この原因については、「煙草の煙に含まれる発がん性物質との相互作用を行う酵素の生成を合成ベータカロチンが高めている」とされている(Nature誌'99年/4月号)。同誌によると、イタリアの研究者およびテキサスの研究グループが合成ベータカロチンを豊富に含んだ餌をラットに与えたところ、肺にある種のがんを誘発させる酵素が増大したという。
抗酸化系ビタミン(サプリメント)、喫煙者の摂取はがん死を高めるという報告も
ベータカロチンについては、強力な抗酸化作用があり、フリーラジカル(活性酸素)を撃退することから、がん以外にも心臓、眼、皮膚などの疾患、さらに免疫機能の強化に有効とされている。これまでにも、前立腺がんや乳がん、心筋梗塞などへの有効性が報じられている。しかしながら、合成ベータカロチンの喫煙者の利用は非常にリスキーなものとなっている。
この点、米国American Heart Associationの栄養素諮問委員会でも、ベータカロチンの抗酸化作用は評価できるものの、合成ベータカロチン単体ではなく果物や野菜などからの複合的な抗酸化物質(カロチノイド)を自然な形で摂ることが望ましいとの見解を示している。
実際に、英国の研究グループ行った報告で、1日に少なくともタバコ20本を10年間吸いつづけている喫煙者266人を対象に食生活などの聞き取り調査を行ったところ、1日に大さじ1杯かそれ以上に相当する量の野菜、果物を食べていると喫煙者の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹る危険性が半減することが分かったという(American Thoracic Society学会)。
合成ベータカロチン以外にも、喫煙者とサプリメントタイプの抗酸化系ビタミンとの相性は良くないようだ。
抗酸化ビタミンといわれるA、C、Eと総合ビタミン剤を組合わせて摂取すると心疾患、卒中による死亡率は減少するが、喫煙者(男性)の場合、がんによる死亡率が高まるという米国アトランタ連邦防疫センター(CDC)の研究グループによるショッキングな報告もある(American Journal of Epidemiology誌'00/7月号)。
これは、30歳以上の100万人以上の被験者を対象にした7年間にわたるビタミン摂取の調査結果によるもので、総合ビタミン剤と抗酸化ビタミンのA、またはCかEの1種類を組み合せて摂取した被験者の心疾患、卒中による死亡率はビタミン剤を全く摂取しない人に比べ15%低いことが認められたが、喫煙者の場合、総合ビタミン剤または抗酸化ビタミンを摂取した男性は、タバコを吸わない男性よりもがんによる死亡率が高いことが判明したという。
さらに、男性の喫煙者がビタミン剤を摂取した場合、ビタミン剤を摂取しない場合と比べ、前立腺がんによる死亡率が高いことも認められたという。
B6やセレン、肺がんの罹患リスク低下に関与
この他、肺がん罹患のリスク低下に関与する栄養成分として、ビタミンB6やセレン(セレニウム)が挙がっている。
米国立がん研究所の研究グループによる研究で、過去にフィンランドで行われた合成ベータカロチンとビタミンE投与の大規模試験に参加した男性喫煙者約30,000人を5年-8年間追跡調査し、結果を分析したもので、対象者の平均年齢は59歳で、期間中に肺がんに罹患した300名、罹患しなかった300名を調べた。
これによると、試験中それぞれにビタミン剤を投与したが、ビタミンB群の中でも特にB6の血清濃度が肺がん罹患者のほうが非罹患者より低いことがわかったという(American Journal of Epidemiology誌'01/4月号)。ビタミンB6は酵母、玄米、大豆などに多く含まれる栄養素で、妊娠初期に起こるつわりや月経前症候群(PMS)による症状の緩和にも有効とされている。
また、ブロッコリー、キャベツ、セロリ、マッシュルーム、ガーリックなどに多く含まれるセレンも肺がん罹患のリスク低下に関与するとされている(American Journal of Epidemiology誌'98/11月号)。
フィンランドの研究グループが、長期にセレンを摂取している肺がん患者95人と同年代の健常者190人を比較したところ、血中のセレン濃度が比較的低い(1リットル当たり53.2〜57.8マイクログラム)場合、肺がんの罹患率が増すことがわかったという。また、血中セレン濃度が最も高い被験者の肺がん罹患率は60%ほど低かったという。さらに、喫煙習慣のある被験者の中で、最も血中セレン濃度が高いグループは肺がんの危険性が84%減少していたという。
セレンについては、日本の土壌には比較的多く含まれており、とくに摂取に留意する必要はないとされている。セレンは、乳がん罹患にも関与しているとされ、日本人女性は乳がんの罹患率が低いが、土壌中にセレンの少ない米国へ移住した場合、乳がんの罹患率が高まることがいわれている。
リンゴやトマトに肺機能促進効果
この他、呼吸器系の疾患に関わる研究報告で、リンゴやトマトが有効性を発揮することが報告されている。American Thoracic Society学会で英国の研究グループが発表したもので、成人2,633人を対象に、1991年と2000年に1秒間に肺から吐く空気量の調査を行ったと週にリンゴを5個以上食べると、かなり呼気量が増すことが分かったという。またトマトでは、週に3回以上で同様な有効性がみられたという。これは、トマト、リンゴに含まれる強い抗酸化物質によるものとみられている。
リンゴの肺機能の活性化作用については、英国のメディカル誌「Thorax」が一週間に少なくともリンゴを5個摂取すると、肺機能が活発になるという研究報告を掲載している。ロンドンの研究グループが、45から59歳のウェールズの男性 2,500人を対象にした5年間の追跡調査を分析したところ、一週間に少なくともリンゴを5個食べる人は食べない人に比べ、1秒間の肺活量が多いことが判ったという。また、リンゴほどの効果はないが、ビタミンEも肺活量を増やすことが認められたという。
この他、ビタミンC、β-カロチン、柑橘類と肺活量についても調査したが、関連性は認められず、リンゴに含まれるフラボノイドのケルセチンが肺機能を高めているものとみられている。
またトマトについても豊富に含まれるカロチノイド色素(抗酸化物質)のリコペンが運動で引き起こされる喘息症状に有効に作用するということも報告されている。イスラエルの研究グループによる報告で、運動で誘発される喘息を患う患者20人に1日1回リコペン、あるいは偽薬を与えたところ、1週間でリコペングループは運動後の喘息の発症が55%低下したという。
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