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抗酸化ビタミン含むサプリメントで寿命が縮まる!
米医師会誌、23万人服用試験の分析を発表

3月1日付けの朝日新聞によると、米医師会誌が抗酸化ビタミンの有害説を発表したという。ビタミンE、ベータカロチンといった抗酸化ビタミンを含むサプリメント関連の過去の試験を分析した研究で、それらを摂取しなかった人と比べると死亡率が高まることが判ったという。68件、被験者23万人におよぶ調査の分析結果というが、はたして、抗酸化ビタミンは有害なのか。

抗酸化ビタミンは「短命ビタミン」なのか

同紙によると、デンマーク・コペンハーゲン大などのグループが、ビタミンA、C、E、ベータカロチン、セレンを含むサプリメントに関する68件の臨床試験(被験者23万2千600人)を無作為に抽出・分析したところ、A、E、ベータカロチンを摂取した人は、摂取しない人と比べ死亡率が5%高くなっていることが判明(C、セレンでは、特に関連はみられず)したという。試験で使用したのは合成ビタミン。

はたして、抗酸化ビタミンは人に有害な「短命ビタミン」なのか---。
とすれば、健康フリークはわざわざ命を縮めるため日夜サプリを摂取しているようなもの。
確かにここ数年、抗酸化ビタミン否定説が米国の権威ある医療機関で取りざたされている。が、疑問なのが、臨床試験の被験者は健常者か、あるいは疾患者で特殊な状態にある者か、医薬品併用で相互作用の問題は、天然ビタミンではどうなのか、など。
後述するが、周知の「ベータカロチン肺がん促進説」はある特殊な被験者を対象にした合成ビタミン投与の結果であり、健常者への天然ベータカロチン投与下のガン予防研究とはほど遠い。

仮に、抗酸化ビタミンが「短命ビタミン」になり得るとするならば、ある「条件」が伴った場合が推測される。その「条件」とは、一体どのようなものか---。
その前に、ここ数年米国で論議されている抗酸化ビタミンの是非について総括してみたい。

抗酸化ビタミン、がんへの有効性に関する見直しを迫る議論が米国で沸騰

2003年夏、米国政府の諮問委員会で、がんの初期治療および予防の権威が集まったUnited States Preventive Service Task Force(USPSTF)がビタミンに関する これまでの研究を数10件ほど分析したところ、"不正確あるいは矛盾する"研究が多く、ビタミン摂取とがん予防の関連性を示す証拠は殆どない、という結論に達したと報告 。ビタミンの、とくにがんへの有効性に関する見直しを迫る議論が米国で沸騰した。

USPSTFはビタミンA、C、Eなどの抗酸化ビタミンについて、慎重に組み立てられた計画性にすぐれた大規模研究はほとんど行われていないことを挙げ、 Eについては、1件の大規模研究で、前立腺がんの危険性を下げる可能性があると認められるものの、それ以外では様々な結果が出ていること、また、ベータカロチンに ついては、ヘビースモーカーにおいては逆にがんのリスクを高めるものであることを指摘した。

ビタミンE、心臓病などによる死亡を減少させず、卒中の罹患率も下げない

同時期、権威ある医学誌「The Lancet」が、ビタミンの各種疾患への予防効果について取り上げ、クリーブランド・クリニック財団の研究グループが、主要研究15件、 被験者のべ22万人を分析したところ、ビタミンEは心臓病などによる死亡を減少させず、卒中の罹患率も下げていないこと、ベータカロチンについては心臓病死の割合を0.3%、 その他の死因を0.4%増大させていることなど、否定的な見解を報じた。

その後も、同誌で、ビタミンのがん予防への有効性に疑問を投げかける内容を報じている。デンマークの研究グループが、この20年間に発表されたビタミンA、C、E、セレンに関する研究結果(被験者総数17万人)14件を分析したところ、「セレンの肝臓がんに対する有効性に関しては、さらに研究の余地があるが、ビタミンA、C、Eサプリメントのがん予防に関する研究は時間の無駄」と結論付けた。
まるで抗酸化ビタミンはがん予防には無用とも言わんばかりだが、その後、あろうことか「ビタミンE有害論」へと発展していく。

米国医師会誌「JAMA」(05/3月号)が、ビタミンEはガンや心血管疾患の予防に効果がないばかりか、心不全の危険が高まるという研究報告を掲載する。 研究はカナダのマクマスター大学のエバ・ロン博士らによるもので、1993年から99年にかけ55歳以上の心血管疾患および糖尿病の患者約9600人を2グループに分け、ひとつのグループにビタミンE400IU、もうひとつのグループにプラセボをそれぞれ毎日服用させ、さらに、この調査を終えた後、1999年から2003年にかけ、死亡者と継続拒否した人を除く約4000人を対象に同様の調査を実施。
いずれの調査でも、ビタミンEを摂取したグループは、プラセボグループより心不全のリスクが13%高いことが判明、心臓発作やガン罹患のリスクは変わらなかったという。研究報告は、心血管病または糖尿病の患者においては、ビタミンEサプリメントの長期摂取にガンおよび心血管病の予防効果はなく、逆に心臓病のリスクを高める危険がある と結論づけている。

その後も、ビタミンEに不利な状況が続く。Journal of the National Cancer Institute(05/4月号)によると、 カナダの研究者グループが、化学療法を行っている頭部と首のがん患者540人に、ビタミンE、ベータカロチン、プラセボのどれかを3ヶ月間与え、研究途中で、ベータカロチンが肺がんの危険性を増大させるという指摘から、ベータカロチンの摂取を中止。その後、52ヶ月間のフォローアップ期間で、新しくがんと診断された患者は113人、 がんの再発患者は119人あったという。また、治療段階で、ビタミンEグループはプラセボグループに比べ、がんの危険性が86%増大することが指摘された。治療が中止された後、前のビタミンEグループは前のプラセボグループに比べ、がんに罹る危険性は29%低下したことが分ったという。

ビタミンE、健常者を対象にした試験では心臓病による死亡率が24%減少

ここ数年、上記のような試験からビタミンE有害論が相次いだが、臨床試験は被験者は疾患者を対象にしたもの。それらを健常者に適用するのはどうか。折りよく、米国医師会誌「JAMA」からビタミンE肯定論が飛び出す。2005年7月号で、「ビタミンEは女性の心臓病による死亡リスクを減少する」という研究内容を報じた。オレゴン州立大学のマレット・トラバー博士らが45歳以上の健康な女性約4万人を対象に1992年から2004年にかけ調査を実施。2万人ずつの2グループに分け、 片方のグループにビタミンE600IU、もうひとつのグループにプラセボをそれぞれ1日おきに摂取してもらったところ、プラセボグループに比べ、ビタミンEグループの心臓病による死亡率が24%少ないことが分かった。65歳以上になるとさらに差は大きく、49%になったという。

これを受け、健康食品業界を代表する米国栄養評議会(CRN)のアンドリュー・シャオ博士は「これまでの研究報告は、すでに病気を抱える高齢者を対象としたもので、統計的にもなんらかの問題があると指摘されている。消費者の困惑を招いただけ」とそれまでのネガティブ報道を批判した。

「ベータカロチン有害説」とはいかなるものだったのか

ビタミンE有害説の根拠となる臨床試験において、対象となる被験者の状態や使用されるビタミンが天然か合成かなどが厳密に問われることとなるが、「ベータカロチン有害説」の論拠となった臨床試験についてもまさにこのことが指摘されている。

ベータカロチンについては、10数年前、緑黄色野菜に含まれるカロチノイド色素がガン予防に有用との仮説検証から、中国、フィンランド、米国にて、三大栄養介入試験といわれる長期試験が行われ、最初の中国のリン・シャン地区におけるE、セレン、ベータカロチン(合成品)の組み合わせによる介入試験では胃がんの減少などの成果から、これらの栄養成分の有用性が認められる形となった。ただ、一方で、土壌のセレン不足を補ったことが功を奏したのではとの見方もある。

その後、米国National Cancer InstituteがフィンランドのNational Public Health Instituteと共同で行った50歳から69歳までの男性喫煙者2万9千133人を対象にした栄養介入試験(ATBC研究)では、被験者は1日に平均20本のタバコを36年間吸っていたが、無作為に、1)合成ビタミンE50IU、2)合成ベータカロチン20mg、3)ビタミンEとベータカロチン併用、4)偽薬、というグループに分け、試験を行ったところ、876人が肺がんを発病、564人が死亡した。そのうち、ビタミンEグループの発病者は2%と低く、ベータカロチングループは16%と高い結果が出た。ただし、毎日の喫煙量が20本以下でアルコールを摂取しない被験者の場合、ベータカロチン投与における評価はできなかったといわれている。

さらに、1996年に発表された米国のBeta-Carotene and Retinol Efficacy Trial(CARET)研究では、喫煙者あるいは以前タバコを吸っていた被験者および職場環境にアスベストがある労働者18,000人以上を対象に、半数に偽薬を、残り半数に合成ベータカロチン30mgとビタミンA(25000IU)を与えたところ、ビタミン投与グループは偽薬グループに比べ、肺がん罹患率が28%、死亡率が17%も高くなったという結果が出た。これにより、喫煙とベータカロチン(合成)との組み合わせは、逆に肺がんを促進しかねないとの結論から、試験は満了前で中止となった。

こうした大規模介入試験で、ベータカロチン(合成)の旗色は悪くなるが、 食材から摂る天然のベータカロチンについては、肺がんを促進する危険性はないことが、Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention(04/1月号)で報告されている。 およそ399,765人を対象に、7〜16年間の調査で3,155件の肺がんが新たに診断されたが、分析の結果、天然の食材からのベータカロチン摂取は肺がんの危険性となんら関連性 がないことが判ったという。

また、英国の研究グループが行った報告で、1日に少なくともタバコ20本を10年間吸いつづけている喫煙者266人を対象に食生活などの聞き取り調査を行ったところ、1日に大さじ1杯かそれ以上に相当する量の野菜、果物を食べていると喫煙者の慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹る危険性が半減することが分かったという(American Thoracic Society学会)。

抗酸化ビタミン+喫煙で、死亡率が高まる

前述の、ある「条件」が伴った時、抗酸化ビタミンが「有害ビタミン」に変わる可能性がある、とはどういうことか。 CARET研究で用いられた合成ベータカロチンについて、Journal of the National Cancer Institute(99/1月号)では、「イタチによる実験で、合成ベータカロチンを多量投与したところ、特に煙草の影響を受けたグループとアスベスト環境にいたグループで、肺がんの危険性が増大した」と報じている。

また、Nature(99年/4月号)では、「煙草の煙に含まれる発がん性物質との相互作用を行う酵素の生成を合成ベータカロチンが高めている」と報じている。イタリアの研究者およびテキサスの研究グループが合成ベータカロチンを豊富に含んだ餌をラットに与えたところ、肺にある種のがんを誘発させる酵素が増大したという。

さらに、American Journal of Epidemiology(00/7月号)でも、合成ベータカロチン以外にも、喫煙者と抗酸化ビタミンとの相性は良くないといった内容を報じている。 抗酸化ビタミンに喫煙という「条件」が絡むと、がん死亡率が高まる。抗酸化ビタミンが「有害ビタミン」に変貌する可能性があるというわけだ。これについて、 アトランタ連邦防疫センター(CDC)の研究グループが、抗酸化ビタミンといわれるA、C、Eと総合ビタミン剤を組み合わせて摂取すると心疾患、卒中による死亡率は減少するが、喫煙者(男性)の場合、がんによる死亡率が高まる、と報告している。

この研究は、30歳以上の100万人以上の被験者を対象にした7年間にわたるビタミン摂取の調査結果によるもので、総合ビタミン剤と抗酸化ビタミンのA、またはCかEの1種類を組み合せて摂取した被験者の心疾患、卒中による死亡率はビタミン剤を全く摂取しない人に比べ15%低いことが認められたが、喫煙者の場合、総合ビタミン剤または抗酸化ビタミンを摂取した男性は、タバコを吸わない男性よりもがんによる死亡率が高いことが判明したという。さらに、男性の喫煙者がビタミン剤を摂取した場合、ビタミン剤を摂取しない場合と比べ、前立腺がんによる死亡率が高いことも認められたという。


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