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米国で売上げ急伸1ハーブ、セント・ジョンズ・ワート 激しい競争社会でストレスにさらされ、20人にひとりが鬱傾向にあるといわれる米国。この米国でここ2年ほど天然の抗鬱ハーブとして爆発的な人気を博しているセント・ジョンズ・ワート(西洋オトギリ草、以下略:SJW)。このハーブの使用に待ったがかかった。医薬品との併用の際、薬物阻害作用があるという。米国では2月にLancet誌がこれを報じ、日本でも5月に入って厚生省が警告を発した。
ストレス社会の”癒し”ハーブ、1997年の米国での売上昨対比は20,000%
1997年の売上昨対比は20,000%(Nutrition Business Journal誌)---。
そのSJWに赤信号が点滅している---。 そうした薬剤としても実績を持つSJWがなぜ、ここにきて米国で槍玉にあがっているのか。この背景として、米国医療界を絡めた「ある動き」を見過ごすことができない。今回のSJWの指摘はそれを象徴するものであり、序章に過ぎないともいえる。 血液凝固防止薬、経口避妊薬、気管支拡張薬などの効果が減少
今、米国医療界で起きている動きとは何か。 もう一つは、スイスの研究グループによるもので、心臓移植した患者(61歳と63歳)が医師の監督下でシクロスポリン(免疫抑制剤)その他を服用していたが、心内膜心筋組織検査をしたところ、シクロスポリンの血中濃度が下がって移植臓器に対する拒否反応を示したという。患者が検査の3週間まえから1日300mgのSJWを服用していたことが判明したため、その服用を直ちに中止したところ、シクロスポリンの濃度が回復したという。 こうした、海外での症例報告を受け、日本の厚生省でも、5月に入って、「セント・ジョーンズ・ワートを含有する製品を摂取することにより、薬物代謝酵素が誘導され、インジナビル(抗HIV薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)、経口避妊薬の効果が減少することが報告されている」と警告。「医薬品を服用する場合にはSJW含有食品の摂取を控えるなどの注意を表示するよう、各都道府県、各検疫所、関係団体を通じ、関係営業者等に周知、指導した」とした。 薬剤阻害作用以外に、効果がみられないという報告も5月に挙がっている(American Psychiatric Associationの年次総会)。テネシー州の研究グループが、11ヵ所のメディカルセンターからの200人の鬱病患者を対象に8週間、SJWと偽薬を服用させて比較調査したところ、効果に差がみられなかったという。その際、SJWの服用量は、1日900mgで、4週間続けても反応が変らない場合1日1,200mgに増加したが、数人に副作用がみられたという。
SJWと他の薬剤との併用の際に阻害作用が見つかったことは別にしても、平常時における効果にも疑問という報告はSJWにとって大きなダメージだ。これまでの、ドイツをはじめ、イギリス、スイスなど欧州各国でのSJWの研究成果が全て覆えされかねない。テネシーグループの研究成果については、今後さらに長期の検証が必要とされるが、実際にどうなのだろうか。これまでいわれてきたSJWの抗鬱効果とは一体本物なのか。
2400年前から使用、「薬学の父」ヒポクラテスも処方
SJWは2400年前から使用されていたと言われる。ラテン名はHypericum perforatum。Hyperは「超越」、icum=eikonは「不可解なもの」意。またperforatumは穿孔を意味するが、これは日に透かしてみると葉に含まれる油と樹脂の成分が半透明の孔の様に見えるため。
SJWの花冠は黄色い5枚花弁、丈は30〜90センチほどに成長する。ヨーロッパ、西アジア、北アフリカに自然分布する野草であったが、その後移植され、現在、オーストラリア、北アメリカ太平洋岸北西部などにも野生し、特にオレゴン州ではKlamath Weedと呼ばれている。 重症の鬱病に対する効果は不明、中程度に効果 SJWの抗鬱効果については、特にドイツでは1980年代半ばから数多くの研究がされているが、ドイツのPsychiatry Neurol誌1994年10月号に掲載されたGiessen大学の3250人を対象とした、LI 160と呼ばれるSJWアルコール抽出エキスを使用しての調査結果では、被験者の80%に抗鬱、精神安定、鎮静の効果が見られ、軽い副作用が起きた被験者は2.4%のみであったという。またBonn大学の研究では季節の影響による鬱病にも効果が見られたという。さらに、SJWの場合、他の抗欝剤のように深い睡眠を妨げることがないということが挙げられている。 米国でSJWのブームのきっかけをつくったBritish Medical Journal誌1996年8月号では、軽度から中度の鬱病患者1757人を対象にした23の比較調査による大掛かりな分析報告を掲載しているが、これによるとSJWエキス(LI 160・SJWアルコール抽出エキス、1日300mg〜1000mg服用)は偽薬と比べ非常に優れた効果が認められ、一般抗鬱剤との比較において同様の効果が認められたという。 副作用を訴えた患者についても一般抗鬱剤52.8%に対し、SJWエキスは18.3%で少なかったという。但し、これらの報告は4〜8週間と比較的短期間のものが多く、また比較に使われた一般抗鬱剤が少量でもあり、「今後、長期間で服用量を変えた一般抗鬱剤使用との比較研究がされた場合、結果が異なることも考えられる」とされた。
また欧州におけるSJWの研究や普及は早くから行われており、英国、スイス、チェコ、ポーランド、ルーマニア、旧ソ連などでは、政府承認の薬局方で扱われ、しっかりした基準が定められている。 こうした数多くのデータが、SJWの抗鬱効果を裏付けているが、重度の鬱病についてはまだ不明であり、軽度または中度に効果があるという報告が多いといわれる。 SJWの成分の内、抗鬱作用のあるものがどれか明確ではないが、成分の1つhyperforinにセロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミンの3つに対する均等な再取込み阻害効果があるとされ、hyperforinが有力視されている。また、この3つに対する均等な阻害効果はhyperforin独特のものであり、これがSJWの副作用の少ない原因ではないかともみられている。この他、SJWには、抗ウィルス活性、抗菌、切傷、打撲傷、火傷、止血などの効用がこれまでに報告されている。 妊娠中や産後は使用を避けたほうがよい SJWの副作用についてであるが、全くないわけでもない。光感作性の作用を持つ成分(hypericin, pseudohypericin)を含むため、強い日差しに当たると、ヒトにおいて第1光感作性の症状である皮膚の痒み、腫れ、湿疹などが起きる場合がある。金髪でブルーの瞳の皮膚の弱い白系人種にこれが多い。動物の場合、特に羊などは光感作性に非常に敏感で、日の下でSJWを大量に食した場合、第2光感作性の症状を誘発、SJWの蛋白その他が酸素反応して赤血球を破壊し貧血や肝不全を起して死亡する場合もあるといわれる。ただし、この第2光感作性症状はヒトには起らないと見られている。 SJWはまた月経促進剤や利尿剤として用いられることもあり、受胎を妨げることも考えられる。妊娠中や産後母乳を与える場合など、SJWの使用は避けるべきといわれる。 FDAのSpecial Nutritional Adverse Effects Monitoring Systemは栄養素のネガディブ情報を消費者レベルも含め収集報告する機関であるが、これまでに寄せられていたSJWに関する副作用については、殆どが軽い症状の胃の荒れ、不安感、欝症状の増幅などである。中には、吐血、血液凝集物質への影響、心臓疾患症状、アレルギー症状、肝不全、卒中、妄想、発作など、重視すべき症状も多少報告されているが、これらのデータは、副作用を起した本人の年齢、健康状態、疾患の有無、その場の状況、その他関連事項についての情報がないため、正確な分析評価は不可能とされている。 米国でこの5年ほどの間に、”有効な代替医療”が明らかに SJWが米国で爆発的な人気を呼ぶ中、米国のNIMH(National Institute of Mental Health)とOffice of Alternative Medicineでは、SJWとZoloftoなどの抗鬱剤との3ケ年の比較研究を開始したが、この研究では比較的多量の服用量での比較、また重症鬱病患者のテストも試みるといわれる。
こうしたヒトを対象とした包括テストの中で、次第にSJWの全容が明らかになりつつあるが、米国ではSJWに代表されるようなハーブ(薬草)の有効性(薬剤との相互作用も含めた)の解明を急ピッチで進める必要に迫られている。
そのため、'92年に米国立衛生研究所(NIH)に調査室(OAM)を設置し、代替医療の研究に着手することとなる。さらに年々研究予算を追加し、'99年2月にOAMはNCCAM(National Center Complymentary and Medicine)と名称を変更、相補・代替医療の調査専門機関として始動した。また、予算も一気に5,000万ドル(今年は6,870万ドルの予算)と大幅に組み、13の大学および研究機関に栄養及び自然療法、精神コントロール、マッサージ、気功、薬草など各種代替療法の有効性についての研究テーマを振り分けた。
ハーブ(薬草)と薬剤を併用した際の相互作用の検証が必要に ここ数年、米国民の代替医療への傾倒は高まる一方だが、ここである問題が浮上してきた。代替医療と西洋医療とを併用した際に生じる相互作用、弊害だ。バイオフィードバックや心理療法など精神療法に関わるものはむしろ相乗効果が期待できるが、ハーブや漢方、栄養補助食品などと薬剤との相互作用については十分な解明がされていないだけに不安材料が残るところ。 代替医療は西洋医療と併用して行われているケースが多いにも関わらず、医師に代替医療との併用を告げる患者が少なく、特に米国でここ数年人気が沸騰している各種ハーブ(薬草)と薬剤との相互作用を懸念する声が専門家から挙がっていた。SJWは、米国で国民的ハーブといえるほど急速に普及していることもあり、研究対象として真っ先に俎上に乗せられた。 こうしたハーブなどに代表される代替医療に対し、米国医師会も警鐘を鳴らしているが、代替療法を取り上げた最近の書籍(邦訳:「代替療法の医学的証拠」)の中でも、安易な代替医療の利用に警告を発している。今回のSJWの件はうがった見方をすればそうした医師会サイドからの代替医療(ハーブ)叩きととれなくもないが、ここはむしろ、健全な形でのハーブ利用の指針を示したものと判断したい。米国においてはすでに西洋医療を超えた包括的な医療の必要にさし迫られているからだ。
ともあれ、米国は代替医療の本格的な研究に乗り出したが、今後「こうした動き」の中で西洋医療と各種代替医療と併合が図られ、それぞれのメリットを活かした統合的な医療の構築がなされていくことが予測される。
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