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ハーブ代替医療、米国NIHが「セント・ジョンズワート」の研究へ本腰
米国では代替医療(西洋医療に替わるもの)として、医療関係者の3分の1以上がハーブ(薬草)を用いているといわれる。この背景にはGNPの14%を占めるほど膨れあがった国民医療費の歯止め策として、代替医療に期待を寄せざるを得ない米国の台所事情がある。ハーブによる代替医療としてはエキナセア、ギンコ(イチョウ)、ガーリックなどが注目されているが、今、米国では抗鬱ハーブのセント・ジョンズ・ワートの人気が急上昇している。日本では3年ほど前に「脳内革命」(春山茂雄著)が大ベストセラーになり、米国では脳内薬品「プロザック」が話題を呼んだが、「心」の癒しが疾病治癒に大きく関わるとの判断か、米国立衛生研究所(NIH)はハーブのなかでも、先ず、この抗鬱ハーブの本格的な研究に取りかかった。はたしてこのセント・ジョンズ・ワートの効用は本物なのか。最新研究を報告する。
慢性的な鬱症状はがんの罹患率高める
米国では20人にひとりが毎年、鬱症状に悩まされ、男女比でみると女性25%、男性12%が絶望、陰うつ、悲哀などの気分に浸されているという。一方で、最近こうした鬱症状の長期化はがんのような深刻な疾病を招くという報告がなされている。昨年のJournal of the National Cancer Institute誌12月号は慢性の鬱病とがん発病との間に強い関連性があるとの記事を掲載したが、それによると、米国立衛生老化研究所研究者グループが高齢者約5千人を対象にした調査で、長期の鬱患者は、何らかのがんにかかる危険性が90%も高まることがわかったという。 調査は、マサチューセッツ、アイオワ、コネチカット在住で71歳以上の男女4千825人に1982、85、88年の3回ヒアリングを実施。88年の調査では、146人が長期の鬱病に罹っていたが、がん患者は一人もいなかった。その後4年間にわたって被験者を追跡調査したところ、402人が結腸、肺、前立腺などのがんに罹っていたという。
研究者によると、鬱病は副腎コルチコステロイドなどのストレス・ホルモン濃度を上昇させ、ナチュラルキラー細胞やリンパ球のような感染抵抗細胞の数を減らして免疫システムを阻害する恐れがあるという。 米国で代替医療求める声、抗鬱ハーブ「セント・ジョンズ・ワート」の人気に拍車 こうした鬱症状に悩む国民性を反映してか、ここ数年米国では、処方箋がいらず、抗鬱剤の代用として気軽に買えるハーブのセント・ジョンズ・ワートの人気が高まっている。ドラッグストアの商品棚には、同ハーブを扱った製品が数 えきれないほど並び、昨年の調べでは4億ドルの売上を計上したという。 同ハーブの人気については米国民の代替医療への期待によるところが大きい。 これまで西洋医学が主流だった米国では、ハーブ療法を始めとする代替治療は科学的 でないと無視され続けてきた。そのため、ハーブに関する研究は古くからハーブ を薬剤として使用してきたヨーロッパに比べ立ち遅れ気味であった。しかし、近年西洋医療への疑問が噴出するに伴い、患者自体が西洋医学にそっぽを向きはじめ、代替治療に関心を寄せ、同ハーブの需要も急速に高まってきた。 ヨーロッパでは有用性が確認、米国ではNIH(米国立衛生研究所)が「安全性」の研究開始 米国民の代替医療への志向が高まるにつれ、米政府もハーブの研究に本腰をいれざるを得なくなった。セント・ジョンズ・ワートはその先陣を切る形でNIH(米国立衛生研究所)が取り上げ、鬱病患者336人を対象に偽薬、さらに抗鬱剤との対照試験を開始した。 同ハーブについては、これまでにヨーロッパで総数1千757人の患者が研究に参加しており、有用性では偽薬を上回り、副作用に関しても一般の医薬品より軽いという結果が出ている。また、1994年のドイツでの調べでは、不安感、鬱症状、不眠などに対し6千600万件の処方箋が書かれているという。しかし、こうした海外での実績にも関わらず、ヨーロッパの研究で使用されたセント・ジョンズ・ワートは標準化されたものではなく、研究期間も納得のいく長期のものはないとの理由で、NIHは「(米国での)研究が終了し、その安全性が明白にされるまで、セント・ジョンズ・ワートの使用は推薦できない」という態度を示している。 活性成分の特定は現状では困難、乱用危ぶむ声も 確かに、NIHが指摘するように、これまで標準化の難しい点がハーブに対する専門家の懐疑的見方の中心を占めていた。例えばセント・ジョンズ・ワートにしても、その活性成分を特定す ることは現在のところ困難で、今のところ、hypericin、pseudohypericin、hyperforin の3つが特に有効性のある成分と指摘されているが、その中で鬱症状に最も活性的で ある成分を特定するに際して議論が沸いている。NIHの研究者によると、ドイツの製 造業者は「ヨーロッパ基準」に従いhypericin0.3%、hyperforin0.3%の配合として いるという。一方、米国でも製造業者が成分配合の画一化を試みているが、あまり現状に反映しているとはいえない。以前、ロサンゼルス・タイムズが掲載した、セント・ジョンズ・ワート 10製品の分析調査では、ラベルに表示された効能が50%以下から150%以上とかなり のばらつきが見られたと報告されている。 また1994年施行された栄養補助食品教育法(DSHEA:Dietary Supplement Health and Education Act)により、栄養補助食品はその販売に際して米 医薬品局(FDA)に有用性、安全性の細かな証明などをする必要がなくなったが、これにより、同ハーブの乱用を危ぶむ専門家も多い。セント・ジョンズ・ワート研究者であるジョージタ ウン大学のRosenthal博士は「軽度の打つ症状に対して1日300mgから始め、徐々に増 やしていく方法が最善。ただし、一度に摂取せず2〜3回に分けて。また、高齢者 は900mgに抑えること。600mg位がベスト」と述べている。 日光による過敏反応、生殖阻害の可能性など懸念材料も 同ハーブは、その人気ぶりから、ニューヨーク・タイムズが「プロザック(抗鬱剤)のライバル出現」と評したが、最近その副作用を指摘する研究報告がいくつか発表されている。まず、イスラエルの研究者が明らかにしたのは、セント・ジョンズ・ワートを使用して日光を浴 びると、一時的に神経に障害を受ける可能性があること。これは35歳の女性の例を 取って指摘されたもの。この女性は1日500mgの摂取を始めてから4週間後に日光浴を した後、肌に痛みを感じたという。しかし、同ハーブの摂取を中止すると痛みは消えたという。研究者 は活性成分に光毒性のあるものがあり、それが日光にさらされて細胞損傷を引き起こ したものと考えている。
また、今年に入ってセント・ジョンズ・ワート、エキナセ
ア、ギンコビロバといったハーブを多量に摂取すると、生殖作用を阻害するという報
告も発表になった。カリフォルニアの研究者グループが実験室で行った研究では、ハ
ムスターの卵子のコーティングを除去し、人の精子と混ぜ合わせたもの(精子の侵入
は行うが受胎作用はない)に、それぞれのハーブを添加したところ、少量では影響を
示さなかったが多量に添加するとセント・ジョンズ・ワート、ギンコビロバ、エキナ
セアでは精子は卵子へ侵入できなかったという。
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