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21世紀のストレス病、機能性消化管障害が急増
脳と胃腸は一体化、胃腸は考える臓器

11月3日、都民ホール(東京都庁)で、大人の食育シンポジウム「おなかの健康を学ぶ」(主催:「大人の食育」推進実行委員会)が開催された。当日、飯野久和氏(昭和女子大学大学院教授)、松枝啓氏((独)国立病院機構 さいがた病院院長)らが講演した。21世紀、ストレス社会で、機能性消化管障害が急増しているという。「脳」が病むと「胃腸」も病むという相関関係。こうした疾患をどう克服していくか。

加齢臭、腸内の「悪玉菌」優位が関与

100種類、100兆匹---。人間の腸内に棲む細菌である。ビフィズス菌に代表される「善玉菌」、大腸菌などの「悪玉菌」に大別され、前者が腸内で優勢だと健康を維持・増進するが、後者が優勢だと、免疫低下や老化、発がんなどを引き起こす。疾病予防には、「善玉菌」を腸内に増やし、優勢にすることが欠かせない。

飯野氏は、「年齢とともに善玉菌が減り、悪玉菌が増えてくる」とし、加齢臭と腸内細菌との関与を指摘。

また、「善玉菌を積極的に摂り入れることで、腸内感染症の抵抗力を増やし、腸内感染症のリスクを下げることができる。尿路感染症を予防できるという臨床データもある」と述べた。

検査してもわからない胃腸の病気が急増

また、松枝氏は、「21世紀は目に見えない胃腸の病気が急増している。検査をしても異常がみられない。世界がこれに悩んでいる」と述べ、機能性消化管障害といわれる疾患が増えていることを報告。ローマ委員会でも、21世紀の最も重大な疾患として重要視しているという。

こうした胃腸病の急増について、「ひとつにはストレス社会が原因している。肉体労働が不要な社会になったが、肉体労働はストレスの解消に重要な働きをする。自律神経失調症をリセットするには肉体を使うこと」と松枝氏。

現代人は健康に過剰な注意を払いすぎる

加えて、「社会が成熟し、自分の健康に異常に関心を持ちすぎ、これが症状を自覚する引き金になっている。TVの健康番組を見て、不安が出てくると時間にまかせて1日中いろんな問題を考える。過剰な注意を健康に払うがゆえにかえって病気になりやすいということもある」という。

とはいえ、人々がさまざまなメディアの健康情報に敏感に反応し、思慮を深めるという行為は防衛本能に根ざしたもの。とりわけ、現代は食品の偽装表示、中国食材の安全性などの諸問題に注意が喚起される。常に健康不安が惹起され、神経症にならざるを得ないような環境に身を置いている。

そうした社会背景がさらに、21世紀病、機能性消化管障害の増加に拍車をかけているといえる。

頭で受けたストレスはすぐに消化管へ影響する

機能性消化管障害の発症メカニムズについて、松枝氏は次のように説明する。「胃腸は考える臓器で、胃腸の壁には脳神経細胞と同じ神経細胞が同じ数だけびっしりと分布している。それが実は自律神経と密接につながっている。
つまり脳と胃腸は一体化している。消化管の中の状況は逆のルートですべて頭に反映する。ここが悪循環をすると大変なことになる」。
頭で受けたストレスはただちに消化管へ影響する。胃腸は考える臓器、21世紀のストレス社会に非常に問題になると指摘する。

現代人には食物繊維や汗ばむ程度の運動が
必要

脳と胃腸は一体化し、脳から胃腸、あるいはその逆ルートで情報が伝達されるとなると、いかにストレスや腸内「悪玉菌」に対処していくかが問題となる。
松枝氏はいう。「腸内細菌叢がかく乱を起こす原因はストレスが非常に問題。免疫力が低下し、かく乱が起こりやすくなる。一過性の食中毒、あるいはウイルス感染でもかく乱が起こる。さらに暴飲暴食、加齢、便通異常もこれに拍車をかける」。
また、抗生物質が腸内細菌叢のバランスを崩すことも問題視されている。抗生物質の入ったエサを食べた動物の摂食も腸内細菌叢の悪化へとつながる、という。

では、胃腸環境の健全化については---。前述の飯野氏が指摘する、「善玉菌」優勢の腸内環境を保つということがポイントとなる。「悪玉菌」優勢だと、さまざまな疾患を呼び込む素地が作られる。

「善玉菌で腸の環境を良くする。腸の中の環境を整える腸内革命が大事。下剤では便秘は解消しない。便量が大事、これは食物繊維が作る。ストレスがあると便通異常を起こす。ストレスで自律神経のバランスが崩れても、汗ばむ程度の運動でリセットできる」(松枝氏)という。


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