21世紀の医療は、「個人中心の医療」テーラードメディシンに
〜3月、ホワイトハウス諮問委員会で代替医療についての最終報告書

日本では、医療費の自己負担増からセルフプリベンション(自己予防)の意識が高まり、CAM(代替医療)に関心が注がれつつある。一方、米国では非保険者が多く、とくに90年代に入って有効なCAMを模索する動きが高まっていた。今年3月、米政府組織が米国民のCAM利用に対する最終報告書を公表、その中でも米国民がCAMに傾倒している状況が明らかとなった。

2000年3月、ホワイトハウス補完・代替療法ポリシー委員会発足

「がん患者の63%が何らかのCAMを利用している」---。
今年3月、米政府組織が米国民のCAM利用に対する興味深い報告書を公表した。 米国における官民あげてのCAM(※注1)の推進が本格的なものになっていることを示すものであった。

米政府組織とは、ホワイトハウス補完・代替療法ポリシー委員会(WHCCAMP)。クリントン元大統領時代の2000年3月、大統領令13147号を基に、20人からなる委員により発足。現在はブッシュ大統領のもとで受け継がれている。同委員会の主な目的は、米保健省を通して、米国民にCAMの最大限の効果が得られるよう法的、行政的な提言を行うこと。
主な業務としては、1)CAMに関わる医療関係者の指導、2)CAM製品に関する情報収集および情報提供、3)CAM療法へのアプローチに関するガイダンスなど。

同委員会は、医療関係者、医学教育者など様々な専門家を招いて、2000年7月から2002年2月までに10回の会議を開き、CAMに関する政府方針への提言を求めた。また同時に、民間の医療機関、消費者などからも公開討論会を通して意見を集めた。その集大成ともいえる最終報告書が今年3月に発表された。

この中で米国における患者のCAM利用の現状が明らかになった。例えば、がん患者の63%が何らかのCAM療法を利用、男性患者より女性患者の方がCAMの利用度は高い、放射線療法や化学療法と併用している患者が増えている、など実情が浮き彫りとなった。

(※注1)CAM:Complymentary and Medicineの略。相補・代替医療の意。カイロプラクティック、ハーブ・栄養療法、中国漢方、鍼灸、気功、アロマテラピー、心理療法、音楽療法など西洋医療以外のさまざまな伝統・伝承医療を指す。

CAMの利用、患者の7割が「免疫力を高める」ため

報告書では米国でCAM利用者が急速に増えつつあることを示しているが、他の調査でもこれを裏付ける結果が出ている。2,000人の患者を対象にした調査では、75%が最低1種類のCAM療法を併用したことがあると回答。その中で、「栄養療法」が63%と最も多く、「マッサージ」が53%、「ハーブ」が44%と続いた。またCAMを利用する理由については、「免疫力を高めるため」が73%でトップとなった。

この他、最近のAstin調査によると、CAMを実践するようになったきっかけとして、回答者の50%が、「一般医療が効かないため」と答えている。次いで「友人・知人の薦め」「一般治療で起きた副作用を回避するため」となっている。また、相談をするCAMの医師としては、マッサージ療法が49%、鍼療法が45%、栄養療法が37%。自らが行うものとしてはエアロビクスが63%で、祈りが58%、マッサージが53%、瞑想が46%などとなっている。こうした調査からも、従来の医療離れ、さらにCAMへの傾倒が急速に進んでいることがみてとれる。

こうしたCAMは実際に診療領域でどのように活かされているのか。
American Hospital Associationによると、2000年の調査ではCAMを取り入れている地域病院は16%と1999年の11%から増えているという。ただし、エビデンス(医学的根拠)に裏打ちされていないCAM療法が多いこともあり、一般医療との融合・実践という道のりはまだ遠いものとみられている。

現段階では、CAMと一般医療の統合というより、それぞれがコラボレーション(共同、協力)体勢でという考え方のほうが強まりつつある。CAMと一般医療との完全な統合は必要とせず、患者の症状、容態によって適切な療法をネットワークの中で紹介、診断や治療法の意見交換を行っていこうというのが大方のようだ。

CAMの誇大宣伝や違法広告を取り締まるべきとの提言も

ところで、ホワイトハウス諮問委員会の最終報告書で挙がっている代替医療についての提言は以下のようなものだ。

@政府機関は、臨床研究、基礎研究、CAM研究に対する資金援助の規模を拡大して受け取るべきである。
A認可を受ける必要のない製品の研究に対する第3セクターの投資を促進するため、政府、議会は法令的、行政的報奨を成立させるべきである。
B政府、民間、非営利セクターは、健康を促進するセルフケアを向上するCAM療法の研究を支援すべきである。
CCAMに関連する未開拓分野で理解を拡大するため、新しく革新的な研究を、政府、民間、非営利セクターが支援すべきである。
DCAM臨床研究に参加する被験者は、一般医療の臨床研究被験者と同じ保護を受けられるべきである。
ECAMと一般医療従事者、研究者、研究機関、政府機関などの中で対話の強化を図らなければならない。
FCAMについての知識が豊富で、的確な研究結果を入手できる臨床研究者や医療従事者を拡大するため、CAM研究や研究トレーニングの公的、私的リソースの基本組織強化を図るべきである。
G安全かつ有効で安価なCAM医師を紹介できるデータベースを、公的、私リソースは常に更新し支援すべきである。
HCAM療法関係者の指導・トレーニングは、公共の安全、健康促進、有資格でベテランのCAM医師の紹介、CAMと一般医療従事者との共同体制を強化するよう行われるべきである。
I政府は、CAM医師や製品の安全性や有効性などの情報に、迅速かつ正確にアクセスできる体制を整えるべきである。
JCAM医療関係者への指導・トレーニングに関する情報も公開し患者などが簡単にアクセスできるようにすべきである。
K米国の消費者が利用するCAM製品は安全かつ一貫して標準をパスしているべきである。

―この他、米保健省はニュートリション、ストレス管理、運動を児童に指導する全米キャンペーンを開始すべきである、危険な副作用を消費者に知らせる重要なステップとして、議会はサプリメント製造および販売メーカーにFDAに登録するよう要請すべきである、議会は連邦取引委員会に予算を計上しCAMの誇大宣伝や違法広告を取り締まるようにすべきである――など計30以上の提言がなされた。

こうした米国のCAM(代替療法)推進への真摯な取り組みに対し、日本はどうか。
日本におけるCAMの第一人者として知られる日本統合医療学会の渥美和彦代表は「21世紀の医療は統合医療になる」と題した寄稿文の中で、「CAMや統合医療の波は、先進国、発展途上国を問わず世界において急速に拡大している。この意味においては、日本は鎖国状態」と指摘し、次のように述べている。

今後予測される、医療経済の破綻と国民医療費の高騰について、「日本では多くの健保組合が破産に追い込まれ、政府も最近、医療費自己負担3割を決定したが、これが5割に引き上げられるのは目前のことと予測されている。医療のすべてを政府が責任を持つ時代はもう終わった。医師のみが医療を担当する時代も終わりつつある」。今後は医師以外の医療関係者が参加するチーム医療が必要になる、CAMとの連携を深めていく必要性があると説く。
なぜか----。
「西洋科学文明は、二元論に根ざし、物質中心で展開されてきた。その発達は、人類に大きな文明をもたらす一方で、環境汚染、格差、競争、ストレスなどマイナスの影響を与えてきた。すなわち、20世紀の科学の時代は終わり、21世紀の人類が共存共生する時代に入った。これはまさに、東西文明の融合である。人間としての尊厳のみならず、個人の自由や特性が重んじられる時代になった。お互いの各個の価値が重んじられる時代であり、換言すれば、“多様価値の共存”という難しい時代に入ったのである。そこで、21世紀の医療は、「個人の医療」「患者中心の医療」となる。西洋医学は、科学的な統計学的処理に基いた平均の医療を提供したが、これからは、いわゆる「テーラードメディシン」(※注2)あるいは「オーダードメディシン」になる」(渥美代表)。

さらに、「医療は、患者の心身両面からホリスティック(全人的)にみるのが理想である」とし、「精神と身体との関係は、西洋においてもギリシャ時代の医学でも認められていた。東洋においても心身一如という言葉にみられるように、精神と身体との関係はきわめて緊密であり、これが代替医療の特色」とも述べている。

(※注2)テーラードメディシン:個々人の体質に見合った適切な医療。

今後、日本が統合医療のためになすべきこと

渥美代表は今後、日本が統合医療のためになすべきこととして以下のことを挙げている。

@CAMの有効性・安全性の研究

伝統医学も含めてCAMは、経験に基くものであり、いわゆる非科学的なものが多いとされている。確かに、非科学的な部分については批判に耐えうる研究が必要であり、そのための努力はNIHで研究が行われているが、日本においてもこの分野の研究を推進する必要があることはいうまでもない。現在、我々は関係省庁にその研究費の申請を行っている。そして、明らかに有効性と安全性が認められた代替医療の治療法は、国民が望めば利用されるべきである。

A医療制度の改革

日本の医療制度は国民皆保険で、しかも保険で認められている治療法の100%近くが西洋医学である。代替医療が現在の保険で利用される余地はほとんどない。そこで、患者が望むなら、その部分は自由診療とし、保険診療と併用できる「混合診療」を認めるべきであろう。

B医療教育

現在、米国の13の大学に数年前より、CAMに関する研究施設が設立され、国家的援助の下に研究が推進されている。さらに、CAMの教育のための学科が新設され、専門教育が行われている。日本でも多くのCAMの教育機関が新設される必要があり、JACT(日本代替・相補・伝統医療連合会議)では、教育カリキュラムの検討を行っている。
また、CAM の質の向上のためには、CAMについて専門の知識を有する専門医も必要になってくる。そこでJACTでは、JACT認定医専門制度を発足させ、現在その審査を始めている。

C地域統合医療モデルの構築

近代医療と統合医療を行う病院やクリニック、研究所、データベースセンター、各種の代替療法を行う施設(鍼灸、マッサージ、指圧、瞑想、健康体操、アロマセラピーなど)を設置し、緊密な連携システムを作りあげる必要がある。

さらに、周囲にハーブや健康食品用植物などの栽培、代替健康機器などの企業、それらを展示する展示場や総合市場、治療や研修のために短期・長期滞在できる施設やホテルなど、新しい地域開発のためのデザインが必要となる。現在、JACTにより日本の数ヶ所において、この地域統合医療モデルの計画が進められている。