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オルタナティブ・メディスン(代替医療)へ、岐路に立つ米国医療界

平成11年8月28日(土)、29日(日)の両日、日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)による「第3回年JACT大会'99」が東京女子医科大学 弥生記念講堂で開催された。今大会では、世界的な心臓外科医として知られる元ニューヨーク医科大学臨床外科教授の廣瀬輝夫氏を招聘、「米国の代替相補医療の現状」について講演が行われた。この中で、GNPの15%にまでかかるようになった米国の国民医療費の実態、それにより西洋医療に替わるオルタナティブ・メディスン(代替医療)を模索するに至った米医療界の経緯が明らかにされた。

西洋医学で臓器は治せるが、精神的なものは治せない

「近代医療はどんどん進み、金もたくさん使っているけれど、寿命そのものは伸びてない。西洋医学で臓器は治せるが精神的なものは治せない。このことに米国が目覚め始めた。今、米国でオルタナティブ・メディスン(代替医療)が流行っているのはそうしたことが背景にある」。
講演の中で、廣瀬氏は米国医療界が大きな岐路に立っていることを指摘。これまでの西洋医学一辺倒の医療から他の伝統・伝承医療を見直し、医療に意欲的に取り入れようとする動きが加速していることを明らかにした。

オルタナティブ・メディスンに興味を抱くのは医療界や米国民だけではない。米政府もオルタナティブ・メディスンの研究・推進にNIH(米国立衛生研究所)に大幅な予算を割き、積極的な支援を行っている。
オルタナティブ・メディスンとは、米国サイドからみれば西洋医療に替わる医療を意味する。

つまり、鍼灸、漢方などの中医学、インドのアーユルヴェーダ医学、またホメオパシーや栄養療法、さらには瞑想などによる療法がそれだ。当然、国によってとらえ方が違う。 中医学が本流の中国では、西洋医療をオルタナティブ・メディスンとみる。ともあれ、WHO(世界保健機関)によると、こうした医療は世界に主なもので100あるといわれる。

医療経済の行き詰まりから、オルタナティブ・メディスンに頼らざるを得ない

なぜ今、西洋医学が主流であるはずの米国で、オルタナティブ・メディスンが官民一体となった広がりを見せているのか。最大の原因は現在GNPの15%までかかりつつあるといわれる国民医療費の高騰だ。近代医療がもたらした医療経済の行き詰まりにより、米政府も遂にオルタナティブ・メディスンに期待せざるを得ない状況に追い込まれている。

「米国では低所得者、障害者、老齢者に社会保障費を出し始め、どんどん増え、それが53%にも上るようになった。それで、これ以上金が出せないということがあって1993年にオルタナティブ・メディスンというものを考えるようになった。米国の医療費の推移をみると、80年代に15%の伸び方。先端医療にどんどん金を使ったため」と廣瀬氏。

「米国では全人口の15%といわれるほど無保険者が多い。この人たちはまともに診療してもらえないため、世界の人口の80%がかかっているといわれるオルタナティブ・メディスンに頼らざるを得ない」(同)。

米国では150以上の製薬企業が薬品の代替品(栄養補助食品など)を作るようになった

医療費高騰の抑制策として米政府は安上がりで済むオルタナティブ・メディスンに目をつけたというわけだ。「心臓のバイパス手術は近代医療だと5万ドルくらいかかるが、バイオフィードバックだと年間2,3千ドルで済む」(廣瀬氏)。製薬企業にしても、新薬開発のために膨大な費用と労力を費やすより、栄養補助食品のような代替品の開発のほうが手っ取り早い。

廣瀬氏は言う。「新薬の開発に8年の年月と300億円という開発費が必要。こうしたことに金をかけるより、代替品の開発のほうが安上がりだということで、米国では150以上の製薬企業が薬品の代替品を作るようになった。代替品は自然食品、健康食品、一般食品として売られており、認可の必要もない」。

そうした経済事情から具体的に米政府も1993年よりオルタナティブ・メディスン支援に乗り出す。手始めに日本の厚生省に相当するNIH(米国立衛生研究所)に代替医療の調査室・OAM(オフィス・オルタナティブ・メディスン)を設置。

その後、NCCAM(ナショナル・センター・コンプリメンタリー・オルタナティブ・メディスン)と名称を変え、最初300万ドルからスタートした予算も、現在では5千万ドルに増額、権限も強化した。

現在、13の大学および研究所に代替医療の研究テーマと予算とがそれぞれ振り分けられている。ちなみに、テーマについては、アリゾナ大学が小児医学、カリフォルニア大学が喘息、ハーバード大学が医学全般、メリーランド大学が痛み、ミネソタ大学が麻薬中毒、スタンフォード大学が老化、ヴァージニア大学が痛み、バスチィル大学がAIDS、コロンビア大学が女性の健康、ケアラー研究所が神経リハビリ、ミシガン大学が心臓血管病、パルマー大学がカイロプラクティック、テキサス大学ががん、というもの。

漢方薬の売上げは3年で5倍の伸び

こうした米政府の代替医療への支援と米国民のそれに対する期待感で、現在米国代替医療産業はおしなべて好況といえる。代替医療分野の中でも特に、近年、カイロプラクティック、漢方薬、ハーブなど栄養補助食品、ホメオパシー薬の伸びが著しい。「米国ではホメオパシー薬が売れている。またカイロプラクティックも流行っている。カイロプラクプラクターは1974年に2万3千人だったが、現在では5万5千人もいる。国民の3分の1がオルタナティブ・メディスンを受けており、それにかける費用は年間で300億ドルといわれる」(廣瀬氏)。

また、漢方薬、ハーブなど栄養補助食品についても、「1994年に漢方薬は12億ドルしか売れなかったが、現在は30億ドルで、5年で3倍の売上げになっている。ハーブ関係も60億ドルになっている。イチョウ葉、エキナセア、ソウ・パルメットといったものが人気」(同)という。

今後、FDAによるハーブ(薬草)規制も

今後、さらに米国における代替医療の研究と普及は盛んになり、次第に日本も影響を受けるであろうことは容易に推測される。「肥満、肝機能、糖尿など生活習慣病に対する代替医療に米国は目を向けている。クオリティ・オブ・ライフを良くするということが米国でいわれているが、高い薬を使わなくてもクオリティ・オブ・ライフは良くなるし、オルタナティブ・メディスンでもよくなるのではないかということで、米国でオルタナティブ・メディスンの研究が進んでいる」と廣瀬氏。

しかしながら、オルタナティブ・メディスンが全て安全で信頼がおけるというわけではない。「薬は副作用が強い。一般薬品にしても使い方によって害がある。確かにオルタナティブ・メディスンはそういった問題はおきないが、それでもハーブでヒ素中毒になったり、米国で毎年1500人くらい死亡している。FDAはこれを問題にしており、ハーブを取り締まる方向でいる。こうした政府の規制がかかっているのも事実だが、ある意味、野放し状態」(同)という。

廣瀬 輝夫(ひろせ てるお)

略歴:昭和23年千葉大医学部卒。29年渡米、シカゴ及びフィラデルフィアにて心臓外科研究。49年ニューヨーク医科大学臨床外科教授就任。平成元年6月退職。現在KPMGヘルスケアジャパン取締役。

研究内容:心房中隔欠損症新手術の発見(1955年)、肺癌を煙草で動物に作成、成功(1960年)、無血開心術の為に無血人工心肺発見(1966年)世界最初の成功例、世界最初の冠動脈直接手術成功(内胸動脈冠動脈バイパス手術)、輸血不可能なエホバ教徒の世界最初の無血手術を1966年に施行して以来、過去23年間に約8千例手術、内開心術約300例施行、手術症例数は一般、胸部、心臓及び血管外科を含み約3万例施行、その内開心術7,000例。
米国医学界より日本人初めての金メダルを受賞。東洋人最初の米国胸部外科学会評議員。東洋人最初の米国心臓外科および胸部外科専門医資格取得。米国医学界より日本人初めての金メダルを受賞。東洋人最初の米国胸部外科学会評議員。東洋人最初の米国心臓外科および胸部外科専門医資格取得。米国外科学会評議員。ニューヨーク医学学士院評議員。米国医療ジャーナリスト会会員。「近代医療への警告・医の倫理」(金原出版社)、「アメリカ医療は何処へ行く」(日本医療企画社)など著書多数。

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