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沖縄の長寿の秘密、13年におよぶ疫学調査で解明

4月17日、龍名館(東京八重洲)で「プロポリスの研究をすすめる会」の講演会が開催された。その中で琉球大学教育学部の平良一彦教授は日本一の長寿村とされる沖縄県大宜味村を取り上げ、長寿の要因について講演した。平良教授は13年前より沖縄の高齢者の疫学調査を行っているが、恵まれた自然環境以外に食事内容が長寿に大きく関わっていると指摘、大宜味村と秋田県の村の食習慣を比較しながら、長寿をもたらす要因を挙げた。

口10万人あたり100歳を超える高齢者、日本で沖縄がトップ

「毎年9月15日前後に公布される人口10万人あたりに100歳を超える老人がその地域にどれだけいるかという厚生省の調査で、去年のデータで、沖縄は1位で28.7人。2位は高知、3位が島根」(平良教授)。60歳以上の高齢者の平均余命(※あと何年生きられるかという年齢)をみても、沖縄は他県の追随をゆるさない、と平良教授はいう。

また疾病の罹患率も、「沖縄県人の過去20年間の厚生省のデータを調査してガン、脳卒中、心臓病の死亡率を調べたところ、全国を100とした場合、この数字が100より小さければ小さいほど、病気による死亡が少ないといえるが、沖縄は脳卒中は57、心臓病は65、がんは82で、他の地域と比べかなりいい結果が出ている」(同氏)という。

平良教授は13年前より、文部省の助成を得て、東京都老人総合研究所と提携し、沖縄の高齢者と長寿についての疫学調査を行ってきた。調査は沖縄の大宜味村(人口約3,500人)を対象に行った。同村は100歳を越える高齢者が2〜5人、90歳を超える高齢者が70人近くいるといわれ、「長寿村日本一」の折り紙もついている。

講演の中で、平良教授は、大宜味村に代表される沖縄の高齢者の長寿の秘訣について、1)休養と栄養のバランスがいい、2)温暖な気候で気候の年格差よる身体へのストレスが少ない、3)地域とも交流が密接で、社会活動に積極的、という3点を挙げた。さらに、1)について、平均寿命の短いとされる秋田県の農村との食事内容の比較調査を挙げ、健康への影響について言及した。

食塩の摂取量が日本で一番少なく、豚肉は脂肪を抜き頭から足の先まで無駄なく利用

大宜味村の高齢者の食事内容については、下記枠内にその特徴を示したが、日本の伝統食の短所を全てカバーしたものになっている。というのも、食塩(塩化ナトリウム塩)の摂り過ぎについては、日本人は昔からよく指摘されるところだが、沖縄は日本で摂取量が最も少ない。

「以前、NHKの番組で、全国から人を集めて水の中に食塩が入っているかどうか舌で調べる番組がありましたが、沖縄県人の反応が圧倒的に早かったとか。それだけ日頃から薄味に慣れているということでしょう」と平良教授。ちなみに厚生省は1日の摂取の上限を10gとしているが、秋田の農村は平均で14g、大宜味村は9gの摂取といわれる。

また、大宜味村は秋田の農村と比べて肉類の摂取が2.5倍と多いが、「沖縄は仏教の影響によって動物の肉を食べるなということがなかったため」(同氏)という。大宜味村の高齢者は平均して毎日50gの肉を摂るという。これに対し、秋田県の農村は毎日の平均が20gという。

また、沖縄では肉は特に豚肉を多く用い、頭から足の先まで無駄なく利用しているという。全体を摂ることで、過不足のない栄養成分の補給がなされている。また調理についても時間をかけて脂肪分を抜くといわれ、健康管理のための合理的な料理法を先人から受け継いでいる。

日本の伝統的食生活

・米が主食/魚蛋白が多く、魚油の摂取が多い/ 海藻の摂取量が多い/ 大豆が多い

<短所> ・食塩が多い/ 動物性蛋白質が少ない /乳製品が少ない/ 野菜・果物が比較的少ない


大宜味村と秋田の農村との食事内容の比較

大宜味村では、@秋田農村に比べ約3倍の肉類を摂取、A緑黄色野菜の摂取量が3倍多い、B豆腐に代表される豆類の摂取が1.5倍多い、C果実類の摂取が多い、D食塩の摂取量が少ない

野菜を漬物として摂る習慣があまりない

この他、両者の比較で、「大豆に代表される豆類の摂取が沖縄は1.5倍以上も多い。大豆には骨粗しょう症の予防、女性の更年期障害の予防、さらには男性の前立腺がんを防ぐ作用があるイソフラボンという成分が多く含まれているが、沖縄はこの摂り方が非常にいい」と平良教授。大豆に含まれる抗酸化物質のイソフラボンは、現在米国でも前立腺がんや乳がんの予防に注目されている。

また緑黄食野菜の摂り方も十分で、大宜味村は秋田の農村の3倍も多く摂っている。しかも温暖な気候のため、新鮮な野菜が豊富で、漬物として摂る習慣があまりなく、塩分による弊害を免れているといわれる。

積極的な社会参加、自分自身の役割を認識

また、平良教授は講演の中で、「沖縄の老人は村のいろいろな行事への参加率が高い。隠居ということがもともとなく、体が動く間は何かしないと悪いという気持ちが強い。村の行事など老人の果たす役割が大きく、社会活動に積極的」と、長寿の要因について、食事内容以外に積極的な社会参加、自分自身の役割の認識の強さをなど挙げた。

これに関連して、平良教授は、人が健やかに長寿をまっとうするための生活習慣として、米国UCLA大学のブレスロー博士の提唱する「7つの生活習慣」に触れ、「サンフランシスコの隣のバークレー市周辺の人々を今でもずっと追跡調査し、そうした健康習慣のある人たちの健康余命を比較していますが、「7つの健康習慣」を全部守っている人たちが80歳まで生きるとすると、そうでない人たちは68.5歳で、11年半も違うというデータも出ている」と述べた。

ブレスロー博士の健康と長寿を約束する「7つの生活習慣」

  • 7時間ないし8時間の適度な睡眠時間
  • 朝食を欠かさず食べる
  • 間食をしない
  • 週2〜3回の適度な運動をする
  • 痩せすぎず、太りすぎず適正体重を維持する
  • ほどほどの飲酒
  • タバコは吸わない
沖縄は今後も日本随一の長寿県として名を馳せるであろうことは間違いないが、現在、専門家の間で短命化を招く要因として指摘されているのが、中年層以下の生活リズムの夜型や脂肪摂取量の増加、歩く機会の減少など。
皮肉にも便利で快適な生活が人間を不健康にしている。多少の不便さは身体に抵抗力をつける妙薬ともいえるかもしれない。やはり長寿村として知られている山梨県檜原村はバイパスなど交通手段の整備が進むにつれ、運動量の減少やコンビニなどによる手軽な食生活で以前とは状況が異なってきているとも伝えられている。

参考資料:

世界調査からみた沖縄の長寿要因

京都大学大学院人間・環境学研究科 家森幸男

日本の男女の平均寿命は世界中で最も長く、中でも我々の実験的研究や15年かけてWHOの協力により実施してきた国際共同研究によって、日本人の長寿は日常の食生活によるところが大きい事が証明されてきいた。”人は血管とともに老いる”といわれるように、循環器疾患(CVD)、すなわち、心筋梗塞や脳卒中が多い集団は長寿ではありえない。今から20年前、脳卒中は日本人の死因の第一位であったが、遺伝的に脳卒中を例外なく発症してくるラット、脳卒中易発症ラット(SHRSP)の実験で、たとえ脳卒中の遺伝子を有していても栄養によって脳卒中が予防できることが証明された。

そこでこのモデル動物での研究成果が、ヒトの脳卒中などCVDの予防にも応用できるのかどうかを確かめるため、さまざまな食生活をしている世界各国の人々のCVDと栄養との関係の調査をWHOの協力を得て、これまで15年かけて実施してきたのがCVDと栄養・国際共同研究WHO-CARDIAC(WHO-Cardiovascular Diseases and Alimentary Comparision)Sutadyである。この調査の特色は、血圧の測定も精密な自動血圧計を使用し、栄養調査も24時間の尿を集め、また採血して栄養摂取の生物学的マーカーによって正確に国際比較しうる点などである。

世界25カ国、60地域の48-56歳の男女、それぞれ100人、合計で約10,000人以上の方々の調査の結果、まず、CVDの共通のリスク、高血圧は肥満と食塩の摂りすぎ、それにマグネシウム、さらに蛋白質の摂取不足なども関係する。沖縄住民の食塩摂取量は日本の8地域でも最低であった。この高血圧は脳卒中のリスクとなるため、脳卒中による死亡はやはり食塩、すなわちナトリウムの摂取が多く、ナトリウムに比べてカリウム摂取が少ない地域、さらに血液中のコレステロールが低すぎる地域で多い。

一方、虚血性心疾患は、血中コレステロールが高い地域ほど多く、沖縄住民のコレステロール値は両者が最低となる。まさに”中庸の値”(180-200mg/dl)であることがわかった。さらに虚血性心疾患は魚介類に多く、血圧、コレステロールを低下させるタウリンの尿中排出が多い程、また、大豆に多い女性ホルモン様作用のあるイソフラボンの尿中排出が多い程、さらに魚油に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸が血中のリン脂質に多いほど少ないことも確かめられた。これらも沖縄住民を含め日本人では特に多いことから、沖縄で豊富な魚介類や大豆製品が虚血性心疾患を少なくし、沖縄の長寿に貢献しているといえる。

沖縄住民と沖縄からハワイ(ヒロ)やブラジル(サンパウロ、カンポグランデ)に移民した日系人の比較調査により、ことにブラジルの日系人では血中のn-3系脂肪酸は半減し、心電図異常や血糖値が高値を示すリスクの高い者の割合が明らかに増加していた。そこで、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病傾向を示すリスクの高い日系人に1日3gのDHA、5gのわかめの粉末、50mgの大豆イソフラボンを10週間にわたって摂取してもらったところ、血圧や血清コレステロールが有意に低下し、イソフラボン群ではさらに骨からのカルシウムの喪失が抑制されることが、24時間尿中のピリジノリン、デオキシリピリジノリンの測定により証明された。

したがって、日本食の中でも大豆、海草、魚を豊富に摂取する沖縄の食生活こそがCVDの発症を抑え、沖縄の世界一の長寿を支える大きな要因であるといえる。

「第52回 日本栄養食糧学会大会」
('98 4/16〜4/19:沖縄コンベンションセンター)要旨集より

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