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「ダイオキシン・環境ホルモン」対策で、女性弁護士155名結束


平成10年6月26日(金)、弁護士会館(霞ヶ関)で女性弁護士たちが「ダイオキシン・環境ホルモン」問題の解決を目指した「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」結成を報道関係者に呼びかけた。同会議は東京弁護士会、横浜弁護士会など全国22弁護士会、155名の女性弁護士により設立されたもの。生命の存続をおびやかすダイオキシン・環境ホルモンの抜本的な解決のため、さまざまな領域から賛同者をつのり、より広範な国民運動へと高めていきたいとした。


化学物質に依存したライフスタイルからの脱却を図る必要あり

「化学物質による環境の汚染が広範囲におよんでいる。科学的証明を待っていたのでは手遅れになる。疑わしきは罰するという予防原則に立って対策を講じることが必要」――そうした設立趣旨を主催者側は説明した。
当日は、発起人および代表メンバーら10数名が会見に立ち会い、「ダイオキシン・環境ホルモン」問題の早急な解決を訴えた。

この中で、抜本的に解決策として、「廃棄を考慮した生産や消費、や化学物質過剰依存からの脱却、余分なものは買わないなどのライフスタイルの見直しが不可欠」などの提言を行なった。
同会議は6月16日に第一回の設立準備会を開催、その中で、「環境毒性学研究所の設立、包括的化学物質安全基本法案、ダイオキシン緊急対策特別法案の提言など具体的な構想も出ている」とした。

今後の取り組みとしては、1)情報交換と実態、2)国民への情報提供、3)政策提言、行動提起などを掲げ、・ニュースレターの発行、・学習会、シンポジウムなどの開催、・官公庁や政党、産業界などへの政策提言などを通して具体化していきたいとした。



「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」結成の呼びかけ

生殖異変

今、世界中のあちこちで、生殖に関する異常現象が起きています。雌雄同体化した魚、ペニスが短小化し生殖能力を失ったワニ、メス同士でつがいをするカモメ、子を産まなくなったミンク等々…。我が国でも同様の異変が起きています。多摩川のコイには精巣異常、雌雄同体化が観察されています。イボニシという巻貝では、メス貝にペニスがはえるインポセックス現象が、日本全国97の調査地点のうち94地点で観察されています。しかも、その出現率はほぼ100%です。

このような異変は何も野性生物界だけの出来事ではありません。異変は人間にも現れています。近年、世界各国で、ヒトの精子の激減が報告されています。我が国でも帝京大学医学部のチームの報告では、成人男子34人の精液検査でWHOの基準を満たしていたのはたった1人にすぎなかったそうです。また、不妊、停留精巣、精巣がん、前立腺がん、膣がん、子宮筋腫、子宮がんなどもこのところ急増しています。まさに、人類の生殖にも危険信号が点滅しているのです。

異変の原因――環境ホルモン汚染

こうした異変の原因は、環境ホルモン(正式には「外因性内分泌撹乱化学物質」といいます)と呼ばれるある種の化学物質であるということが、最近になって世界の科学者たちの協力によって指摘され、さらに解明されつつあります。環境ホルモンとは、人工の化学物質で、人間や動物の体内でホルモンと同じような働きをして、内分泌系の本来の作用を撹乱するものです。現在、ダイオキシン、PCB、DDTなどの農薬のほか、ノニフェノール(界面活性剤)、ビスフェノールA(ポリカーボネート製の容器や缶詰の内側のコーティング剤などに使用)、フタル酸化合物など約70種類の物質がリストアップされています。これら研究が進めばさらにその数が増えることが予想されています。

このような化学物質の中には、PCBやDDTなど既に製造禁止になっているものもありますが(しかし、これらの物質はいまだに食品中から相当濃度検出されています)、ビスフェノールAやフタル酸化合物など私たちの日常の生活用品の中に多用されているものもあります。環境ホルモンの特徴は、微量で作用することです。例えば、ダイオキシンなどは、50メートルプールに目薬を一滴注入した程度の濃度でも、ホルモン撹乱作用を起こすことがわかっています。私たちは、今や、従来の化学物質の安全基準についての考え方を抜本的に改めなければならないのです。さらに注意しなければならないのは、曝露の影響がその時期によって著しく異なることです。特に妊娠初期の曝露は、その後の生殖器官の発達に決定的な影響を及ぼします。この時期に曝露を受けると、思春期において精子の減少や精巣がんを引き起こしたり、60歳頃になって前立腺がんを発病したりするのです。

深刻化するダイオキシン汚染

また、最近、先天性異常や早産、流産、不妊、子宮内膜症、さまざまながん患者が増加しています。アトピー性皮膚炎疾患も急増しています。この背景にダイオキシン類が関係していることが指摘されています。ダイオキシンは、化学物質史上最強の猛毒物質といわれています。ベトナム戦争でアメリカ軍が空中散布した枯れ葉剤に含まれていたため、それを浴びた南ベトナムの住民に多数の先天性異常児が出生しました。また、散布に関わったアメリカ軍兵士の妻にも異常出産が多発していることが報告されています。ダイオキシンは、発がん性、催奇形性、生殖毒性、免疫毒性、ホルモン代謝障害などさまざまな毒性を有しています。先述の環境ホルモンの一つでもあります。

周知の通り、ダイオキシンは、塩ビ製品など有機塩素系化合物の燃焼過程で発生します。食品用ラップ、ビニール袋、プラスチック容器などの塩ビ製品は、戦後急激に生産量が増大し、今や私たちの身の回りに氾濫しています。このような塩ビ製品は、現在の高度な燃焼方法を用いても、ダイオキシンの発生をゼロにすることが困難なのです。家庭、学校、事業所などの簡易焼却炉による焼却や野焼き、さらには自治体や民間の焼却施設から、ダイオキシンが日々発生しています。我が国は先進国のゴミ焼却炉の約7割を有する「燃焼大国」です。我が国の燃焼施設からのダイオキシンの年間発生量は15キログラムと推定されています。これはドイツやアメリカの約40〜50倍の量です。我が国は世界最悪のダイオキシン排出国なのです。

ダイオキシンは難分解性物質で、水にはほとんど溶けません。しかし、脂肪にはよく溶けるので、動物の体内の脂肪層に蓄積されます。これが生体濃縮されて人間の体内に高濃度蓄積されるのです。しかも、ダイオキシンは、いったん吸収されるとなかなか体外に排出されません。一生のうち、最も大量に排出されるのは、何と胎盤と母乳を通じてなのです。つまり、母親の体内に蓄積されたダイオキシンが、胎盤と母乳を通じて、今度は我が子を汚染するのです。さらに、その汚染は、環境ホルモン作用を介して、その子ども(孫)の生殖能力を蝕むのです。何ということでしょうか。

さらに、母乳のダイオキシン汚染は、アトピー性皮膚炎疾患の発症に関係しているとの指摘がなされています。厚生省は「因果関係は明らかでない」との態度を取り続けています。しかし、厚生省の調査によれば、人工乳保育児と母乳保育児とを比較した場合、明らかに母乳保育児の方がアトピーの発病率が高いのです。このことからも、既に母乳の汚染は深刻なレベルにまで達していることは明らかではないでしょうか。母親は、誰でも、我が子によかれと思って母乳を飲ませます。それが愛しい子に悪いものを手渡すことに結果になっているとは、これ程苦しい、悲しいことはありません。母乳を与えるという大切な自然の行為に憂いをもたらすことのない環境に、1日も早く戻さなければなりません。

今こそ、国民的組織の設立を

以上みてきたように魚から貝からワニ、鳥、そして人間に至るまで、その生存自体の危機が深く進行しているのです。この危機は、大量生産、大量消費、大量廃棄という産業社会が構造的に生み出したものです。私たちは、安全性への配慮を欠いたままに、約10万種にものぼる化学物質を作り出し、この地球上にバラまいてきました。その結果が今日の種の絶滅の危機を招いているのです。私たち人間は、直ちに、このようなライフスタイルを抜本的に改め、危機を回避しなければなりません。そのための有効な対策を直ちに実行することが求められているのです。その意味で、ダイオキシン、環境ホルモン問題は、今や、最優先の政治的・社会的課題なのです。しかるに、我が国の立法府、行政府の対応は、このような危機の深さについての十分な認識を欠いているため、著しく立ち遅れています。しかし、それを批判だけしていても、それで危機が回避できる訳ではありません。もはや、手をこまねいて見ている状況ではないのです。国民が立ち上がって、立法・行政を動かす時なのです。

私たちは、一人の女性として、子どもたちやさらには地球上の全ての生命が蝕まれてのをこのまま見過ごすことはできません。私たち155名の女性弁護士は、このようなやむにやまれぬ気持ちから、立ち上がって運動を起こすことを決意しました。ダイオキシン・環境ホルモン問題を抜本的に解決するためには、この問題に関する知識の習得とそれに基づくライフスタイルの変革から、汚染実態調査や、疫学調査の実施及びその結果の公表、原因究明のための研究体制の確立、環境ホルモン化学物質についてのスクリーニングの問題物質の使用規制などの法整備、ゴミの減量・資源化・分別の促進、ゴミの安全処理の徹底(野焼きや簡易焼却の禁止、焼却設備の改善、残灰の埋め立て禁止など)、ダイオキシン規制の強化、塩ビ製品の使用削減・代替品の開発、ダイオキシン分解処理技術の研究開発、母乳汚染の調査と検査システムの確立、曝露回避方法に関する知識の普及など、広範囲な領域にわたる対策が求められています。

これらの問題は、決して一つの専門家集団だけで解決できるものではありません。あらゆる領域の人々が結集し、知恵を出し合わなければなりません。そのためには、従来の枠組みを超えた広範な国民的組織を設立する必要があると思います。そこで、私たちは、「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の組織化を提唱します。危機の深刻さをいち早く認識して既に運動を開始しておられる市民運動の皆さん、乏しい研究予算にもかかわらず、危機を察知して貴重な研究を続けておられる研究者の皆さん、そのような研究を真摯に受け止めておられる知識人やマスコミの皆さん、また危機の重大さを認識し何とかしようという思いを強く抱いておられる市民の皆さん、今こそ、それぞれの立場や利害を超えて結集する時です。以上の趣旨をご理解いただき、一人でも多くの皆さんが、この「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」の設立に参加されますよう心から願っております。

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