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ダイオキシンはいかに誕生したか、米国にみる歴史

産業廃棄物の焼却により、近年ダイオキシンの悪名がとみに高まっている。1960年代に米国がベトナム戦争で枯れ葉剤を散布し、副産物として発生したダイオキシンががんや催奇性をもたらすことは世界的に知られるところとなり、対策が急務となった。ダイオキシン対策に漸く本腰を入れ始めた日本と比べ、米国は過去の反省を踏まえ、ダイオキシン対策にいち早く取り組んできた。米国におけるダイオキシン対策の歴史、現況を報告する。

【ダイオキシンとは…】

ダイオキシンとは有機塩素化合物、ポリ塩化ジベンゾジダイオキシンの総称。塩素の数によって70種類以上あるといわれる。中でも、2-3-7-8は史上最強の猛毒として知られる。自然が作り出すものではなく、一般的には化学物質の合成過程や廃棄物の燃焼(米環境保護食【EPA】によると、ダイオキシン発生源の50%は不明としているが、判明しているうちの95%は燃焼が原因)などで生成されるもので、水には溶けず脂肪に溶け込む。環境の中で分解もせず蓄積されていくことから、長期にわたる野生動物やヒトへの影響が懸念されている。

史上最強の有毒物質は1800年代に既に姿を現していた

そもそもダイオキシンの起源はいつなのか。一説によると、1900年頃、ダウ・ケミカルの創始者が食卓塩をナトリウムと塩素原子に分解する方法を考え出したことから、急激なダイオキシンの蓄積が始まったのではないかという声もある。ただ、ある研究によると、1800年代にさかのぼってダイオキシンは既に環境の中にその存在が見られたともいう。

現在、燃やされ次から次へとダイオキシンを排出するゴミには――@一般的なゴミ(ボトル、カップなどプラスチック製品、漂白剤など日用品の多くにダイオキシンは使用されている)A産業廃棄物B銅の溶解、溶接C植物体などの有機物質。例えば、森林火災や家庭、商業地域で燃やす木製品。木は葉や枝にしみ込んでおり、燃えたときに発生D医療ゴミE鉛化ガソリン(現在は廃止)、無鉛化ガソリン――などがある。ヒトが作り、ヒトが消費した後のゴミを燃やして発生した思いがけない副産物でヒトは病気になっていると皮肉る声も聞かれる。

1930年代から急増、体内に蓄積されたダイキシンの影響徐々に

米国では排出量は1930年代あたりから急増。60,70年代にピークを迎え、現在は減少傾向にある。もちろん、一番の関心事は人体への影響。米環境保護局(EPA)環境毒声学の権威、リンダ・バーンバウム博士は、1976年イタリア、セベッソで起こったホフマン・ラロッチェ化学工場爆発事故を例にとり、その後の10年間を追跡調査した結果を次のように報告している。
爆心に近く最も汚染された地域をA(1ヤード四方の土壌からダイオキシンが最高494マイクログラム検出された。
ただし住民724人は非難)、汚染度の低い地域をB(同じく土壌から43マイクログラムを検出。住民4千824人は非難せず)、ほとんど汚染が見られなかった地域をR(土壌から4.3マイクログラム検出。3万1千647人は微量のダイオキシンを受けた)の3ゾーンに分類したところ、中で最もがん患者が多く出た地域はBゾーンだった。特に胆嚢がんや非ホジキンリンパ腫が多かった。

Aゾーンの罹がん率は少なく、Rでは肉腫がんが多く見られたという。これは突発事故によって大量に浴びた後の影響だが、1994年EPAが発表したダイオキシン関連再アセスメント文書でも、徐々に体内に蓄積されたダイオキシンが与える影響に関し次のような報告をしている。アメリカ人の体内に入り込んで溜まったダイオキシンの量は、平均体重1kg当たり13ng(ナノグラム=1ngは10億分の1g)と推測。非常に微量な数字に見えるが、EPAは場合によっては公共衛生を損ないかねないものと受け止めている。

米国環境保護局はダイオキシンを「発がんの可能性のある物質」と指摘

具体的にダイオキシンによる健康への影響はどうなのか。これまでの研究で、ダイオキシンは体の様々な機能を制御・統括する内分泌システムの働きを阻害することが分かっている。

例えば、男性の生殖機能で精子数の減少、睾丸機能衰退、睾丸構造異常、女性化など。精子数はこの50年間で50%も少なくなっているという。また女性の生殖器官異常では、子宮内膜症の増加が見られる。EPAの発表によると、動物実験で子宮内膜症の見られたサルの体内からは平均の5倍のダイオキシンが検出された。

その他、免疫システムの衰退(白血球異常の見られたサルのダイオキシンレベルは10ng/kg)、知的障害、糖尿病、障害児出産などの影響が挙げられている。さらに、体内の濃度が109ng/kgになった時がんに罹る危険性を指摘している。EPAでもダイオキシンを「発ガンの可能性ある物質」と認めている。

侵入経路の90%は食べ物から、問題視されている母乳の危険性

ダイオキシンはどのように体内に取り込まれるのか。EPAによると、人体への侵入経路は90%が食べ物からだという。ダイオキシンが蓄積された土壌で育つ牛、ブタ、鳥、さらに果物、野菜。口から入ったダイオキシンは、体内脂肪に溶け込み蓄積されていく。「1日の摂取耐容量(ADI)」は1日につき体重1kg当たりの1pg(ピコグラム=1兆分の1g)で表されるが、国によってまた機関によりその数字はばらばら。例えば、WHOの示すADIは、EPAが危険性を特定する量(RSD)の千倍大きいという。

ちなみにWHOと同じADIを示している国は、UK、カナダなど。米国のEPAは0.01pg、FDAは0.1pgと表している。また、経路の1つ、母乳を通した乳児への影響も懸念されているが、あくまでも微量のためその危険性への疑いを残しながらも、専門家は母乳で育てる有効性を優先させている。

米国におけるダイオキシン対策の歩み@--ベトナム枯れ葉剤以降を検証

ダイオキシンの毒性を示す代表的な例に、米国がベトナム戦争で使用した枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)がある。これは、1963年から1971年の間にベトナムのジャングルに撒き散らされたが、元々2種類の除草剤、2,4,5-Tと2,4-Dを1:1の割合で混合したもの。製造過程の副産物としてダイオキシンが発生する。
どちらも1940年代半ばかから米国で使用され始めた。しかし、ベトナム戦争後、多くの研究で人体への悪影響が指摘されるようになり、1983年政府は2,4,5-Tの使用を禁止した。
枯れ葉剤を受けた地元民、また薬の浸み込んだ土壌を歩き回ったり空気を吸った米軍人への影響は徐々に現れ始め、がんの罹患率を調べた研究でかなり高い数値を示した。

1984年米議会は、@ベトナムに兵役した軍人の健康への影響調査A特に枯れ葉剤を浴びたと思われる軍人調査Bさらに、6種類のがんについてその罹患率を調べる調査を指示した。

1990年3月、米疾病予防センター(CDC)は3つ目の調査結果をまとめたが、復員者が免疫組織のがん、非ホジキンス・リンパ腫に罹る率は通常の50%も高くなっていることが分かった。しかし、CDCは枯れ葉剤との関連性を立証は出来なかった。というのは、ベトナム沖にいた海軍軍人(沿海域におけるダイオキシン汚染は?)の方が陸で勤務していたものより、罹患率が高い傾向にあったという事実も分かったからだ。さらに、他5種類のがん(軟組織肉腫、ホジキンス病、肝臓がんなど)では、罹患率の増加は見られていない。また、がんの他にも出産障害、乳児突然死症候群(SIDS)なども多く報告されている。SIDSは、既に明らかになっているダイオキシンの免疫力低下が要因となっている。

米国におけるダイオキシン対策の歩みA-1993年以降、規制運動が活発化

ダイオキシン規制に関しては、これまで政府機関と企業側との間で議論が繰り返され、そのたびに人体への影響の科学的立証を要求する企業の反発を受け、なかなか前進しなかった。特に、製糸業(紙の漂白などに使用)の反発は大きいものがあった。しかし、健康への影響を調べる調査が進むにつれ、様々な障害が明らかにされると同時に、1993年10月、米公共衛生協会が塩素の段階的使用撤廃を求めていく決議を採択するなど、市民団体や環境保護団体がダイオキシン規制へと動き始めた。

また、EPAもパルプ・製紙業界へ排出規制を強化する最終条例施行へ準備を整えている。これは、米国内の製紙工場に対し、パルプ漂白過程において二酸化塩素の代わりにElemental Chlorineを完全使用する方法のOption Aか、それに加えてさらに進んだ技術を採用するOption Bの選択を要請するもの。製紙業界も世論の意識の高まりに押された格好で、現在ではElemental Chlorine-Free(ECF)技術を導入するところが増えてきた。

その結果、1988−94年で、北米のパルプ・製紙業界の汚水排出量は96%も減少したという報告も出ている。さらに97年7月、米食品医薬品局(FDA)は養鶏農家や飼料製造業者350件に対し、ダイオキシンに汚染された飼料の使用を中止するよう通告するなど、監視体制を強化している。これは、鶏の脂肪80見本を調べた最近のテストで、正常が0.6Parts(ダイオキシンtrillion当たり)のところ、22から26Parts検出されたことによるもの。

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