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なぜ、キレるのか〜脳の働きと食生活との関係

7月17日、有楽町マリオン朝日ホール(東京都千代田区)で公開講演会「子どもの心と体の健康を考える」(主催:日本ケロッグ梶jが開催された。当日、「なぜ、子どもがキレるのか-食生活と子どもの心の心身の健康について-」と題して、福山私立女子短期大学教授の鈴木雅子氏が講演を行った。

「キレる」、「ムカつく」は脳の栄養不良

このところ、児童の刺殺や幼児虐待など常軌を逸した凄惨な犯罪が頻発している。

「子供がキレる、キレるというが、最近は、子供ばかりでなく大人もキレている。やってはならないことを飛び越えている」--。冒頭、鈴木氏は最近の世相をそのように述べた。一頃、子供たちがキレるといわれたが・・・

確かに、最近は社会性の欠如した、キレた大人たちの暴走が目立つ。

何が、彼らをそうさせるのか---。
情動をつかさどる脳に何か変化が生じているのか。
かつて、鈴木氏は子供たちの食生活と行動の相関について調べている。
調査は1986年に、広島県福山市、尾道市の中学1年〜3年生の男子615人、女子554人の計1169を対象に、男女をそれぞれ5つのグループに分け、「食生活」、「健康」、「生活」、「いじめ」の4項目についてアンケートを取り、「食生活」については、1)最も良い、2)良い、3)普通、4)悪い、5)最も悪い、という5段階の採点をした。

その結果、4)、5)のグループは野菜や海藻、牛乳の摂取が少なく、ジュース類やスナック菓子、インスタント食品を多く摂っており、半数以上が朝食を食べていないという状況にあった。また、情動が不安定で、根気がなく、常にイライラして、カッとしやすいという傾向にあった。
中でも、5)の男子については、「腹が立つ」が96%、「イライラする」が92%、「すぐにカッとする」が88%という比率で、「食」内容が劣悪になるほど、「キレる」、「ムカつく」傾向にあることが明らかとなった。

昨年度の公立小中高校生の「暴力行為」、過去最多に

こうした「食」と「情動」との相関が、15年前、鈴木氏の調査で指摘されたが、現状はどうか---。
8月24日に、文部科学省が「生徒指導上の諸問題の現状についての調査」を発表した。それによると昨年公立の小中高校生が起こした「暴力行為」は、全国で4万374件にものぼった。これは、前年度を10.4%上回り、過去最多。
なかでも、「教師に対する暴力」は5,778件、前年度比16.2%増で最も増え、「生徒間暴力」も2万751件で前年度比10%と増加している。

また、厚生労働省は9月より、注意力や集中力に欠け、落ち着きなく、イライラして、動き回るといった情動障害で学校になじめない児童生徒が目立ってきたとし、6歳から15歳の児童生徒3,000人を対象に、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」についての全国調査を行うことを発表した。これは6ケ月間の子ども達の行動を4段階で評価するというもので、来年3月に調査結果を公表する予定だ。

なぜ、かくもキレやすい、情動障害の児童生徒が増えているのか。
15年前の鈴木氏の調査以降、日本中で「食」の改善がなされたとは思えない。
「食」と児童生徒、さらに大人たちの反社会的な行動とはやはり密接な関連があるのだろうか---。

朝食の欠食は「脳の栄養失調状態」招き、脳の機能低下に

講演の中で、鈴木氏は、劣悪な「食」で「脳が栄養不良」状態になり、理性、判断力など情動が不安定になっているとした。だが、飽食といわれる現代にあって、なぜ脳が「栄養不足」になるのか。
「身体はたんぱく質も糖質も全てエネルギーにすることができる。だが、脳はそうはいかない。糖質、ブドウ糖だけがエネルギーになる。そのため絶え間なく送り込まなければいけない。脳の重量は大人でだいたい体重の2%、1200gから1400gくらい。身体全体で使うエネルギーの18%から20%はここで使う。これは膨大な量。そのため朝、昼、夜きちんと食べ、エネルギーを補給する必要がある」(鈴木氏)。

脳の活動のため必要なブドウ糖は、米や麦、イモ、豆類などに多く含まれる糖質あるいは砂糖などがその供給源となる。朝食の欠食は、ブドウ糖ばかりか、ビタミン・ミネラルなどの栄養素も得られない。つまり脳が一時的に「栄養不良」状態になる。

こうした状態が長らく続くと、情動障害ばかりでなく、脳の機能低下を招くことが海外でも報告されている。1919年に、戦時中(第一次世界大戦)、食べ物が十分でなかった5歳半-14歳までの6,500人の子ども達を対象に行った調査でも、普通の食事を摂った子どもに比べ、栄養不良児は伸長や体重が劣り、集中力、記憶力、注意力など知力が低いことが明らかになっている。

また、1974年に、世界保健機関(WHO)で、「食」と「精神状態」との相関について、「発育盛りの子どもたちは軽い栄養不足でも、知的遅れと精神状態の不安定さがみられる」と警告している。

砂糖はブドウ糖の供給源、摂り過ぎでB1不足の懸念も

脳の活動のためにブドウ糖が必要で、穀類や砂糖がその供給源となることはわかった。確かに、ネズミの餌にブドウ糖を与え、記憶力を調べる迷路実験を行ったところ、餌を食べた2時間後に、記憶力と学習能力がピークに達したという研究報告もある。

だが、問題視されているのがその摂取量。砂糖が細胞内でブドウ糖へと分解される際、糖代謝酵素の補酵素としてビタミンB1が使われる。そのため、砂糖の摂取量が多くなると、ビタミンB1不足が進み、イライラや意気消沈、集中力の低下など情動障害が生じる。また、身体的にも肥満や糖尿病、むし歯、筋肉の弱化、骨密度の低下、近視などを招くおそれがあることが指摘されている。

現在、日本では1日の総カロリーの50%を炭水化物から摂ることが薦められている。炭水化物に分類される砂糖は、総カロリーの8%の摂取で、全体的にみると、摂り過ぎということでもない。今年4月施行の「第6次改定日本の栄養所要量」でも、「砂糖の1日の摂取許容量」といったものは特に定められていない。

しかしながら、個々人の摂り方はさまざまで、特にジュース類(1缶250mlに約20〜40グラムの砂糖が含まれる)など多飲する子供たちの場合、砂糖の摂り過ぎで血糖値が上がり、インスリンが大量に分泌され、低血糖症になり、イライラや集中力低下などの情動障害を招くことを懸念する声もある。
ただ、これについては議論が分かれており、国連食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)に報告された海外の研究では、「砂糖が子どもの行動に重大な影響を与えるという主張に科学的根拠はない」とする報告もある。

食品添加物など化学物質も「情動」に影響

この他、情動障害や脳の機能低下に関連しているものにどのようなものがあるか---。
指摘されているのが食品添加物や農薬などの化学物質。ダイオキシンなどのいわゆる環境ホルモンも同様。前述の「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」について、米国では、1965年に小児科医ベンジャミン・F・ファインゴールド博士が着色料や防腐剤として使用されているサリチル酸などの食品添加物がADHDに関与しており、ADHDの約4割は食品中の化学物質によるものと指摘。食品添加物を完全に除去することで、ADHDの5割から7割に回復が見られたと報告している。
この他にも、子どもたちの異常行動に食品添加物などの化学物質が何らかの関与をしていると指摘する声は多い。だが、なぜかということについてはまだ明確なことは判っていない。一説には、化学物質が過剰に取り込まれると活性酸素が異常発生し、脳機能が損傷、変調を来たすためとの見方もある。

現在、米国でダイオキシンやPCBなどの環境ホルモンが脳神経に異常を与えるという研究報告が次々に発表され始めているが、日本に環境ホルモンの恐怖を紹介したシーア・コルボーン博士も化学物質が脳にダメージを与える可能性を指摘している。汚染の進む米国の五大湖の魚を食べていた母親が生んだ子供たちの知能を15年間調査したところ、臍の緒にPCBが多く含まれていた子供ほど知能が低くなっていたという。臍の緒を通じて化学物質が胎児に入り込み、脳に損傷を与えた可能性が考えられている。

セロトニンの分泌欠如が情動障害もたらす

ところで、情動をつかさどる脳の情報伝達機能とはどのようなものか。

概要はこういうことだ。脳はニューロンという神経細胞の集まりで、ニューロン間にはシナプスという間隙があり、ここで、神経伝達物質が放出され、電気信号がその先のニューロンに伝わる。この神経伝達物質にはアセチルコリン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ギャバ、ドーパミン、セロトニンなど(一説によると数百種類あるといわれるが、相互作用についてはまだ十分解明されていない)があり、脳機能の活性化に重要な役割を果すとされている。

最近ではセロトニンが、脳の働きを鼓舞したり、気分の落ち込みや鬱症状に深く関与するとされ注目されており、セロトニンの神経間の伝達を調整する医薬品としてSSRI(脳内薬品)が話題になっている。

セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から作られるが、ネズミにトリプトファンの欠乏した食事を与えた実験で、5週目の終わりには脳内のセロトニンが減少することが確認され、セロトニンが減ったネズミは正常なネズミと比べて痛みを感じやすくなっていたという研究報告もある。

セロトニンについては、8月15日、朝日新聞(朝刊)の「私の暴力論」と題したコラムの中で、北海道大教授で脳科学者の澤口俊之氏が触れている。
一部抜粋すると、「脳科学的にいうと人間の「暴力」には脳の前頭連合野と呼ばれる部分が関係している。前頭連合野は社会性や理性をはぐくむ働きをする。不気味な暴力犯罪の頻発はこの働きが鈍くなっているのも一因」で、最近電車の中で平然と化粧をしたり、足を投げ出して床に座ったりという若者の行動は前頭連合野の働きが弱くなっているためとしている。
また、前頭連合野を活性化するセロトニンやドーパミンといった脳内物質の分泌が少ないことを指摘している。

「健全な脳を作る」ために必要な栄養素とは

それでは、「脳の健全化」のために、どのような栄養素を摂る必要があるのか。
脳の活動エネルギーのためにブドウ糖を補給する必要があるが、白米や砂糖の摂り過ぎはB1不足が進み、情動障害が生じる懸念もある。他のビタミン・ミネラルの補給も十分できない。

ビタミン・ミネラルの適切な補給は「脳の健全化」のために必要だ。カリフォルニア州立大学の研究グループが、6歳から12歳の児童40人にビタミンやミネラルを十分に与え、他の40人に偽薬を与えたところ、ビタミン・ミネラルを与えたグループは偽薬グループと比べ、反社会的な行動が47%少なかったという報告もある(The Journal of Alternative and Complementary Medicine'00/2月号)。

とりわけビタミンB群は情動のコントロールに欠かせない。B1以外に、B2(リボフラビン)も不足すると鬱症状を招くとされる。またB6はアミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝に関与し、不足すると、神経過敏やいらだちなどを招くとされる。
また、B12は造血にも関与するが、不足すると貧血や脱力感を招き、情動面でも、記憶力・集中力の低下、知覚異常、鬱症状を招くとされる。

ブドウ糖の補給源として白米や砂糖は貴重だが、はたして精製したものがベストといえるか。
白米や砂糖は食物繊維不足から血糖値を一気に押し上げ、糖尿病へと至らしめる可能性もある。食品添加物など化学物質が脳機能に何らかの影響を及ぼすことが示唆されているが、食物繊維はダイオキシンなど化学物質の吸着・排泄についても重要な役割を果すことが最近明らかになっている。

では、「ブドウ糖の補給に優れ、ビタミン・ミネラル、さらには食物繊維が十分摂れる」食品とは一体どのようなものか---。
「未精製穀類」がそれに該当する。
米国では、今「未精製穀類」に高い関心が集まっており、全粒粉のパンが人気だ。日本は、戦後、パン食が奨励され、精製したパンが徐々に食卓へ浸透していったが、同様に白米にしても、精製される段階で、ビタミンB1が70%以上、たんぱく質が8%、また微量元素のミネラル類も欠落する。食物繊維にいたってはいうまでもない。

「脳の健全化」のために、どれほど「未精製穀類」が効率のよい食品かがわかる。そのため玄米や七分つき、胚芽米や麦などビタミン・ミネラル、食物繊維がほどよく含有されている食品が「脳の健全化」のために薦められる。

さらに、日本が世界に誇るブレインフード(頭脳食)として挙げられるのが「納豆」。「脳の健全化」のためだけでなく、「優れた脳」を作るためにも必要な食品といっていい。大豆にはレシチンが含まれているが、消化の際、コリンという物質になり、記憶回路の活性化に関連するアセチルコリンという神経伝達物質を作る材料となる。さらに、神経の興奮を抑制するカルシウムやマグネシウム、神経細胞の活性化に欠かせないビタミンKやなどのミネラルも納豆には豊富に含まれる。

米国に、知能指数が200を超える日系三世のマイケル・カーニーという天才少年がいる。この少年は4歳の時に知能指数が200を超え、6歳で高校を卒業し、10歳で南アラバマ大学を卒業してギネスにも登録され、米国中の話題をさらったことがある。このマイケル君の大好物が「納豆ごはん」で、母親はマイケル君を身ごもっていた時から、和食中心の食事と納豆を摂っていたという。

また、この他に、ビタミンCや魚油に含まれるDHAやEPAなどが(ただし、不飽和脂肪酸のため酸化して過酸化脂質になりやすく、過剰摂取は活性酸素を発生させる原因にもなるともいわれる)脳の機能強化に役立つとされる。

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