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疾病予防で、食品の「抗酸化機能」がクローズアップ 6月11日、経団連会館(東京都千代田区)でネスレ科学振興会 第8回講演会「健康を考える〜食品の抗酸化機能」が開催された。お茶の水女子大(生活環境研究センター)の近藤 和雄教授、名古屋大大学院(生命農学研究科 食品機能科学研究室)の大澤 俊彦教授、ネスレリサーチセンターのアンリ・ディラン氏らが食品の栄養・成分の抗酸化機能について報告を行った。
生体の防衛機能であるはずの「活性酸素」が、逆に生体を攻撃し始めた
「人は1日に2500リットル以上の空気を吸っている。500リットルが酸素、そのうちの1から2%が活性酸素になる」(大澤教授)。 活性酸素が過剰に発生すると、防御から逆に生体を傷つけ、がん、糖尿病などの生活習慣病、アトピー性皮膚炎などさまざまな疾病を引き起こす原因となる。
また、活性酸素は酸化力が強く、脂質と結合して「過酸化脂質」を生じ、細胞を損傷させる。活性酸素そのものより過酸化脂質による害のほうが生体へ与えるダメージが大きいともいわれる。 脂肪の摂取量の増加が動脈硬化性疾患を招いた 活性酸素の発生、さらに脂質酸化による「過酸化脂質」の産生で、我々の細胞は日々むしばまれている。しかしながら、活性酸素の過剰発生を食い止めるための環境やライフスタイルの改善はもはや困難なところまできている。いわゆる「文化的な生活」を放棄することは現代人には無理な話だ。
そうなると、「活性酸素」から身を守るために、日頃から脂質酸化を防ぐ食品、抗酸化食品を摂るしかない。
ところで、狭心症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患は、コレステロールの増加と関連がある。その背景には脂肪の摂取量が多いに関係している。朝鮮戦争の際、米国の20代の兵士が心筋梗塞を発症するほど動脈硬化が進んでいるということがわかり、それ以来、脂肪の摂取量をなるべく抑えたほうがよい、といわれるようになったのは有名な話だ。 日本人の食事に占める脂肪の割合は25%、戦後に増加の一途
では、日本はどうかというと、戦後、脂肪の摂取量はどんどん増え、食事の中で占める割合が、「昭和20年代はほとんど10%以下だったが、昭和40年代、50年代には20%を超え、昭和55年から25%になり、それがずっと続いている。一番最近のデータでは25.3%」(近藤氏)。 ただ、ここで問題とされるのは、悪玉といわれる酸化変性LDLコレステロール。善玉といわれるHDLコレステロールは身体の組織作りに関与し、必要不可欠なものとされている。
ここで少し動脈硬化の成り立ちについて述べてみたい。 これがたびたび繰り返されると、活性酸素は細胞内だけでなく、細胞外にもあふれ、血管壁を傷つける。こうしてできた裂け目を修復するために、血漿版などが動員され、血管内に血栓を作る。この血栓で血管が詰まり、動脈硬化へと進むとみられている。 高脂肪食のフランスになぜ動脈硬化性疾患が少ないのか
ところが、ここに抗酸化物質が投入されると、このメカニズムが抑制される。
なぜか--。 ところで、「フレンチ・パラドックス」に対し、「ジャパニーズ・パラドックス」という言葉があるという。日本は喫煙率が非常に高い。男性の50%近くがタバコを吸っている。にも関わらず、虚血性心疾患が少ない。外国からみると不思議に映るが、「脂肪の摂取量が少ないこと。お茶のタンニン、カテキンが関係しているかも知れない」と近藤氏はいう。 抗酸化物質で生体を防御し、病気を未然に防ぐ
では、どのようなものに抗酸化機能があるのか。 さらに、意外なところでは、「ウイスキーやコニャックは樽につめて熟成をさせるが、そうした過程で木からポリフェノールが出る。これにより非常に強い抗酸化能をそれらにもたらすということも分かってきている」(近藤氏)という。 また、大澤氏は、ゴマのリグナン類、香辛料ターメリックの黄色色素であるクルクミンを挙げた他、「300種類以上の野菜・成分をみたところ強い活性があったもの」として、ガーリック、オニオン、ワサビ、クレソン、大根、ブロッコリーなどを挙げた。 「単一の抗酸化物質に関して、それを公衆衛生的に勧告するだけのデータはない」(H.ディラン氏) またネスレリサーチセンターのH.ディラン氏は、活性酸素について、「活性酸素(フリーラジカル)の生成は生命に欠かせない重要なプロセスであり、完全に酸化ストレスを除去するというのは幻想である。重要なことは酸化物質と抗酸化物質のバランスを計ること」とし、抗酸化物質としてビタミンE、C、β-カロチン、グルタチオン、ポリフェノール、カロチノイド、微量元素のセレンや鉄、亜鉛などを挙げた。 また、H.ディラン氏は、抗酸化物質を日頃の食事から摂る場合とサプリメント(栄養補助食品)で摂る場合とについても言及し、「人のデータで、抗酸化物質の豊富な果物や野菜はがんや循環器病、白内障のリスクを減らすことや、血中での抗酸化物質やビタミン濃度が低いと慢性病のリスクが高くなることが示唆されている」と述べた。 ただし、「単一の栄養素ではなく、食物に含まれている複数のものを総合的に考えることが重要である」とし、過去に行われたβ-カロチンの大規模な栄養介入試験のネガティブデータを取り上げ、「単一の抗酸化物質に関して、それを公衆衛生的に勧告するだけのデータはない。サプリメントというのは非常に大量に入っており、それが長期的にどういった影響を及ぼすかはまだわかってない」と付け加えた。 近年、我々は現代栄養学に基づき、あまりに非栄養素を軽視し、加工食品を氾濫させてきた。精製加工で排除された非栄養素といわれる成分に抗酸化物質が多く含まれることを知らなければならない。食品をトータルで摂ることの重要性を今ようやく気づかされ始めたといえる。 ともあれ、日頃から抗酸化物質を多く含む食品を摂り、生体を防御しなければならない状況に追い込まれているのは事実。
近藤氏はいう。 確かに身体を作り、エネルギーの元として、食べ物を摂らなければいけないが、我々が21%の酸素を含んでいる空気の中で生きていくためには酸素対策も必要で、そのためには抗酸化物をきちっと摂ることが必要」。
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