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糖尿病体験者フォーラム、予備軍に警鐘

5月24日、東京国際フォーラム(JR有楽町駅前)で日本糖尿病学会主催の「糖尿病予防のための市民講座」が開催された。戦後、食の欧米化が進み、糖尿病人口が急速に増えつつある。現在糖尿病人口500万人、予備軍に至っては1,500万人といわれる。この日、会場は5,000席をほぼ埋め尽くす状況で糖尿病への関心の高さがうかがわれた。

予防は、先ず正しい知識を持つことから(青島都知事)

冒頭、青島都知事がビデオによる挨拶を行い、「敵を知り、己をしらば百戦百勝危うからずという言葉もありますが、糖尿病と闘いたいという気持ちがあるのなら、糖尿病とは何たるを知ることが、先ず大事」と述べた。この後、「どうしたら糖尿病を封じこめられるか」をテーマにパネルディスカッションが行われた。今回参加したパネラーは以下の通り。

澤地久枝(作家)・・代表作「妻達の226事件」など多数、過去3回、心臓病の手術を行う。

渡辺文雄(俳優)・・「日本の夜と霧」など多くの作品に主演、TVレポーターとしても活躍。糖尿病体験から、ライフスタイルの改善を行う。

エム・ナマエ・・糖尿による合併症で盲目になる。現在イラストレーターとして活躍/吉川隆一・・糖尿病腎症専門家、滋賀大教授/赤沼安夫・・日本糖尿病学界理事長/司会・小宮山洋子(NHK解説委員)

病気は転んでみないとわからない(渡辺)、その人の癖が病気を創る(エム・ナマエ)

以下、パネルディスカッションで展開されたそれぞれのパネラーの糖尿病についての見解を要約、紹介する。

渡辺…ライフスタイルを変えれば糖尿病は改善できる

渡辺「僕は月に1回通院しています。今はいい数字がでていますが、これはいい先生と出会えたということが原因かと思います。それまで僕は酒は飲む、たばこは吸う、夜更かしはするで、身体に悪いことは全部やっていました。お医者さんに、酒を飲む日と飲まない日と分けて、生活にメリハリをつけろといわれました。これがよかった。酒の楽しみ方が判った。それから、歩くということがこんなに楽しいことかということも初めて知った。僕のライフスタイルが変わった。ただ、これは非常に難しいことです。自分自身が納得しないとライフスタイルは変わらない。病気は転んでみなきゃわからないから」

エム・ナマエ…日ごろからいい癖をつけていれば病気にならない

エム・ナマエ「私は糖尿病の合併症である網膜症と腎症になりました。私は画家でしかも無茶な生活をしていましたが、ずっと健康体であると思っていました。検査も怠っていた。34歳の時に糖尿が原因で失明するということを宣告されました。画家にとっては死刑を宣告されたようなものです。1983年に宣告されて3年後には完全に失明しました。同時に人工透析も導入しました。その人の癖が病気を作る。日ごろからいい癖を付けることが大事だと思う。そのことが病気をつくらない、もしくは病気を悪くしない最大の秘訣。結局、自分で痛い思いをしないとわからない」

糖尿人口500万人、予備軍1,500万人

また専門的な立場から、日本糖尿病学会の赤沼氏と滋賀大教授の吉川氏が糖尿病について以下のように述べた。

赤沼安夫(日本糖尿病学会理事長)「日本人の伝統的な生活スタイルであれば糖尿病は起こりにくい」

糖尿病は血液の中のブドウ糖値が高くなる病気。その結果、尿に糖が出る。尿に糖が出ない糖尿病もある。膵臓からインシュリンというホルモンの出方が悪いか、あるいは出ててもムダに使われているということで血糖値が高くなる。

糖尿病は大きく分けてT型とU型とある。T型というのは急に発症し、膵臓の免疫異常で起こるもので、太りすぎとか運動不足が原因で起こるというわけではない。U型はインシュリンの出方が悪く、しかもムダに使われるというもの。こちらは昭和30年頃から増えていて現在では糖尿人口500万人といわれている。また予備軍は1,500万人といわれる。西欧化により、生活スタイルが美食、あるいはモータリゼーションといった高脂肪食と運動不足に陥り、インシュリンをムダ使いするということで起きている。特にお腹の脂肪が増えるというのはよくない。これはインシュリンをムダ使いする。日本人は伝統的な生活スタイルのままであれば、糖尿病はあまりおこらない。

私はよく歩きますが、歩くと脂肪細胞が出す悪いホルモンが減る。お腹の脂肪が少なくなってくると、悪いホルモンが減ってインシュリンがムダなく使われるようになる。糖尿病が起こりにくくなってくる。

吉川隆一(滋賀大学教授)「早目の検査を心がけることが必要」

ほとんどの糖尿病の患者は、自覚症状がない。検査をしないとわからない。恐いのは合併症。血糖値の高い状態が長く続くと、血管が障害を受けて臓器の障害が起きてくる。腎臓の起こるのが腎症。目の網膜に起きる網膜症、あるいは抹消神経に起きてくる。

腎症については、腎臓の働きがだんだん悪くなり、最終的には腎臓が機能しなくなる。腎臓は身体の老廃物を外に出してくれる。これが円滑に行われなくなると、いろいろな老廃物が溜まり、尿毒症になる。そうなると、週に3回、4,5時間の透析を受けなければいけなくなる。今こうした患者さんがどんどん増えてきている。年に8,000人以上が患者になっている。現在日本では3万人以上の人が糖尿性の人口透析を受けています。では、どうしたらいいか。腎症は高血糖が長く続くことで起きる症状ですから、先ず血糖値を下げることが肝心。腎症は症状がない。症状を自覚し始めたら、ほとんど末期に近づいているものと思っても間違いない。そのため早期の診断を行うことが必要。

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