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砂糖摂取で精神状態はどう変わるか 最近の若年層の情緒不安が「低血糖」によるものとされ、これに砂糖が深く関与していると摂り沙汰されているが 6月17日、18日に開催された「砂糖と健康・東京フォーラム」の中で、ロンドン大学医学部のPh.D.Edward L.Gibson氏がそうした砂糖に関する誤った認識を正した。
Gibson氏の講演後、そうした質問が会場から挙がった。 3年前の事件。殺害した小学児童の首を校門に置き、日本中を震えあがらせた、あの酒鬼薔薇聖斗事件のことだ。「長期的に砂糖を摂らないと精神不安を引き起こすのか」というのが質問の意図。前日の演者MS RD RitaTsay女子(マサチューセッツ工科大学臨床医学研究所 理学博士)の「砂糖は短期的に精神を和らげる」という説を受けてのものであった。 これまで、一般に言われてきたことは「砂糖の摂取は低血糖症状(※注1)を招き、それに伴ってイライラなどの情緒不安が生じ、反社会的な引き起こす可能性が高い」ということであった。それが、MS RD RitaTsay女子の講演では、逆に「砂糖を摂らないことで、情緒不安を招く可能性」が示唆された。 質問に対するGibson氏の答えは、「砂糖が子供たちの振るまいに影響を与えるか、比較実験を行ったが、答えはノー。砂糖の摂取量が子供たちの精神状態に影響を与えるということを支持するデータはない」というものであった。また、「これまで砂糖がたくさん入っているものを食べると中毒になる。また血糖が急上昇を起こし、低血糖になり、意識が薄れる、疲れる、もしくは鬱状態になるということがかなり広範に信じられており、医療関係者の中にもそう言っている人がいるが、これはサイエンスフィクションであって事実ではない」(同)とした。 (※注1)インシュリンの過剰分泌から一時的に血糖が低下する状態。 1997年4月、WHO(世界保健機関)が「砂糖は安全」宣言 実際に、砂糖は有害なのか。有用なのか---。 1997年4月、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)が「砂糖は安全な食品である」と宣言し、これまで一般に言われてきた、「砂糖の摂取が行動過多(hyperact)を引き起こす」、「肥満を促進する」といった説を否定した。 これまで、砂糖摂取に伴い指摘されてきたことに、1)低血糖による情緒不安、2)肥満の促進、3)カルシウムの溶出、などがある。 1)に関しては、今回、MS RD RitaTsay女子やGibson氏が否定。「糖分やその他の炭水化物を摂取することは、脳のセロトニン水準を上昇させ、精神的健康に肯定的影響を与えるものと思われる」(MS RD RitaTsay女子)、「糖分は鬱状態を起こすどころか、中枢神経系において内因性オピオイドを放出させることによりストレスを軽減することが確認されている」(Gibson氏)とし、むしろ精神の安定化を図るためにも糖分が必要と説いた。さらに、井上修二氏(共立女子大学 医学博士)らも動物実験の結果から、「高砂糖食はストレスの影響を弱める作用がある」と結論付けている。 2)については、よく論じられるところだが、ラットによる高砂糖食と高脂肪食との飼育の比較では、「高脂肪食飼育では有意の体重増加をもたらしたが、高砂糖食飼育では体重増加をもたらさなかった」と井上氏。また、Gibson氏も「体重増加は糖分の摂取とは関係がない」と否定。「肥満は糖分の消費の多さではなく、少なさと関連付けられる。むしろ、脂肪摂取の増加が肥満を促進する」とした。 また、3)については、砂糖はビタミンB1が含まれていないため、多量に摂るとB1が不足し、血液が酸性化するため、骨からカルシウムが溶出するという説はマスコミによる風説にすぎないという。 脳のエネルギー源としての「砂糖」の役割
砂糖とは、一体どのようなものか。再度考察してみたい。砂糖の原産地は南太平洋ニューギニア周辺で、今から2千300年前に西インドの遠征中にアレクサンダー大王の一行がサトウキビ(イネ科の多年草植物)を発見し、その後、マルコポーロやコロンブスが世界中に広めたといわれる。日本に伝わったのは8世紀(鹿児島県と沖縄県が主な生産地)で、薬としても利用されたという。
砂糖は炭水化物の類で、体内で加水分解され、ブドウ糖と果糖になる。ブドウ糖(別名グルコース)は脳のエネルギー源として使われ、記憶の向上や調節に重要な役割を果たすことが確認されている。同じ炭水化物でもご飯やパンは、ブドウ糖に分解吸収されるまで時間がかかるが、砂糖の場合、吸収が早いとされる。 この、脳のエネルギー源としてのブドウ糖であるが、「脳は1日に約120gのブドウ糖を使う。朝食を摂った人は欠食者よりも学力でも想起テストでも優れている。これは欠食者の血糖が低く、脳の働きが低下しているため。時間がなければ、消化が極めて容易な砂糖を入れた飲料だけでも少し役に立つ」と香川靖雄氏(女子栄養大学副学長)。老人が欠食で低血糖を続けると痴呆を進行させるおそれがある、という。 米国では若年層の砂糖の過剰摂取を警告 現在、日本では総エネルギーの8%を砂糖から摂っているといわれるが、近年飲料水の砂糖抜きなどにもみられるように砂糖離れが進行しつつある。一方、米国はというと、20年前、砂糖から摂取するカロリーは全体の食事の12%であったが、現在平均で16%、10代の若者にいたっては20%にもなっており、消費者団体(Center for Science in the Public Interest)が過剰摂取を警告している。現在、米国では、10%以下に抑えることが目標になっている。
実際に、クリントン前米大統領も2000年5月27日に米国民向けラジオ演説で「食生活ガイドライン2000」を発表し、「穀物、野菜、果物を毎日食べ、飽和脂肪、コレステロール、砂糖、塩、アルコールは控える」べきと、砂糖摂取について注意を促している。
砂糖に関する、誤った認識を改める必要はあるものの、過剰摂取はやはり禁物だ。「過剰の砂糖摂取は、血糖の急速な上昇を伴い、肥満、糖尿病、動脈硬化、虫歯の原因になる」(香川氏)との指摘も当然ある。 米国政府の最新の調査データ(Food Intakes by Individuals 1994−1996)によると、米国民は1日平均茶さじ20杯の砂糖を消費しているといわれる。米国では糖分摂取量が増加していることから、昨年の8月、前述の米国消費者団体(CSPI)が、食品のラベルに砂糖の自然含有量と加工含有量とを分けて表記するよう米食品医薬品局(FDA)に要請している。例えば、砂糖含有量合計15グラムの食品に対し、5グラムが自然含有量、10グラム(一日必須摂取量の25%)が加味精製砂糖という具合。 現行のものは食品全体の糖分含有量のみの表示であり、人工的に加えた砂糖の量は判らないという。しかしながら、これに対し、米国砂糖協会(Sugar Association)では、表記の必要はないとの姿勢を示しているという。消費者団体(CSPI)は8月3日にFDAに表記を要請しているが、仮に認可されたとしても施行されるまでに5年はかかるといわれる。 FDAは砂糖の代用として4種の人工甘味料を許可 また近年、米国では砂糖の代替として、ノンカロリーの人工甘味料が需要を伸ばしており、およそ144 百万人の米国民が利用しているといわれる(Calorie Control Council1998年調査)。 現在、FDAが食品への使用を許可している人工甘味料は、サッカリン、アスパルティーム、アセサルフェームK、サクラローズの4種。これらの人工甘味料は「フリーフード」と呼ばれ、米心臓病協会や米糖尿病協会も肯定的ではある。 ただ、カロリーの問題がクリアーしており、FDAが使用を許可しているとはいえ、安全面において完全にお墨付き が得られているというわけではなく、引続き研究調査が行われている。特に、サッカリンについては発癌要因として疑われており、安全性の確証がないまま100年以上使用され続けてきているという現状である。 サッカリンは1879年に発見、砂糖の300倍の甘味を持つとされ、2つの世界大戦中、砂糖不足を補うため食品の甘味料として使用された。1958年に食品添加物は「一般的に安全(GRAS)」というFDAの承認が必要となり、サッカリンもGRASと認められる。1972〜1973年の動物実験で、膀胱癌の要因として疑われるが、その後、サッカリンではなく不純物によるものではないかという分析結果が発表された。 しかし、1977年にカナダの研究チームが、再びサッカリンが膀胱癌の直接要因であると主張し、使用および販売禁止を提案。ただ、企業サイドがこれを不満としたため、政府は禁止提案の施行を2年間延長し、今後の安全性研究と癌リスクのラベル表示を企業側に課した。 サッカリン、5月に発癌物質リストから除外 こうした経緯のあるサッカリンだが、米国で5月15日に発表された米国国立環境保健科学研究所( NIEHS )の「発癌物質に関する第9次報告書(年2回発行)」では、発癌物質リストから外されることとなった。除外の理由としては、ネズミ実験の結果(膀胱腫瘍)が人間に適用しないこと、過去20年間の研究データから殆ど発癌性がないことなどが挙げられている。また、「癌を形成するという動物実験の結果は認めるが、動物の反応を常に人間に当てはめることはできない」(FDA:米食品医薬品局)、「成人が普通量のサッカリンを摂取した場合、健康を害するという問題は認められない」(National Cancer Institute)など政府系機関も同様の見解を示している。 サッカリンが発癌物質としてリストアップされたのは1981年で、同年、人工甘味料アスパルティームも市場に出回るようになる。サッカリンは1900年から販売されているが、そうした競合商品とのシェアの食い合いもあり、ダウンを余儀なくされてきた。今回のサッカリンの発癌物質リストからの除外は、業界からの強い要求によるものであるとの見方もある。そのため 米国の2つの消費者団体(Public Citizen Health Research Groupと Center for Science in the Public Interest)が反対の意向を示しており、サッカリンの安全論議が再燃する可能性もある。 ヒトは何故、甘味を求めるのか。前述のGibson氏は、そうした傾向を講演の冒頭で、「甘いものを摂りたいというのは人間も含めて動物に共通しているのかも知れません。なぜ、このような特性が我々に備わってきたのかよくわかりませんが、母乳を飲んでいる時にこれが正しい味だと認識し、それに近い食物の味というのは安全で、ここからエネルギーを摂っていいという信号になっているとの説もあります」と述べたが、仮に甘味への指向がそうした本能的なものに根ざしているとするならば、今後さらに安全面での検証が必要とされる。
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