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公開座談会「いい治療、わるい治療の見分け方」
〜適正な医療を受けるための心得〜

2月11日、東京ウィメンズプラザホール(東京都渋谷区)で「いい治療わるい治療」をテーマに公開座談会が開催された。 当日は「患者よ、がんと闘うな」の著書として知られる近藤誠氏(慶応大学病院放射線科)がゲストとして招かれ、「危ない医療から身を守る20のアドバイス」と題した座談会に参加、患者が適切な治療を選ぶ際に心得ておくべき判断基準、現在医療の抱える問題点などを指摘した。

突然体調が悪くなった時、安心して頼れる医療機関はどれほどあるか

「これほど物質的に豊かになった日本において私達は今医療に不自由している。突然体調が悪くなったとき安心して駆けつけられる病院や医師があると答えられる人がどれくらいいるでしょうか。多くの患者がいい病院、医師を必死で探している」。---冒頭、医療消費者ネットワークMECONの清水氏が、患者側の声を代弁するかのように開会の挨拶を行った。

今回の公開座談会は医療消費者ネットワークMECONをはじめとする4つの市民団体の共催で行われたもので、「本来必要な医療情報がほとんど得られない。適切な医療を選ぶ判断基準とするため企画された」と清水氏。

前半の講演では、「悪い治療など消費者の視点から見ればあってはならないはずなのに、法的に制御しようともしない。その結果、国民の健康と命がおびやかされる状況が生まれている」と清水氏。営利主義、経営優先主義への傾倒を厳しく批判した。また、たんぽぽの渡辺氏は、「一人一人がジャーナリスト精神を持ち、批判精神を持つことが必要」と強調した。

医療の混迷について、医師の増加が一要因になっているとの指摘もされた。日本の医師は昭和50年代は13万人であったが毎年増え(平成8年には24万人)、現在は8,000人が医大を出て、3,000人がリタイアするといわれる。毎年医師が5,000人ほど増えることになる。一方、日本の人口は1億2,000万人でほとんど定常。そういうなかで、米国も同様と言われるが、「医者の数が増えると病人が増える」という状況も生じているという。

また治療法における日本の立ち遅れをイデアフォーの青木氏は乳がんの治療法を例に挙げ、次のように述べた。「日本での乳房の温存療法は最近では30%になったが、欧米の60、70%に比べるとはるかにおよばない。世界的な治療法が日本には普及していないのが現状で、病院によって治療基準が違う。患者は正しい医療情報を入手することが大切で、自分が納得できる治療を受けるべき」。

「もし1番目、2番目で納得できなければ3番目の医師の意見を聞くことだっていい」

後半、「危ない医療から身を守るための20のアドバイス」と題して座談会が行われた。
その中で、まず患者の心得として「どこの病院にいっても最良の治療が受けられると思っているが、現実はそれと違うことをしっかり認識すべき」と青木氏。また渡辺氏は、なによりも的確な情報収集の必要であるとして医大図書館の活用、インターネットの利用を挙げた。ただし、情報については「玉石混交である」ことを近藤氏が指摘。また、名医、治療施設をランク付けしたいわゆるランキング本の根拠、信憑性についても批判的な見解を示した。

実際の医療現場で、患者ができることは何か------。
これについて、青木氏は「乳がんと診断され、乳房切除の手術が迫っていたある患者がエイ!とばかり転院した。そこで診てもらったら彼女は乳がんではなかった。そのまま入院していたら乳房を取られていた」というケースを挙げ、「転院も患者の権利」であるとして、「セカンドオピニオン」を求めることの必要性を強調。「患者がある病院へ行って、その病院の一人の医師の説明に満足してはいけない。もっと別な治療法がある可能性がある。もし1番目、2番目で納得できなければ3番目の医師の意見を聞くことだっていい」と述べ、個々の主体的な判断で、最良の医療を選択する必要性を説いた。
また、近藤氏は「いきなり5種類以上の薬を出す医師は、要注意」であるとして、子供が風邪に罹患した際に与えられる解熱剤の危険性を指摘、薬の相互作用、相乗作用のリスクについても言及した。

適正な医療を受けるために、「だめな部分を見分け、そこを切り捨て、残ったところから選んでいく」(近藤ドクター)

座談会の後で、参加者から質問が寄せられた。「有吉佐和子さんが書いた『複合汚染』の時代が到来している。口に入るものが微量毒素にさらされている」という問いに対し、「食品に関しては偏らないで、多数摂るようにして危険を分散することも大切」と近藤氏。

座談会では適正な医療を受けるためにさまざまな選択基準が論じられたが、近藤氏は、手っ取り早い手法として、消去法を提案。「治療にはいい治療と悪い治療があることは事実(※注1:新著参照)。だめな部分を見分け、そこを切り捨て、残ったところから選んでいくということでいい」とアドバイスした。
公開座談会は3時間あまりで終了したが、後半の”危ない医療から身を守るための20のアドバイス”では発言者の提案を一つ一つ熱心にメモを取る参加者の姿が多く見うけられた。

一体「自身に最も適した医療」とは何なのか---。
現在、近代医療の限界が論じられる中にあって伝統・伝承医療といった代替医療が米国医療界で注目され、日本でも徐々に医療関係者の関心を集めつつある。こうした動きはドイツやイギリスでも活発化しており、医療の統合化が世界的な潮流となりつつある。すでに日本でも西洋医療との併用で、患者の選択肢の中に入っているが、これについても同様で、患者サイドの正確な選択眼が要求される。
今後、個人の遺伝子解析が進むことで、疾病の「予防」ということにおいては「個」が重視されるであろうが、疾病の「治療」においてもはたしてそうなるであろうか。
いずれにせよ、患者側は適正な医療情報の収集に貪欲になるとともに、医療へのしっかりとした選択眼を持つことが望まれる。そうした取り組みが医療を変える大きな原動力となる。近藤氏は言う。「患者の側から日本の医療を変えていかなければならない」と。

※注1:『本音で語る!よくない治療ダメな医者』(三天書房)


”危ない医療から身を守るための20のアドバイス”(座談会より)
  1. 治療をしたら必ずよくなるという幻想を捨てよう
  2. 診断基準や治療法は病院や医師によって違うことを知る
  3. 医師のうで前はピンからキリ
  4. 情報収集には、医大図書館、インターネットなども利用しよう
  5. 医療情報が玉石混交
  6. 名医の評判、ランキング本はあてにならない
  7. 患者会や市民団体は情報の宝庫。積極的に活用しよう
  8. 医師に聞きたいことはあらかじめメモしておこう
  9. 複数の治療法の説明を医師に求めよう
  10. 薬の副作用、手術の後遺症をしっかり聞こう
  11. 質問をうるさがる医師は見限ろう
  12. 説明をうのみにしないで。医師の誘導に気をつけよう
  13. セカンドオピニオンは、今日の常識
  14. 検査データやレントゲン写真は患者のもの。臆することなく借りだそう
  15. 患者として自分の直感を大事にしよう
  16. 不要と思う検査、手術から逃がれよう
  17. いきなり5種類以上の薬を出す医師は、要注意
  18. 挨拶しない医師、患者の顔を見ない医師、患者を見下す医師はやめよう
  19. 入院後、転院するのも「患者の権利」
  20. お任せ医療よ、さようなら。自分で治療法を選ぼう
医療消費者ネットワークMECON
 「市民の力で医療を変える」を合言葉に活動を行う。
イデアフォー
 乳がん体験者が中心となり、乳房温存療法に関する情報の収集と提供を行う。
あいちホスピス研究会
 ホスピスケアの普及運動を行う。
子宮筋腫・内膜症体験者の会「たんぽぽ」
 婦人科疾患に関しての情報交換を行う。

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