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遺伝子組み換え食品、栄養素やワクチン添加で開発進む

先頃、朝日新聞(11月1日付け)が、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)で進めていたスギ花粉症予防に有効な成分を含む遺伝子組み換え米について報じた。 それによると、マウス実験でスギ花粉症緩和のメカニズムが解明されたため、今後はヒト用花粉症緩和米を試験栽培し、安全性を確かめる意向という。 遺伝子組み換え(Genetically modified=GM)食品をめぐる議論は中々決着がつかない。未だ人の長期摂食による安全性が世界的な論争となっている。 最新情報を報告する。

議論をよそに、年々広がる栽培面積

遺伝子組み換え(GM)について、推進派は「GM穀物は害虫に強いため、殺虫剤や除草剤を使わなくてすむ」、「世界の食糧事情は間違いなく改善する」と主張する。一方で、反対派は、「健康や環境への長期的影響が未知数、安全面がクリアーできていない」と指摘する。
これに対し、開発企業は数年前から生産者サイドばかりでなく、 消費者サイドのメリットをアピールしようと、GM穀物に栄養素や疾患対策のワクチン を添加した作物の開発を進めている。

GMの安全性に懸念を示すヨーロッパでは、GM製品にラベル表示を求める動きが活発だ。一方、アメリカでは、GM規制に中々進展がみられない。 だが、そうした状況下にあっても、GM研究は着々と進み、GM穀物の生産は着実に増えている。

大豆、コーン、サトウキビ、飼料用ビートで、GM穀類の98% は、アメリカをトップに、カナダ、アルゼンチン、中国で生産されている。 その他、南アフリカ、メキシコ、ブルガリア、ウルグアイ、スペイン、インドネシア などでも生産されており、ヨーロッパでは年間、50,000ヘクタール以上(世界的には 1億6,700万エーカー)で栽培されている。 2003年に生産されたコーンの40%が既にGMで、綿の場合は73%、大豆は81%にも上る といわれる。

カロチノイド濃度を高めたゴールデンライス

遺伝子組み換えイネについては、カロチノイドのベータカロチンを多く含むゴールデンライスの開発が進んでいる。 ビタミンAの前駆体であるベータカロチンは精米には含まれず、玄米にも少ないとされるが、ゴールデンライスは、カロチ ノイド濃度を最大23倍まで高めることができるといわれる。
ゴールデンライスは、スイス連邦工科大学のPotrykus教授、およびドイツ、フライ ブルグ大学のBeyer教授が共同開発した遺伝子組み換えイネで、スイセンの遺伝子を 組み込み、ベータカロチン濃度を高めたもの。米の色が金色であることから、ゴールデンライスと命名された。

WHOの発表によると、発展途上国ではビタミンA欠乏により年間50万人の子どもたちが 失明しているといわれる。こうした栄養不足の解消を目指し、ゴールデンライス プロジェクトが推し進められているという。

B型肝炎ワクチン組み込んだ遺伝子組み換えポテトも登場

また、B型肝炎ワクチンを組み込んだ遺伝子組み換えポテトも登場している。アメリカでは B型肝炎用のワクチン接種が普及して以来、感染患者が減少傾向にあるが、 世界的には3億5000万人以上の患者がいると見られている。一部の発展 途上国では、接種用の冷蔵ワクチンを購入する余裕がないというのが現状だ。

そうした状況に対し、Arizona State University研究者グループは、B型肝炎 抗原の遺伝子を持つポテトの開発に成功、患者42人を対象にテストを行 ったところ、このポテトを食べたグループで、被験者の60%に肝炎に対する免疫性が認め られたという。研究者グループは、今後は、ポテトだけでなく、トマトなど別の食品 に対しても研究を行うと表明している。

GM穀物の花粉が有機栽培農産物に混入懸念

とはいえ、長期摂食による安全性が不透明であることに、未だ脅威を感じている人々も多い。 その一つがオーガニック業界。GM穀物の花粉が有機栽培農産物に混入するという懸念を 抱いている。

USCが2004年に発表した調査では、大豆、コーン、カノーラなどの 中でGMとは無関係の種に、GMが混入していないかどうかを調べた。 結果、6種類の穀類のうち全てにGMの要素が認められたという。

一方で、オーガニック食品へのGM混入は最低限であるという報告も ある。アイオワ州を本拠とするGnetic IDは、オーガニックコーンおよび 大豆製品を検査したところ、GM材料が認められたのは0.1%かそれ以下だと報告している。 また、大豆よりコーンに多くGMが見られたが、それでもその値は低いものだったという。

ノンGM飼料を食用家畜に与えるよう食品製造会社に望む声

米国農務省(USDA)は2004年から、GMの環境に対する調査を行っている。 こうしたUSDAの調査に対して、Biotechnology Industry Organizationは、GMが危険 だという恐れを払拭できるものとして歓迎の意を示している。

一方、イギリスでは相変わらずGMに対する嫌悪感が強く、消費者に委託された 企業が行った調査によると(1000人を対象)、10人中6人がGMに懸念を 示しており、この割合は2002年の56%からわずかだが上昇した。また、 ノンGM飼料を食用家畜に与えるよう食品製造 会社に求める消費者の声は68%を占めた。

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