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大腸こそが、病気の発信源〜市民講座「腸内宇宙と健康」

7月4日、昭和女子大グリーンホール(東京都世田谷区)で市民講座「腸内宇宙と健康」が開催された。当日、辨野義己氏(理化学研究所・微生物機能解析室室長)が腸内細菌と健康との関係について講演した。

腸内環境が劣悪になると、身体中に病気を引き起こす物質が蔓延

「大腸は病気の発信源、ここをいかにコントロールするかが健康を守る近道」----。
講演で、辨野氏は腸内細菌のバランスについて説き、「腸内細菌は食べ物によって大きく変わる。老化やストレスによっても変わる。腸内環境が悪くなると有害菌が増殖する。発がん物質が直接腸管に障害を与えて大腸性疾患を起こしたり、粘膜を通じて血中に移行し全身に蔓延して病気を引き起こすようになる」と述べた。

辨野氏によると、便のおよそ8割は水分、2割が固形物で、固形物の半分以上は腸内細菌という。 糞便1グラムに約1兆個の細菌が棲みついているというから、100グラムの便では100兆個の細菌が棲息する計算になる。その種類も500種類以上といわれ、400種類は未解明という。
大腸内では、ビフィズス菌などの有用菌や大腸菌、ウエルシュ菌などの有害菌とされる腸内細菌が繁殖するが、腸内細菌のバランスが崩れると便秘、大腸ガン、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、さらに感染症などさまざまな病気を引き起こす原因になるとされる。

近年、腸内細菌の遺伝子解析が進められており、「21世紀、新しい腸内細菌の研究がはじまっている。腸内細菌の扉を開けることにより初めて私達の身体に良い食べ物が出てくるかもしれない」と辨野氏はいう。

痴呆症、腸内環境の整備とも関連

腸内細菌に最も大きな影響を与える要因は、ストレス、食事、老化の3つ。これらに留意しつつ、腸内細菌叢を良好に保つことが疾患を寄せ付けない近道、と辨野氏はいう。
食事と腸内細菌叢の関係については、「食事と腸内細菌、さまざまながんとの関係が少しずつ解明されている。欧米人のように高脂肪・高たんぱく質を摂っているほど乳がんとか結腸がんによる死亡率が高い。痴呆症にしても最近は毒素が全身に蔓延して脳障害を起こす可能性が高いといわれている。基本的に腸内細菌をコントロールしないかぎり、私達の本当の健康は守り得ない」と辨野氏。

近年、日本でも肉や乳製品など欧米型の食生活が若い女性の間で浸透しているが、こうした食生活は腸内で有害菌を増やし、腸内環境を悪化させ、結腸がんなどのリスクを高めるとされる。
米国で、38歳から63歳の女性76,402人を対象にしたNurses’Health Studyを分析したところ、赤味の肉、脂肪、精製された穀物を主体とした食生活を送るグループは、果物や野菜、魚、未精白穀物中心の食生活グループと比べ、結腸がんに罹る危険性が46%高いことが判ったという研究報告もある。一方、食物繊維の豊富な野菜や果物中心の徹底した食生活を送ると、結腸がん危険性が29%低くなるという報告もある(The Archives of Interna'02/l2月10日号)。

エール大学の研究グループが、食道/胃がん患者1,000人と健常者700人に食生活についての聞き取り調査を行ったところ、動物性脂肪の摂取で、食道がんの危険性が2倍になることがわかったという報告もある(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention'01/10月号)。
動物性脂肪の過剰摂取の弊害については、前立腺がんの危険性を増大することも報じられている。ハワイ大学の研究グループが行った研究で、肉類や乳製品を多く摂る男性は摂取の少ない男性に比べ前立腺がんの罹患率が高いと報告している。

腸内環境を良好に保ちガン化を防止する

では、腸内有用菌を増やし、腸内環境を良好を増やすにはどうすればいいのか。日頃の食事においては、果物や野菜、未精製穀類など食物繊維が豊富な食品、また発酵食品を摂ることで有用菌が増殖、ガン化防止へとつながる。
イタリアの研究グループが、喉頭がん患者527人とがんの徴候のない患者1,300人の食習慣を比較調査したところ、野菜や果物から食物繊維を多く摂るほど、喉頭がんの危険性が下がることが分かったという報告もある(Annals of Oncology'03/1月号)。

また、ハーバード大学の研究グループが行った1976年開始の看護婦調査で、30歳から55歳の8万326人を対象にした調査結果を分析した。被験者は、1980、1984、1986、1990年に食に関する調査を受けた。その結果、野菜の摂取量が最高のグループは最低のグループと比べ、がんの危険性が23%低かったことが分かったという報告もある。

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