冒頭、「精神科医はカウンセリングも行うが、メインは薬」と神野氏。さらに「向精神薬が効かないことはよくある。ほとんどの抗うつ薬は若年者に対して効果がない。抗うつ薬はアルツハイマー病に伴うアパシー(無気力・無関心)には無効」と続けた。
精神科医として長年、脳の仕組みを研究してきた神野氏。ストレスと脳の機能障害との関係を次のように話す。「ストレスで脳に炎症が起きる。そうした障害により、うつ病が生じるのでは、といわれるようになってきた」。
昨今、懸念されるのが、コロナ禍の影響で現代人に起きがちな不安症、うつ病である。そうしたストレスフルの現代人に有効なストレス軽減策はあるのか。
神野氏が、脳機能の研究で、着目していたのが日々の食やサプリの活用である。「私自身はサプリメントに対する期待は非常に大きい。薬を飲みたがらない患者もたくさんいる。こうした患者さんたちに何らかの形で脳に働きかけたらと臨床してきた」という。
大豆イソフラボン、うつ様行動を減らす(マウス実験)
中でも、神野氏が挙げるのが、大豆に含まれるポリフェノールのイソフラボン。ポリフェノールやカロテノイド色素には活性酸素の発生や働きを抑制、さらに活性酸素除去作用がある。こうした抗酸化物質にはブルーベリーのアントシアニン、ゴマのセサミン、緑茶のカテキンなどがある。
厚労省も、ポリフェノールについて「数十年にわたる食生活研究の結果では、抗酸化物質の豊富な食物を多く摂取することは病気の予防に役立つことを示唆している」との見解だ。
実際に、神野氏らがマウス実験を行ったところ、大豆イソフラボンはストレスによる脳の炎症細胞の増殖を抑制し、うつ様行動を減らした。大豆イソフラボンは神経炎症を抑制し、ストレスを緩和する可能性があることが分かったという。
大豆、認知症のリスクを下げる
大豆の脳機能への有用性については疫学調査「久山町研究」でも明らかになっている。
久山町研究は日本人の脳卒中の実態解明を目的としたもので昭和36年から九州大学が実施。全国平均とほぼ同じ年齢職業分布の福岡県糟屋郡久山町の住民を対象にしている。結果、大豆や野菜、海藻、牛乳の摂取量が多く、米の摂取量が少ない場合、認知症のリスクが下がることが明らかになった。
大豆は日本人の代表的な伝統食であり、味噌、納豆、豆腐などさまざまに利用され、日々摂取している。ただ、大豆イソフラボンというと、摂り過ぎの弊害がこれまでも議論の的になっている。
農林水産省でも以下のような注意喚起を行っている。
- 大豆イソフラボンは、主にエストロゲン受容体を介してヒトの健康に有益な効果があると想定されているが、この作用が有害に働く可能性がある。
- 大豆イソフラボンにはトポイソメラーゼ II阻害作用があることから、特定保健用食品として妊婦が日常的な食生活に上乗せして摂取することは推奨できない。
食品安全委員会によると大豆イソフラボンの1日の摂取目安量は70〜75mgとされている。とはいえ、現実には、国民の9割以上が摂取できていないといわれている。「過剰摂取」とはほど遠いのが実情のようだ。
参照:フジッコ〜イソフラボンは摂り過ぎているのでは?―日本人の摂取実態―
https://www.fujicco.co.jp/corp/rd/isoflavone/topics/05.html
https://www.fujicco.co.jp/corp/rd/isoflavone/topics/06.html