「ウェルビーイング視点で考える、これからの食と健康の在り方」をテーマにオンラインセミナーが開催された。この中から、内藤裕二氏(京都府立医科大学大学院生体免疫栄養学講座)の「ガットフレイル:その概念と腸からのWell-Being」を取り上げる。
「医療費はものすごい勢いで伸びている。もうすぐ60兆円になる。これに介護の10兆とか20兆が加わる」。冒頭、内藤氏は近年の医療費の高騰を指摘した。
例えば、超高齢化社会の到来に伴い増え続ける認知症。こうしたアルツハイマー症治療にエーザイの新薬が認可され今年末から使われるようになる。ちなみに認知症治療に米国では一人あたり350万円。日本では検査義務のため年間で100万円、薬が200万円と一人300万円になるという。日本は個人の負担に上限がある。そのため、残りは全て我々が支払うことになる。
内藤氏は続ける。「医療費60兆円とはいえ、10何兆円売り上げても利益は1兆円しかない。トヨタが60個くらいないと日本の医療費は支えられない。なぜガンになるのか、真剣に議論しないと日本は医療費を支えることが難しくなっている」。
医療費高騰や増え続けるガン対策の鍵が「ガットフレイル」
高騰する医療費に増え続けるガン。はたして歯止めをかける有効な対策はあるのか。
内藤氏はいう。「お腹が元気になればガンもなくなり、動脈硬化もなくなり、認知症もなくなるんじゃないか。そのためガットフレイルという言葉を作って活動している」。
「フレイル」というのは「脆弱性」の意。筋肉がフレイルになればサルコペニア、関節ではロコモ、目ではアイフレイルとなる。こうしたさまざまなフレイルは腸に原因があるのではないか。
ガットフレイルは「ガット=胃腸」で胃腸の働きの虚弱の意。食事や運動、腸内細菌、薬剤、環境要因などによりガットがフレイルになる。その結果として、心臓や筋肉、骨や脳や皮膚がフレイルになる、と内藤氏。
さらにガットフレイルは食べ物だけではなく、加齢によっても生じる。高齢マウスの腸管を見ると、粘液が減り粘液を作る細胞も減ることが分ってきている。
すべての病気は腸から、便秘は諸悪の根源
医学の父ヒポクラテスの言葉に「すべての病気は腸から始まる」という句がある。腸は食物の摂取や消化・吸収、排泄、消化管ホルモン、炎症・代謝抑制など多様な役割を果たす。
こうした腸の働きを阻害する大きな危険因子が便秘である。内藤氏は便秘の代表的な弊害を以下のように挙げる。
- 便秘は各種疾患のリスクを上げる。便秘症の有無による生存率の比較では、便秘の人は普通の人と比べ早く命を落としているというデータがある。
- 便秘はCKD(慢性腎臓病)のリスクがある。
- 便秘はパーキンソン病の発症リスクがある。日本におけるパーキンソン病の発症が先進国の中でも異常に増えている。
- 便秘の高齢者は認知機能の低下が速い。国立癌センターによるJPHCのコホート研究では便が週に3回以下、便の固い人、特に男性で認知症が増えていることが明らかになっている。さらに下剤を飲んでいる人のほうが明らかに圧倒的に認知症の発症率が高いことも分っている。
フレイルになった、老化した腸を若返らせる
こうした便秘もガットフレイルと関連する。そのため、「フレイルになった、あるいは老化した腸を若返らすことが良い」と内藤氏はいう。
ガットフレイルを招きがちな「食」が「高脂肪食」。高脂肪食だと腸の粘液が減少し、ガットフレイルになっていく。食べ物はガットフレイルに影響している、と内藤氏。
この対策に有用なのが食物繊維食。「食物繊維が欠乏するだけでも腸管の粘液は欠乏しさまざまなガットフレイルを引き起こす。ここに発酵性の食物繊維を投与すると粘液がリバースすることも分かってきた」(内藤氏)。
またネズミの実験で、高脂肪高たんぱく質は体重を増加させるが、一方で腸管長が短縮することが分っているという。
「腸が短くなるということは炎症が起きている証拠。高脂肪高たんぱく質を食べさせるとネズミの腸が健康でなくなっていることがわかる。ネズミは筋力が落ち、見た目が老けるが、それをリバースするのは食物繊維であることが報告されている。食べ物を腸から見る必要がある」(内藤氏)。
すっきりとした目覚めのためには、高タンパクの朝食だと覚醒レベルが低くなる。糖質を制限した、高発酵性食物繊維食が良いのではないかということが分ってきているという。