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厚労省発表「水銀含む魚介類等の摂食の注意事項」で波紋

6月3日、厚生労働省は、「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」を公表した。これにより一部マスコミ報道で波紋が広がったが、5日、「魚介類等は一般に人の健康に有益である」とし、魚介類等の摂食の減少につながらないよう、注意事項への正しい理解を呼びかけた。

約300種、約2,600検体の魚介類等を検討

厚労省が、3日に公表した「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」は、薬事・食品衛生審議会乳肉水産食品・毒性合同部会の審議結果によるもので、約300種、約2,600検体の魚介類等に含まれる水銀の量および摂食状況等を踏まえて検討した。

注意事項の対象者は、妊婦あるいはその可能性のある人で、「一部の魚介類は食物連鎖により、特に胎児に影響を及ぼす恐れがあるレベルの水銀を含有している」とし、摂食について下記のように報告した。

1)2ヶ月に1回以下(1回60〜80gとして):バンドウイルカ
2)1週間に1回以下(1回60〜80gとして):ツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラ及びサメ(筋肉)
3)1週間に2回以下(1回60〜80gとして):メカジキ及びキンメダイ

ただし、

  • 上記の魚種等を除き、現段階では水銀による健康への悪影響が一般に懸念されるようなデータはない。
  • 子供や成人については、すべての魚種等について、現段階では水銀による健康への悪影響が一般に懸念されるようなデータはない。
    ---と付け加えている。

    さらに、「多くの魚介類が微量の水銀を含有しているが、一般に低レベルで人の健康に危害を及ぼすレベルではない」と強調し、「一般に人の健康に有益である魚介類の摂食の減少につながらないよう」注意事項への正しい理解を促した。

    妊婦がω-3系脂肪酸を多く含む魚を食べると、出産前後の鬱病を予防

    今回の厚労省の発表は、食物連鎖による水銀の微量含有が懸念される一部の魚介類に限ってのものだが、魚介類にはカルシウムをはじめ、タウリンやω-3系脂肪酸といった各種栄養素が豊富なことは、すでによく知られている。とくに妊婦やその可能性のある人にも有益な栄養素を多く含む。

    イワシやサバに代表される青背の魚には、ω-3系脂肪酸と呼ばれる必須脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれるが、最近の研究では、とくに妊婦がω-3系脂肪酸を多く含む魚を食べると、出産前後の鬱病を予防するといった報告もある(American Psvchiatric Association会合)。
    National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholismの研究グループによるもので、イギリス女性11,721人のデータを分析したところ、妊娠3期にω-3系脂肪酸を多く摂ると、妊娠後8ヶ月までに鬱病に罹る危険性が低くなることが分かったという。また、週に2〜3回魚を摂る場合を最大摂取グループとした時、最大摂取グループは最少摂取グループに比べ、鬱病に罹る危険性が半分になることが分かったという。

    「抗鬱剤の代わりになるものを探している人々は魚屋に行けばみつかるはず」

    ω-3系脂肪酸の鬱症状改善に関する報告については、とくに妊婦に限らない。
    10数年前、イギリスの栄養学者マイケル・クロフォード博士が、「日本人が知能指数が高いのは魚を食べているから」と提唱し、その後、魚油に含まれるω-3系脂肪酸のDHAがブームとなったが、ω-3系脂肪酸について、クロフォード博士は脳の記憶力改善や学習能力の向上をもたらすだけでなく、躁鬱、精神分裂のような精神障害にも有効であると説いている。
    2000年に来日した際にも、来日直前に本国の有名紙「The Independent」('0 5/24日付け)で「抗鬱剤の代わりになるものを探している人々は魚屋に行けばみつかるはず」とコメントを寄せている。ちなみに、記事の見出しは「イワシの缶詰は自然の抗鬱剤」というもの。

    他にも、フィンランドの研究グループが、フィンランドの4地域に住む3,204人を対照に、食事や精神面などに関して質問を行い、魚を1週間に1回あるいはまったく食べないグループを「あまり食べない」に分類(全体の30%)したところ、全体の28%が中度あるいは重度の鬱症状を示していることが分かったと報告している('0/5月 American Psychiatric Association会合)。

    また、躁鬱病患者30人に1日10gの魚油を4ヶ月間与えたところ、64%に症状の回復が見られたという報告もある(Archives of General Psychiatry誌'99/5月号)。他に、ハーバード大学の研究グループによるもので、軽度の精神性疾患患者20人に 魚油(エイコサペンタエン酸)1g、10人にプラセボ(偽薬)を与えたところ、8週間で魚油グループはプラセボグループに比べ、症状にかなりの改善が見られたという報告もある(American Journal of Psychiatry'03/1月号)。

    ω-3系脂肪酸、胎児の知力や視覚領域の発達に関与

    ω-3系脂肪酸の胎児に与える影響も明らかになっている。ω-3系脂肪酸のような必須脂肪酸が生体に果たす役割は多いが、その一つに胎児や新生児の成長・発達、特に認識力や視覚発達への働きかけがある。脳細胞の70%は胎児のうちに発達すると考えられているが、胎児から生後18週くらいまでの間、ω-3系脂肪酸の供給が重要とされている。
    ω-3系脂肪酸は胎児の間は母親の体内から、生後は母乳により供給される。こうしたことから、ω-3系脂肪酸のDHAを人工栄養ミルクに添加することがWHOでも承認され、約50数カ国で実施されている。
    実際に、英国ケンタッキー大学の研究グループが、母乳で育つ子供のほうが、人工栄養ミルクの子供に比べIQが3〜5ポイント高いことを報告している(American Journal of Clinical Nutrition’99/10月号)。

    最近のものでは、ニューヨークの研究グループが、18週に入った妊婦300人以上に、出産後3ヶ月まで、タラの肝油かコーンオイルを与え、肝油グループの子ども84人を追跡調査したところ、知能テストで高いスコアを上げたことが分かったと報告している。研究者達は「まだ予備段階で結論ではない」としながらも、肝油に含まれるω-3系脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)が活性成分であるとみているという(Pediatrics'02/1月号)。

    この他、心疾患への有効性についても報告されている。ハーバード大学がω-3系脂肪酸と心臓病との関連について、40歳から84歳までの男性医師2,0551人を対象に調べたところ、週に少なくとも1回魚を食べている者は心臓発作などの突然死の危険性が52%低下したと報告している。

    また、英国ウエールズ大学の研究者らの心臓発作から回復した2,033人を対象にした2年間におよぶ調査結果でもω-3系脂肪酸を多く含む油分の多い魚を週に2皿ほど食べた場合、死亡率が23%減少したという報告もある。

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