ニューノーマル、「身体」「心」「食」のケアを
同セミナーの「ニューノーマル時代に求められる微量栄養素とは」と題された講演で、佐野こころ氏(医学博士・保健師・看護師、叶Hのおくすり代表取締役)が、摂取したい栄養素として挙げたのが、ビタミンA、ビタミンD、鉄、亜鉛など。
コロナにより、ソーシャルディスタンス、マスク着用などこれまでと生活様式が大きく変わった。昨年3月以降から1年以上に渡り、私たちに押し付けられた生活様式の変更はそのままニューノーマルとして定着しつつある。
まず、食堂やオフィスの閉鎖、そしてテレワークの積極導入などこれまでの通勤ワークから在宅ワークへとシフトする企業が増えた。
こうしたテレワークの推進で、個々の生活の常態はこれまでとは異なったものになり、さまざまな健康不安も生じるようになる。「体・心・食」のそれぞれから挙げると、まずPCの長時間使用から「目の健康」、人に会う機会の減少により「心の健康」、在宅時間の増加から「栄養バランス」といった不安がもたらされるようになる。
コロナ禍によりこれまでの生活様式が変わることから「身体」「精神」「食」のケアもそれに応じた対策を余儀なくされる。
「目の健康不安」にビタミンA・D、ルテインやゼアキサンチン
まず「目」の健康不安については、日本人の8割が気にしているといわれる。目の健康対策の栄養素としては、ビタミンAやD。ビタミンAは目の網膜に含まれるロドプシンの構成成分で、角膜に涙を保持する粘膜の層を作る。目を乾燥から守り、ドライアイ対策に有用だ。Aが欠乏すると夜盲症になる。
また、ビタミンDは目の表面の炎症抑制や涙の分泌促進に役立つ。D摂取は血中のD濃度を上げるだけではなく、直接目に塗ることで、ドライアイが治るのではないかという研究もされ、注目されているという。
この他、カロテノイドのルテインやゼアキサンチンは、目の黄斑部や水晶体に多く存在し、パソコンやスマホが発するブルーライトのような有害な光を吸収し目を守る働きをする。
アメリカではルテインやゼアキサンチンを1日平均0.8〜1.1mg摂取しているが、日本では0.35mg程度で、世界的にみても摂取量が少ないことが報告されている。ルテインはオレンジ色の色素成分でほうれん草やブロッコリー、ケールなどの野菜に多く含まれる。ゼアキサンチンは黄色の色素成分でクコの実やパプリカ、トウモロコシなどに多く含まれる。
「心の健康不安」対策には、鉄・亜鉛・ビタミンD
「心の健康不安」については、自粛生活により人と会う機会の減少から、不安・うつ症状を訴えるケースが増えている。
うつの解消に役立つ栄養素としては、「鉄」「亜鉛」「ビタミンD」の3つが挙げられる。
鉄は神経伝達物質の合成や代謝に関わる酵素に必須で、不足するとイライラや集中力の低下が起きやすくなる。亜鉛については、脳細胞の神経シナプスに多く、不足するとうつ症状や味覚障害を起こす。
ビタミンDは前頭前皮質や海馬、視床下部などに多く存在し、神経伝達物質の働きを改善することが分かっている。
プラントベース(植物性)食、鉄分補給を
「栄養バランスの不安」についてはどうか。
これまでの通勤ワークから在宅ワークにシフトというニューノーマルに伴い、「朝食の欠食」「ランチタイムの軽視」「レトルト食品による簡略化」などが起きていると佐野氏は指摘する。
「朝食の欠食」や「ランチタイムの軽視」は、むしろメタボ対策にもなる。また空腹習慣をつけることは長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)の活性にも繋がる。適度な空腹は、身体に有害な細菌を貪食する白血球の働きが活発化し、むしろ健康に良いかもしれない。
問題なのは、レトルト食品の偏り。糖質や脂質、塩分が過剰になりやすく、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンD、亜鉛が不足しやすくなる。この点は、注意が必要であろう。
また、こうした一方で、コロナ禍にあって「免疫力を高めたい」という人々の健康意識も高くなっている。そのため
プラントベース(植物性)食や大豆ミート、ゆるベジタリアンなどがちょっとしたトレンドになりつつある、と佐野氏。
ただ、気をつけたいのは、植物性の食生活では鉄分の中でも吸収率の高いヘム鉄が不足しがち。また、タンパク質、ビタミンB12、亜鉛なども不足しやすくなる。それらの栄養素の摂取にも留意する必要があろう。
これら全体を考察すると、ニューノーマル時代に積極的に摂りたい栄養素は主に4つ、「ビタミンA」「ビタミンD」「鉄」「亜鉛」ではないか、と佐野氏は指摘する。