認知症患者、2025年には700万人の予測
世界でも有数の高齢化社会の日本。要介護者の5人に1人は認知症といわれている。
認知症治療薬の開発はほとんどが不成功で、認知症は治療より「予防」が何より重要と考えられている。
講演会では羽生 春夫氏(東京医科大学 高齢総合医学分野)が、糖尿病と認知症との関係や最新の認知症予防対策などを述べた。
日本は高齢化社会で「平均寿命」と「健康寿命」の間に男女共約10年の開きがあり、人生最後の10年を日常生活に支障がある状態で過ごす高齢者が多い。
要介護になる主な原因疾患の約25%が認知症で、脳血管疾患が18.4%とされるが、特に認知症患者が増えており、現在の認知症の人の数は約500万人とされる。2025年には700万人に達する(65歳以上の5人に1人)と推測されている。
糖尿病の合併症、認知症のリスクが高い
認知症のうちアルツハイマー型は50〜60%とされる。糖尿病と認知症、中でもアルツハイマー型認知症と糖尿病の間には密接な病理・病態学的関連が見られることがわかってきている。
そのため、糖尿病という観点から認知症の予防や治療など、新たな対応が期待できる可能性が示唆されている、と羽生氏。
高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満(メタボ)といった生活習慣病は悪化すると脳卒中などの脳血管疾患の引き金となり、脳血管性認知症を引き起こすケースもある。
脳血管疾患に至らなくても、生活習慣病の進行に伴いアルツハイマー型認知症になるケースが多く見られる。
特に糖尿病や糖代謝異常がアルツハイマー型認知症発症の最大の危険因子であることは、多くの疫学研究で確認されている。
これまで糖尿病が進行した場合に起こる合併症としては「腎症」「心血管合併症」「網膜症」などが知られてきたが、現在は「認知症のリスクが高くなる」ということを頭に入れておくべきだ、と羽生氏。
糖尿病患者の増加に伴い、認知症患者数も増加
現在、糖尿病と糖尿病予備軍の合計は2000万人を突破していると推測される。この20年で糖尿病患者は1.5倍以上も増加し、特に高齢の糖尿病患者が増加している。このまま糖尿病患者が増加すると、認知症患者数は予測数よりも大幅に増えることが推測される。
では糖尿病と認知症には具体的にどのような関連があるのか。認知症発症のルートに、アミロイドβが蓄積することで脳の神経細胞が細胞死を起こし、脳萎縮が広がることで認知症になるというルートがある。
これは、糖尿病によって起こるインスリン抵抗性やインスリンシグナル伝達の障害が、アミロイドβやタウのリン酸化を含む、アルツハイマー病の病理学的変性過程を促進することが一因であるとも考えられている。
他にも糖尿病によって脳梗塞など血管性病変が増加、また糖毒性に伴う酸化ストレスや終末糖化産物(AGEs)による神経障害などが合わさり、認知症の発症を早めるルートも考えられる。
糖尿病の人ほどフレイルになりやすい
糖尿病によって認知症発症リスクが高まる背景や病態は複数ある。さらに、明らかに糖代謝異常によって起こる認知症は「糖尿病性認知症」とされる。
これは、アルツハイマー型認知症とは治療や経過も異なり、血糖値のコントロールによって一部の認知機能が改善する症例も多く報告されていることから、「コントロール可能な認知症」といえると、羽生氏。
さらにこの「糖尿病性認知症」の場合、フレイルやサルコペニアといった高齢者特有の病態を合併することが多い。フレイルとは高齢期に生理的予備能が低下してストレスに対する脆弱性が進み、生活機能障害、要介護状態、死亡などにつながりやすい状態を指す。
糖尿病の人ほどフレイルになりやすい。一方で糖尿病による脳障害が進んでいても、「生きがい」を持ってある程度の運動量を維持し、フレイル状態を回避している人だと認知機能が低下しにくいことも疫学調査から報告されている。
生活習慣の改善で、認知症が1/3に減少
誰もが認知症になりたくないと思ってはいるが、具体的な予防対策を行なっている人は多くない。
しかし、認知症の予防は中高年期からはじめるべきで、予防法としては、
「血糖値のコントロールをすることで2型糖尿病を予防する」
「高血圧と高脂血症を改善する」
「体重を適正範囲で維持する」
「運動習慣(週に1回以上)を身につけて継続する」
「果物と野菜を積極的に摂取する」
「7時間程度の良質な睡眠を確保する」
「禁煙」「社会交流」「知的な活動」などが予防に有効とされている。
これらすべてを実践できれば、認知症患者の1/3が減少するといわれている、と羽生氏。
こうした、若いうちからの食生活、糖質の適正な摂取、運動習慣、肥満予防といった糖尿病の適切な予防により、将来の認知症患者数を減少させられることが多いに期待できる、と羽生氏はまとめた。