近視、失明のリスクを伴う疾病
今や「サイエンス×ビジネス」の時代になった、と坪田氏という。坪田氏は「坪田ラボ」というベンチャー機関を立ち上げ、「ごきげん」をキーワードに近視・ドライアイ・老眼に革新的なソリューションを開発している。
その活動の成果として、今回「近視予防のサプリメント」と「食べるタイミングアプリ 食べリズム」について発表した。
誰にでも起こり得る、「近視」だが、実は近視が世界的な問題になっている。1950年代は日本人の近視の割合は人口の20%であったが、現在は高校を卒業した時点で80%の日本人が近視になっている。
近視の爆発的な増加は日本だけでなく特に東アジア全体、さらに世界全体で起こっており、スマホやタブレットが欠かせない生活を余儀なくさせられる以上、この割合を減らすことは容易ではないという。
メガネだけでなく、コンタクトレンズやレーシックなどで、近視は軽視されがちであるが、実は失明のリスクを伴う疾病である。実際、日本人の失明の原因の第5位が近視で、失明に至らなくても、さまざまな眼病の発症リスクを高める。
太陽光のバイオレットライトに近視抑制作用
これまで近視の要因が「遺伝」であると考えられてきたが、両親が近視であっても幼少期に屋外活動が長いと近視発症率が低下するという論文がアメリカで発表されている。これによると、1週間に14時間(1日2時間)屋外で遊んでいる子どもは近視になりにくいという。
その理由は何か?
動物(ヒヨコ)による試験で、太陽光の中でも「バイオレットライト(虹の紫色)」には近視抑制作用があることがわかった、と坪田氏。
バイオレットライトは、ガラスを透過することができないので、屋内には存在しない太陽光の一つで、屋外にいなければ浴びることができない。
このバイオレットライトを浴びると、EGR1という近視を抑制する遺伝子が増大するため近視が起こりにくくなる。EGR1が発現しないと多くの動物が近視になってしまうことが確認されている。
では、食でこのEGR1遺伝子を活性することができないか。坪田氏は、目に良いとされる成分207種類のスクリーニング試験をこない、クロセチンにEGR1活性作用があることを突き止めたという。
そこでクロセチンを1日に0.75mg摂取できるサプリメントを開発し、マウスで試験を行ったところ、近視抑制・近視促進抑制効果が見られることが分かった。
現在は、バイオレットライトを発するライトやメガネの開発なども行っており、バイオレットライト、EGR1遺伝子活性といったサイエンスを食やテクノロジーと掛け合わせてビジネス化していうことを行っているという。
体内時計が崩れると太りやすい
また、これまで私たちが太ったり痩せたりするのは食事の内容・摂取カロリー・運動量による部分が多いと考えられてきた。
しかし、近年「サーカディアンリズム(体内時計)」や「時間栄養学」といった概念から「食べる時間」によっても大きく左右されることが解明されつつある。
例えば、マウスの試験でも、サーカディアンリズムが崩れたマウスは、そうでないマウスに比べ太りやすく、同じ内容・同じカロリー・同じ運動量という条件下で飼育しても、サーカディアンリズムが崩れたマウスはそうでないマウスと比べて太っていくことがわかっている。
つまり太る、痩せるはカロリー摂取量・消費量だけにコントロールされるのではなく、サーカディアンリズムによって変化する「代謝量」にコントロールされる部分が大きいことが解明されつつある。
これはヒトでも同様の結果が報告されている。さらにサーカディアンリズムは、代謝量をコントロールするだけでなく、睡眠の質・精神状態・血圧・血糖値などもコントロールしており、さらにがんの発症さえサーカディアンリズムが崩れている人に発症しやすいこともわかってきているという。
体内時計が整うと酸化ストレスも低減
このサーカディアンリズムを定めているものは「ブルーライトを浴びるタイミング」と「食べるタイミング」である、と坪田氏。目に浴びる光と食べる時間が細胞にインフォメーションを与え、サーカディアンリズムを動かしている。
つまり、食事は内容も大切だが、食べるタイミングが崩れていたら、サーカディアンリズムも崩れ、代謝が低下し、肥満のリスクが高くなるだけでなくさまざまな疾病罹患リスクが高くなる。
またサーカディアンリズムが整っていれば、食欲は適正にコントロールされ、酸化ストレスが低減することも解明されているという。