年齢を重ねるほど、運動能力の差は広がる
現代人は、偏った栄養状態と運動不足に陥りやすい。高齢化社会の今、とくに求められるのが運動機能の健全化。
とはいえ、運動も闇雲に動けば良いというわけではない、と渡會氏。とくに高齢者においては、「ロコモ」や「フレイル」といった筋肉の脆弱化が進み、多くの人々が立てない、歩けないといった状態に陥りやすくなる。
そのため、正しい体の使い方を知り、それを生活の中で無理なく実践していくことが、一番の介護予防となる。
加齢につれ、生理機能も運動能力も自然と低下する。しかし、年齢を重ねるほど、運動能力の差が広がることも報告されている。
つまり、日常的に運動やトレーニングをしている人は、80代・90代であろうと、一定の運動能力を維持できるということである。
柔軟性が高い高齢者の方が体力がある
年齢とともに歩行速度が落ちると考えられているが、実は歩行速度の低下は握力の低下と比例している。高齢になっても握力の維持ができている人は年齢を重ねても歩行速度をある程度維持できている人が多い。
つまり、しっかりと自分の足で歩く・立つことができるため、活動力が増したり、筋肉量が維持できたり、あるいは好奇心が衰えなかったりする、と渡會氏。
これまで体力とは関係ないと考えられてきた「柔軟性」も、加齢と関係なく維持できることが報告されており、柔軟性が高い高齢者の方が体力があることも分かってきているという。
また、ロコモは女性に多く、メタボは男性に多いとされるが、どちらも生活習慣病で、合併しているケースも多い。70代以降では心疾患の頻度が男女でほぼ同じになるといわれる。
つまり、男女ともにロコモ・メタボを早期から対策したほうが良いということである。いずれの症状も、基本は「動かない生活」と「誤った体の使い方のクセ(あるいは誤った食習慣のクセ)」が原因で起こる。
すでにロコモや生活習慣病と診断されている人でも、正しい方法を日常に取り組むことで介護予防は十分可能、と渡會氏はいう。
「壁を使ったスクワット」を疲れない程度に
具体的に行って欲しいトレーニングが「正しいスクワット」である、と渡會氏。スクワットは「トレーニングの王様」ともいわれ、アスリートの基本トレーニングでもある。
足腰が弱っていて、立つことが苦手という高齢者は立って行う運動を避けがちだが、転倒のリスクを配慮した上で、できる限り立ってスクワットをした方が良い、と渡會氏はいう。
ただし、疲れない程度に、1日数回のトレーニングをちょこちょこと組み込むのが望ましい。膝痛を訴える人の多くが、膝と足首あるいは、膝と股関節がねじれた状態で歩く、立つ癖が体に染み付いているので、これを改善するようなスクワットを続けると良い。
渡會氏が実際に指導しているやり方が「壁を使ったスクワット」である。壁のコーナーに背を向けて、コーナーから1足分くらいのところに立ち、左右の足がそれぞれの壁につくようにセットした状態から、腰を下ろしてスクワットしていった時に、膝が壁にくっつくようにする。
これで、股関節・膝・足首の正しい位置をキープすることができ、正しい立ち方の習得やねじれの解消に役立つ。
筋力の維持に「片足立ち」がオススメ
また、腰痛の場合、腰椎と胸椎、骨盤のズレが原因であることが多いが、真向法などに長年取り組み、柔軟性が高い高齢者は側湾症などが発症していても痛みを感じない、あるいは日常生活に支障がない場合が多く、最近は整形外科の世界でも「側湾」=「痛みの原因」といえなくなってきている。
つまり背骨や股関節周りをほぐす運動(ヨガの猫のポーズや開脚ポーズなど)を取り入れることで、側湾などが起こっていても腰痛の改善は十分見込める。また筋力の維持として「片足立ち」もオススメのトレーニングである。
片足で30秒ほど立っていると、疲れて、足全体がプルプルしたり、かなりの運動量になる。最初は転倒を防ぐために壁などを触った状態からスタートし、毎日でも片足立ちを取りいれると効果的だ、と渡會氏。
「やればやるほど良くなる」「三食寝る前トイレの度」を合言葉に、毎日小出しにやって欲しいと話した。