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認知症、薬での治療は難しく予防がカギに
〜第24回日本医学会公開フォーラム

2018年7月21日(土)、日本医師会館大講堂にて「第24回日本医学会公開フォーラム」が開催された。今回のテーマは、「認知症」。 フォーラムより、羽生春夫氏(東京医科大学高齢総合医学分野 主任教授)の講演「認知症を予防する」を取り上げる。

高齢者、転倒から「認知症」へ

認知症は、日本だけでなく世界中の先進国の問題であり、治療法確立への期待が高まっている。

そろそろ新薬が登場するだろう、うまくいけば後5年以内に登場するだろうと予測される一方で、薬での治療は難しく、現状では「予防に力を入れるのが一番」という見解が多数を占める。

認知症には幾つか種類があり、最もよく知られるのがアルツハイマー型だが、これは治療が難しい。

高齢になると転倒のリスクが増え、転倒し頭を打つことで「硬膜下血腫」が生じ、これが原因で認知症になってしまう人も多い。

こうした場合、転倒を避けることで認知症が予防できるため、「転倒」への注意が最大の予防となる。

しかし、加齢とともに転倒が増えるのは、骨や筋肉の衰弱(フレイル)が起こるからであり、フレイルを若いうちから予防することが認知症予防になる。

いずれにせよ「認知症は予防でき、万一なっても進行を遅らせる、あるいは抑制できる病気」と、誰もが心得て生活することが一番である、と羽生氏。

55歳くらいから脳内にアミロイドベータが蓄積

例えば、アルツハイマー型に罹患したとする。75歳で発症・診断され治療に入った場合、実は70歳くらいから日常生活に支障をきたさない程度の「物忘れ」「勘違い」「ちょっとした失敗」などが起こっている。

それを「年だから」と片付けるのではなく、その時点でイエローカードが出ている、と自覚し、個人や周囲で取り組める予防に努めるべきである。

もちろん認知症の物忘れとは、「勘違い」レベルではなく「自分のした行動を丸ごと忘れる(記憶から欠落する)」もので、そうしたことが数回でもあったら、日常生活に支障がなくても予防に取り組むべきである。

75歳でのアルツハイマー発症だと、その20年前、つまり55歳くらいから脳内に原因とされるアミロイドベータが蓄積しはじめている。

しかしその段階では気づくことはない。そのため、中年期45歳以上からは「誰もが意識して生活を整える」ことが、最大の認知症予防になる。

中年期からの「認知症予防」のために、まずは自身の健康状態を正確に把握することが大切である。

生活習慣病、認知症のリスクを高める

具体的には現状の生活習慣病の進行度合いを理解しておくことである。というのも、あらゆる生活習慣病が認知症のリスクを高めることがわかっているからだ。

加齢や老化を完全に止めることはできないが、生活習慣病は予防できる。中でも高血圧症と糖尿病を予防することで認知症発症リスクは大きく減少させることができる。

食生活、運動、知的活動、ライフスタイルの見直しにより生活習慣病予防は十分に可能で、40代から50代にかけて真に健康的なライフスタイルを再確立することで、シニア期になってもそれを維持することが可能となる。

逆に60代以降、または病気になったタイミングで何か新しいことに取り組むのは意欲的にも難しくなってしまう。とはいえ、認知症が進行している人でも、生活に介入し生活習慣病の治療をすることでアルツハイマーの進行が抑制するというデータは多数出ている。

治療しない人ほど進行が早いこともわかっているので、どの段階であっても生活習慣病の予防は大事である。

歩行速度、認知症の発症と関連

例えば、糖尿病患者の増加とアルツハイマー患者の増加は比例関係にあることも頭に入れておくべきである。

血液が高血糖にさらされることで脳の神経細胞もダメージを起こすからだ。

実際、認知症が発症していないレベルの人でも血糖値をコントロールしただけで、記憶力や集中力などの改善が見られるので、血糖値のコントロールは必須になる。

他にも認知症のリスクマーカーとなりうるものに「フレイル」がある。フレイルは骨や筋肉の衰弱のことであり、特に下肢のフレイルと認知症の発症の比例関係についてはデータが出てきている。

つまり、歩行速度が遅くなり始めると、その数年後に認知症が発症するケースが極めて多い。

アルツハイマーになるとほとんどの人が握力が低下するが、実はそれ以前に足の筋力が低下し歩行速度が遅くなることがわかっている。

歩行速度のチェックが認知症発症リスクのマーカーになる可能性もあるほどで、一人ひとりが今の歩行足度や脚力を維持するのに努めた方が良い。

「フレイル」という言葉は筋力だけでなく、社会的、知的な意味でも使われる。例えば「社会的フレイル」に陥ると、孤立・孤独・孤食といった問題に直面し、認知症のリスクが高まるし、「知的フレイル」に陥ると意欲の喪失・社会参加意欲の低下などが起こる。

社会的フレイルと知的フレイルを予防するには、高齢になっても仕事を続けることが有効で、実際、高齢になっても仕事をしている人は、していない人に比べ認知症発症のリスクが30%以上も少ないことがわかっている。

筋肉と同様、脳機能も使わなければ低下することを誰もが理解して今の機能を維持するようにすべきである。

また、中年期に肥満だと高齢になってからの認知症リスクが上がるが、老年期になって急激に痩せると認知症のリスクがやはり急激に上がることがわかっている。

質の良い睡眠をとることも大切で、毎日7時間程度毎日取ることができれば、私たちの脳のアミロイドベータの蓄積は抑制できる。

高齢になると睡眠が減るのが当然と考えられているが、1時間でも良質な睡眠が取れるように意識してほしい、と羽生氏はまとめた。

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