動物性脂肪、コカインやヘロインのような依存性
今や肥満対策は先進国共通の課題で、年間で約3400万人の人々が肥満が元で亡くなっているといわれている。ちなみに野生動物に「肥満」は存在しない。ヒトは動物と違い、生殖期を過ぎても延々と生き続けるが、そのために食や生活における「サイエンス」が重要になると益崎氏。
人を他の動物と同様の視点で考察すると、還暦を迎えた時の体重と成人の時の体重差が1%以内であるのが望ましい。人以外のほとんどの動物はそのように最期を迎える。しかし人の場合は、成人後に体重を大きく増加させ、さらに日々の生活習慣の乱れも蓄積していく。
最新の研究で、動物性脂肪に麻薬を凌駕する依存性があることが解明されつつあると益崎氏は指摘する。コカインやヘロインは非常に依存性の高い成分だが、動物性脂肪にも同様かそれ以上の依存性があることが明らかになりつつあるという。
動物性脂肪の摂取、視床下部に炎症やダメージ
例えば、コカインやヘロイン、ニコチンやアルコールを完全に断つと、その後1週間程で依存度は減少していく。しかし、動物性脂肪の場合、2週間経過しても依存度が持続することがわかっている。動物性脂肪の摂取で、視床下部に炎症、白血球が遊走するなど脳内にダメージが起きているという。
多くの人が減量したい、病気の治療のために動物性脂肪や高脂肪食を減らしたいと思う。しかし、実際の行動につながらないのはその依存性の高さに原因があるのではないか、それはマウスでも同様と益崎氏。
実際に、動物性脂肪食を与えて育成したマウスを2週間断食させた後、炭水化物食と動物性脂肪食のどちらの餌を選ぶか調べたところ、マウスは動物性脂肪食を選んだという。
一方、通常食を与えて育成したマウスを2週間断食させたところ、マウスは脳に必要な糖が含まれる炭水化物食の餌を選んだ。こうした試験結果からも、マウスにおいても動物性脂肪に依存性があることが分かるという。
玄米食、嗜好性や食行動を変容させる
こうした動物性脂肪への依存を解消するためにはどうすればいいのか。
そのカギが、古来より天然の完全食と呼ばれている「玄米」にあったと益崎氏はいう。
実際に、琉球大学病院に入院している肥満者に3食のうち1食だけを玄米にするという臨床研究を行った。結果、食後の血糖値・脂肪肝・肥満が改善されただけでなく、ジャンクフードやファストフードへの依存性(食べたいという欲求)が和らぐということがみられた。しかしこの1日1回の玄米食を3食白米にするとその効果は薄れ、特に体重は顕著に増加した。
それにしても、なぜ1日1回の玄米食でジャンクフードやファストフードへの欲求が減少するのか。
玄米食には嗜好性や食行動を変容させる何かがあり、脳のストレスを玄米の成分が軽減しているではないか、と益崎氏。動物性脂肪食や糖分の多い快楽食を過食していると、「脳の報酬回路」に異常をきたすこともわかってきているという。
玄米のγオリザノール、脳内ストレスを低減
通常、食事をすると脳は満足してドーパミンを分泌する。しかし快楽食を続けているとドーパミンのシグナルは低下し、終いには「満足」ということがわからなくなり、つねに不足感やイライラ、ストレス、恐怖が脳内に起こるようになってしまう。
これは動物性脂肪食や快楽食だけでなくアルコールやニコチン、麻薬といった物質が脳内で「依存」を起こすメカニズムとほぼ同じである。依存性の高い物質を摂取すると「報酬のネットワーク」が破綻し、満足できなくなることから、不安やイライラ、ストレスが発生し、さらに強い「欲求=依存」が引き起こされる。
しかし、玄米に含まれる成分のγオリザノールが、報酬ネットワークが破綻しているときに生じる脳内ストレスを低減させることもわかっている。
γオリザノールは、摂取するほどに脳や膵臓など体の中でも油の多いところに優先して蓄積していく。脳に行き渡ったγオリザノールは依存を起こしている脳の小胞体ストレスを抑制させるという。
玄米食が解決の糸口に
また、γオリザノールは糖尿病患者にとってはインスリン産生細胞の死滅を防ぐなど、他に幾つもの有効性が確認されている。
さらに、3食玄米食にしなくても、1食を玄米食に変えるだけでも「満足しない脳」が「足るを知る脳」へ変容し、脳内報酬回路は正常化していく。玄米は特に日本人の体とは非常に相性の良い。また玄米1粒に優れた機能性成分が凝縮している。
現代は快楽食だけでなくインターネット、ギャンブル、ゲームなどほかにも脳の報酬回路を破綻させる要因に溢れている。多くの人々がセルフコントロールが難しい状況にさらされているが、玄米食が解決の糸口になるかもしれない、とした。