HOME > バックナンバー > 15/11月記事

ヒトの脳の発達・進化に関わるDHAの機能
脳のシナプスをDHAが強化

2015年11月7日(土)、海運クラブ(東京都千代田区)で「DHA科学の国際シンポジウム」が開催された。かつて「DHAを食べると頭がよくなる」と自著で明らかにした英国脳栄養学者のマイケル・クロフォード博士が登壇し、最新の研究報告を行った。

うつ病や認知症にDHAが関わる

クロフォード博士が、自著で「日本の子どもの知能が欧米の子どもと比べて高いのは魚を多く食べているから」と指摘したのが1989年。

1990年に博士を日本に招き、東京で初めて「DHAシンポジウム」が開催。その後、各国の疫学的研究で「魚をよく食べる人は健康で長生き」という魚食の健康効果が明らかになり、世界中で寿司ブームが巻き起こった。

ただ残念ながら、日本では食の欧米化により魚離れが進み、2008年以降、国民一人一日あたりの魚の摂取量は肉類を下回り、現在もそうした状況が続いている。

クロフォード博士は「ヒトの脳の発達・進化におけるDHAのかけがいのない機能について」と題して最新研究を報告。

日本で発達障害、うつ病や認知症といった脳の病気が激増しているが、実は、そうした疾患対策にDHAが有益であることが明らかになりつつある。

DHAは脳に必須な栄養素というだけでなく、私たち人類のオリジン(起源)に関わっていると述べた。

クロフォード博士は、1972年にDHAが脳にいかに大事な栄養素であるかを発見し、論文やエビデンスを世に出した。しかし、当時そのことはあまり注目されなかった、と述懐する。

というのも、多くの研究者がヒトに最も大切な栄養素はたんぱく質であるとする、「たんぱく質神話」のようなものが君臨していたためだ。

これに対し、博士は人間の成長と発達の最優先事項は「体」ではなく「頭(=脳)」にある。脳はたんぱく質ではできていない。脳は「脂肪」でできているとした。

植物油などのαリノレン酸がEPAやDHAに変換

「脳の健康をいかに保つか」ということが大切で、脳に重要な必須脂肪酸が多く含まれているのは実は「母乳」である。

西洋とアフリカ、あるいはアジアでは「脂肪」の摂取方法がまったく異なっていることがわかっているとクロフォード博士。

かつて魚を豊富に食べていた頃の日本人には血管系疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)が非常に少なかった。しかしながら、魚離れになってからこれらの疾患が増えているという。

「脂肪」には、体につく皮下脂肪と脳の構造を支える脂肪の2種類あるが、後者は脳の発育だけでなく、生涯にわたり脳のメンテナンスに欠かせない。

人間以外の大型動物は体の中で十分なDHAを作りだすことができないが、人間にはそれが可能だ。植物油などのαリノレン酸を含む食品を摂取することで体内でEPAやDHAに変わる。

人類はこうしたメカニズムを有しているため、他の大型動物と違い「脳が非常に大きい」という特徴がある。

脳のシナプス強化にDHAが関与

ところで、人類史をみると、人は農耕という手段を獲得するまで海洋産物に頼って生きていた。この時に最も重要な必要な栄養素がDHAであった。

人が「学ぶ」という作業は「繰り返す」ということでもあるが、その際、脳のシナプスがリモデリングされる。このリモデリングでDHAが大量に取り込まれ、シナプスはより強化される。脳には大量の電子が流れているが、これもDHAと密接に関係している。

とくに妊娠中の後半1/3の期間に、胎児の脳は大きく成長する。妊娠前から妊娠初期にかけてもDHAの積極的摂取は欠かせないが、後半1/3の期間だけでも意識的にシーフードを摂る必要があるとクロフォード博士はいう。

成人後の糖尿病や認知症、心疾患、血管系疾患、精神疾患、知能障害なども全て、出生前の母体の栄養状態が左右している。西洋化した食事でそれらの疾患が急増しているという。

これからの日本の水産業における役割について、クロフォード博士は、以下のようにまとめた。

脳に必要な脂肪、とくにDHAに代わる栄養素はない。世界の水産業を牽引できるのは日本であろう。地球上には海洋が多く陸が少ない。陸上から無理に食糧を得ようとする必要はなく、海洋にこそ未来があることに今こそ気づくべきである。そしてこのことにおいて日本こそ世界の指導者になれるのではないか。


ヘルスネットメディア

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.