運動不足による「肥満」などが、短命化の要因に
当日、帝京大学臨床研究センター センター長の寺本民生氏が「超高齢化社会を迎えたわが国の生活習慣病を縦断的に捉える」と題して基調講演を行った。
この中で、寺本氏が指摘したのが、沖縄県人の短命化。かつて沖縄県は日本でもトップの長寿県として君臨していたが、平成に入り平均寿命が一気に26位まで下がった。
このことは、「26ショック」「3.30クライシス」と呼ばれた。「26ショック」は、沖縄の男性の平均寿命が一気に26位まで低下したことを指す。これは日本の男性の平均寿命よりもさらに低い。「3.30クライシス」は2013年に沖縄の女性の平均寿命が1位から3位に転落したことを指す。
こうした背景にあるものとして指摘されているのが、食事の変化と運動不足による「肥満化」。沖縄県は車社会で、運動不足から肥満になりやすい。加えて、アメリカなど欧米食の影響からすべての世代に肥満が進行していることなどが原因と考えられている。
ちなみに、2000年頃をみると、沖縄は10万人あたり100歳を超える高齢者が日本でトップで、脳卒中や心臓病、がんも少なかった。
沖縄の高齢者の長寿の秘訣については、1)休養と栄養のバランスがいい、2)温暖な気候で気候の年格差よる身体へのストレスが少ない、3)地域の交流が密接で、社会活動に積極的、という点が挙げられた。
食事については、大豆などの豆類や緑黄食野菜の摂り方が十分で、漬物として摂る習慣があまりないことから、食塩の摂取量も少なかった。
肉類の摂取は多いものの、とくに豚肉を多く用い、頭から足の先まで無駄なく全体を摂り、調理についても時間をかけて脂肪分を抜くという、健康管理のための合理的な料理法を心がけていた。 また、沖縄の老人は村のいろいろな行事への参加率が高く、社会活動にも積極的。
ただ一方で、短命化を招く要因として懸念されていたのが、中年層以下の生活リズムの夜型や脂肪摂取量の増加、歩く機会の減少など。
日本の長寿村として知られる山梨県檜原村はバイパスなど交通手段の整備が進むにつれ、運動量が減少、コンビニなどによる手軽な食生活が普及し、短命化が進んだともいわれている。沖縄県でもそうしたことが懸念されていた。
このことが、2000年代に入り平均寿命の短命化という形で現実となった。
「平均寿命」と「健康寿命」との差、要介護10年のおそれ
アメリカでは死因のトップである心臓病の克服のためにと「肥満」対策にやっきだが、肥満が怖いのは、加齢とともに脳卒中のような血管の病気や骨折などのロコモティブシンドロームのリスクを高めることである。
肥満は「平均寿命」と「健康寿命」との差を広げる最大の要因となる。「健康寿命」とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことでWHOの提唱によるもの。日本人の場合2012年時の調査で、男性が平均寿命と健康寿命の差に9.02年の差が生じており、女性の場合は12.4年の差があることが報告されている。
つまり、「平均寿命」と「健康寿命」の差が開くほど、介護や介助を必要とする。寝たきりの状態で過ごすなど、要介護の状態になる可能性が高い。
要介護となる原因として挙がっているのが、「心・血管疾患」が25.1%、「認知症」が21.7%、「高齢による衰弱」が12.6%、「骨折・転倒・関節疾患」が17.7%、「その他」が23.2%。
つまり「健康寿命を縮める真の敵」は「血管の病気」または「ロコモティブシンドローム」であると寺本氏は指摘する。
そのため、「血管の病気」と「ロコモティブシンドローム」の背後にある「肥満の解消」に努め、それぞれのリスクを低減させる必要がある。
とくに脳卒中、心筋梗塞、狭心症などは、なってしまうと後遺症が残ることもあるため、病気になってからでは手遅れの場合も少なくない。今健康と思われる人が10年後も健康でいるために、やはり早めの「予防医学」が大切と寺本氏はいう。
ヒトの肥満、「胎児期」に起源
ところで、ヒトが肥満になるかどうかについて、これまでは個々の生活習慣や食生活からのみ研究がなされてきたが、近年は肥満になるかどうか、あるいは健康でいられるかどうかは「胎児期」にその起源があると考えられるようになっている。
これをDODH「Development origins of health and disease」といい、生涯の健康は胎児期、小児期、青年期、壮年期それぞれが重要に関わっている。
こうしたことから、今年は「日本人の食事摂取基準」も改訂され、生活習慣病の予防を重視したものになっている。肥満を予防するためにBMIに関する新たな指標も細かく提示されている。また、新基準では高齢者に向けて「フレイル(健康な状態と要介護状態の中間状態)」と「サルコペニア(骨格筋や筋力の低下)」に留意した摂取基準が導入されているという。