米国で新たにがんと診断、男女とも肺・気管支がんが第2位に
日本の国民医療費は39兆円(2013年)を超え、11年連続で過去最高を更新、遠からず、50兆円にも達するとみられている。なかでも、がん対策の医療費抑制が遅々として進まないことが足枷となっている。
その一方で、米国はがん撲滅の地道な運動が奏功し、着実にがんの発症・死亡率が減少へと向っている。米国ではこの20年ほどの間にがん死が22%減少、がん死を逃れた人々は約150万人になる計算だ。
米国で死因のトップは心臓病で、がんは第2位、4人に1人ががんで亡くなっている。
先頃、米国がん協会により2015年のがん発症・死亡数の推計が発表されたが、新たに165万8370人ががんと診断され、58万9430人ががんで死亡すると推定されている。
新たにがんと診断されたものでは、男性のトップが前立腺ガン、次いで肺・気管支がん、大腸・直腸がん。女性では、トップが乳がん、次いで肺・気管支がん、大腸・直腸がん。
また、がん死については、男性ではトップが肺・気管支がん、次いで前立腺がん、大腸・直腸がんと続く。女性では、トップが肺・気管支がん、次いで乳がん、大腸・直腸となっている。
1990年以降、食事改善が奏功しがん人口が減少
米国におけるがん発症の減少の背景には、米国のガン撲滅への地道な取組みがある。米国におけるがん撲滅の歴史は、故ニクソン米元大統領が「がん」との闘いを明言したことから始まる。
1971年、同大統領は「7年後にがんの撲滅」を宣言。これにより、米厚生省は10年ごとに、各種疾患やがん予防のための具体的な目標を設けたレポート「ヘルシー・ピープル」を作成し、禁煙や運動の必要性、食生活の改善を中心とした対策を国民に呼びかけた。
1975年には、米国議会上院に、かつて大統領候補にもなったジョージ・マクガバン議員を委員長に「栄養問題特別委員会」を組織。「食と健康」に関する世界的規模の徹底調査にとりかかり、2年後、膨大な報告書をまとめあげた。
食生活の改善では、1980年以降、厚生省(HHS)は農務省(USDA)で「The Dietary Guidelines For Americans」を発行。5年ごとに内容を改定し、理想的な食生活ガイドラインを提示した。こうした取り組みで、1973年以降毎年平均1.2%の割合でがんは増え続けていたが、1990年を境にがんは減少へと転じていった。
野菜・果物の摂取量を増やす運動を産官学連携で展開
90年代に入って、米国でがん死が減少傾向へと向かった原因については、やはり食事改善が大きい。
1990年には、国立ガン研究所が「デザイナーフーズプロジェクト」を立ち上げ、野菜の摂取を呼びかけた。中でも、「5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)」はよく知られる。これは健康維持のために野菜・果物の摂取を増やし、低脂肪・高食物繊維食を食習慣に定着させることを目標とし、具体的には野菜や果物を1日に5皿分以上摂るというもの。
これを、米国立ガン研究所が中心となり、健康・医療の公共機関や民間の食品の製造業者らが協力し、子供達に、スーパーマーケットでの買い物体験や野菜の栽培収穫体験ツアーを実施するなどの広報活動を行った。
その後、マスメディアによる宣伝効果もあり、1994年は1人1日当たりの野菜・果物の摂取量は3.8皿であったが、1999年には4.4皿へと確実に野菜の摂取量が増えていった。
また、脂肪の過剰摂取を控え、穀物や食物繊維の多いシリアル(フレーク)食品を多く摂ることが推奨され、アメリカ人の朝食の半分以上がそうした食品で占められるようになっていった。
そうした米国のがん撲滅の一大運動は着実に成果を挙げ、野菜の消費量では日米で逆転し、日米の若年層のコレステロール値の逆転現象までも起きるようになった。
喫煙や受動喫煙で増加中のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)
ところで、米国では男女ともにがん死因のトップとなっている肺・気管支がんだが、日本でもがん死因で肺がんは男性の第1位、女性は第2位。
今後も、こうした肺・気管支疾患の増加が予想されているが、とくに近年、懸念されているのが、長年の喫煙や受動喫煙が要因とされるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。COPDは肺胞に小さな穴が開き、風邪でもないのに咳やたんが続くといったもので、初期症状が分かりにくいことから、気が付いたら重症化していたというケースもある。
COPDは日本では死因の第9位、男性では7位で、世界的に増加傾向にあり、WHOでも近い将来COPDは世界の死因の3位になる、と推測している。
近年、COPDのリスクファクターとしてPM2.5が懸念されているが、とりわけ問題なのは喫煙や受動喫煙(間接喫煙)。非喫煙者は喫煙者と長時間一緒にいたりして、タバコの煙が避けられない場合はリスクが伴う。
こうした受動喫煙については、肺・気管支がん以外にもさまざまな疾患リスクにさらされる。ニュージーランドの研究グループが、521人の脳溢血の経験者と1,851人の健常者を年齢、性別に分類し、直接および間接の喫煙が脳溢血のリスクに及ぼす影響について比較した調査報告がある。
一般に脳溢血患者の半数が75歳以上であるため、脳溢血になりやすい年齢は避け、74歳以下で、過去10年間に1年以上喫煙者と暮らしたり仕事をしたことのある人を対象とした。
その結果、喫煙者は非喫煙者(タバコを吸わない間接喫煙者を含む)と比べ、脳溢血のリスクが4倍高いことが判った。さらに、喫煙者は全く煙と無縁の完全非喫煙者(間接喫煙者を除く)と比べると、脳溢血のリスクが6倍高くなることが判ったという。