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穀物の食物繊維で、糖尿病など生活習慣病を防ぐ
炭水化物抜きの食事にはリスクが潜む

2014年11月30日(日)、大妻女子大学講堂で、日本食物繊維学会第19回学術集会連動市民公開講座「美と健康を支える食物繊維の生かし方」が開催された。この中で、とくに穀物の食物繊維の有用性が説かれた。

穀物の食物繊維、「穀物繊維」が現代人に不足

近年、日本では炭水化物抜きダイエットなどの流行で、米離れが進んでいる。しかし、後述するが、こうした炭水化物抜きの食事にはリスクが潜むことを指摘する専門家も多い。

市民講座では、大妻女子大学 家政学部教授の青江誠一郎氏が「食物繊維の働きと重要性について」と題して講演し、とくに穀物に含まれる食物繊維の有用性を説いた。

現代人はとかく食物繊維が不足しがちだが、青江氏は、野菜の食物繊維よりもむしろ穀物の食物繊維である、「穀物繊維」を積極的に摂るべきと指摘する。

日本では米の摂取量が年々減少傾向にある。そうしたことから「穀物繊維」の不足が起きている。ちなみに、日本人の成人の1日に摂る食物繊維の量は、1995年には20gを超えていた。それが今では14g程度にまで減っている。とくに穀物からの食物繊維の摂取不足が顕著だ。

こうした、「穀物繊維」の不足から、とくに発症しやすいのが生活習慣病の糖尿病である。「穀物繊維」は血糖の上昇を緩やかにし、低血糖症対策にもなる。

この「穀物繊維」の補給には、大麦(押し麦)や全粒粉が良いと青江氏は薦める。大麦(押し麦)は水溶性と不溶性の食物繊維のバランスが良く、100g中に水溶性食物繊維が6g、不溶性食物繊維が3.6g含まれている。

2005年以降、穀物への関心を高めるアメリカ

今や日本人以上に穀物の健康効果をよく認識しているのはアメリカ人といえるかも知れない。2005年、アメリカで「アメリカ人のための栄養ガイドライン」が米国保健社会福祉局より発表された。

この栄養ガイドラインはアメリカ人のための健康的な食事の指針を示したもので、1980年に発表され、以後、あらたな研究データや現状を踏まえて5年ごとに改訂されている。

この栄養ガイドラインの2005年版で初めて全穀物の摂取が奨励。全穀物を1日当たり3オンス(85g)以上摂り、穀類の総摂取量のうち、少なくとも半分は全穀物で摂ることが推奨された。

アメリカでこうした全穀物の摂食を推奨するようになったのは、肥満でもたらされる心臓病や動脈硬化症などのメタボリックシンドロームの対策に全穀物の食物繊維が有用であることを認識していたためだ。

その後、アメリカでは栄養ガイドラインなどによる地道な啓蒙が奏功し、穀物への関心が徐々に高まり、「寿司ブーム」を経て今や「全穀物ブーム」といっていいほどの状況に至っている。

Global Industry Analysts(GIA)の市場調査では、今やアメリカの占める全穀物の世界市場規模は圧倒的な規模になっているという。

アメリカでも炭水化物抜きの食事法が10数年前に大流行

日本ではこうした近年のアメリカ人の穀物をベースにした「和食への傾倒」を知らず、炭水化物の糖化がもたらす弊害が流布され、炭水化物抜きの食事が流行っている。

しかし、実はアメリカでは、こうした炭水化物抜きダイエット(ダイエットは食事の意)はアトキンス式ダイエットと呼ばれて10数年前に流行り、その有害性が指摘されていた。

炭水化物抜きのアトキンス式ダイエットは、2002年、アメリカでダイエット法の教祖的存在であるロバート・アトキンス博士が著書『Dr. Atkins' New Diet Revolution』で紹介し、2004年頃までアメリカで大人気となった。

アトキンス式ダイエットの特徴は、炭水化物の摂取を控え、たんぱく質を多く摂るというもの。炭水化物は血糖に変わるが、血糖値が急激に高まると大量のインスリンが分泌され、糖質は脂肪細胞に蓄積されやすくなる。

そのため、炭水化物を控え、代わりに体脂肪を燃やし筋肉の増強にも役立つたんぱく質をたくさん摂るべきである、と博士は主張した。

このアトキンス式ダイエットは、別名ローカーブ(低炭水化物:Low-Carb)ダイエットとも呼ばれ、 当時、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンなどでも、副作用のないダイエット法として紹介された。

全穀物の健康効果を認識するアメリカ

しかし、このアトキンス式ダイエットは、短期間の効果を裏付ける研究報告はあるものの、長期的な効果についての検証はほぼ皆無であった。

専門家らは「長年にわたって脂肪分の高い肉やベーコンを食べ続ければ、当然、心臓疾患、糖尿病、脳卒中、ある種の癌に罹るリスクが高くなる」とアトキンス式ダイエットのリスクを指摘した。

また、腎臓にかかる負担も懸念された。アトキンス式ダイエットでは、炭水化物を排出しようと利尿効果が高まり、体内から水分が放出される。そのため短期間で体重は急激に落ちるものの、その際、十分な水分の補給が必要となる。

この全米に大旋風を巻き起こした、アトキンス式の低炭水化物ダイエットはその弊害が明白になるにつれ、2004年頃から下火になり、代わって2005年以降は、栄養ガイドラインの影響もあり、炭水化物を全穀物で摂ることがもてはやされるようになった。ここで「穀物繊維」がとって代わったというわけだ。

とはいえ、全穀物のブレットは、値段が高い、硬い、口当たりが悪い、など最初はアメリカ人に敬遠されていた。2001年に実施された消費者調査では、成人の20%、未成年の40%が全穀物ブレッドを食べたことがないと回答するなど、多くのアメリカ人が口当たりの良い、白いパンを好んで食べていた。

それが、今やアメリカが全穀物の世界市場規模で圧倒的な規模を占めるまでに至っているという状況だ。日本でも玄米や雑穀の健康効果が見直されつつあるが、あらためて穀物や穀物の食物繊維の有用性を認識する必要があるのかも知れない。


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