太っていても「多動」な人は、元気で長生き
日本で糖尿病患者が増加している。しかし、これまで肥満対策の食事ばかりに目が向けられ、運動療法の重要性についてはあまり説かれてこなかった、と田村氏は指摘する。
田村氏は糖尿病患者の診察とともに、スポートロジーの観点から糖尿病治療に取り組んでいる。スポートロジーとはスポーツを医学や健康に応用しようという新しい学問分野である。
例えば、20歳の頃より体重が5キロ増えると糖尿病の発症リスクが2.5倍になる。しかし、近年、太っていても運動している人、あるいは「多動」な人は元気で長生きであることが疫学的に明らかになっているという。
アメリカの調査で、14,000人の健常者を対象に、運動量から体力を数値化し、6年後に同じ14,000人を調べたところ、体重の変化が全くなくても体力が低下している人は死亡率が高く、体重が増加しても運動量が高い人は死亡率が高くならないことが分かった。
また、糖尿病患者の1/3が最終的にがんで亡くなっている。つまり、運動による糖尿病改善はガンのリスクを下げることにも繋がるという。
糖尿病、実は「脂肪筋」が直接的な原因
日本人には痩せ型の糖尿病患者が多い。つまり、痩せていても日頃の運動量が少なければ問題ありと見なす必要がある。さらに、痩せか肥満かだけでなく、見た目で病気や疾病リスクを診断するには、「脂肪筋(筋肉内に溜まる脂肪)」を診るといいと田村氏。
これまで糖尿病において、インスリン抵抗性の原因は肥満であると考えられていた。しかし、実は脂肪筋や異所性脂肪・脂肪肝のほうが直接的な原因であることが近年解明されつつあるという。
筋肉細胞の中にどれほど脂肪が溜まっているかを検査する技術も開発されている。これで「痩せ型の糖尿病の人」と「同じ痩せ型の体型で糖尿病でない人」を比較すると、脂肪筋の量が痩せ型の糖尿病の人のほうが平均して2倍以上高いことが明らかになっている。
つまり見た目で太っているかより、痩せていても筋肉にどれだけ脂肪が蓄積されているかが問題というわけである。しかも日本人は脂肪筋になりやすい民族であることも分かっているという。
「脂肪筋」を溜めないためにも運動が必要
では、脂肪筋を溜めにくくするにはどうしたらよいか?ここで運動の重要性が出てくると田村氏。脂肪筋になりやすい人は日常生活での活動量が少ない。
例えば、糖尿病患者の治療で、食事指導だけを実践した場合、体重は下がる。しかしそれに運動療法を加えた場合は、体重の低下に加え肝臓や筋肉の脂肪量が減るため治療効果がより高くなる。これによりインスリンの抵抗性も改善されやすくなるという。
いずれにせよ、糖尿病の原因は「糖質」よりも「脂肪」の可能性があると田村氏。糖質の多い食事も問題だが、高脂肪食の過剰な摂取も筋肉に脂肪を蓄積させる原因となる。
ある実験で、太らないように糖質(炭水化物)とカロリーを制限した高脂肪食(例えばごはんの極端に少ない焼き肉定食)を3日間食べてもらったところ、最高で40%脂肪筋が増えたケースもあった。脂肪筋が増えた人のほうがインスリンの抵抗性が弱くなり、糖尿病のリスクも高くなった。
もちろん、高脂肪食を3日連続摂取しても脂肪筋が増えない人もいたが、この違いは何か?
遺伝子の違い、細胞内のミトコンドリアの量などあらゆる方向から検討した結果、最終的に明らかとなったのは日常生活の活動量の違いでしかなかったと田村氏はいう。
1日の歩数が2,000歩以下の人は「脂肪筋」になりやすい
普段からたくさん歩いたり動いたりしている人は、高脂肪食を摂取しても脂肪筋になりにくい傾向がある。具体的な数値でいうと1日の歩数が2,000歩以下の人は脂肪筋になりやすく、脂肪筋にならない人は1日1万歩を超えている人だという。
例えば、毎日20分の運動を現在の生活にプラスする。歩数にすると2,000歩程度増やすことにより、10年後の死亡率は25%、虚血性心疾患のリスクは16%、脳出血のリスクは21%低下する。
つまり、薬を1錠増やすことより、毎日2,000歩をプラスすることのほうが大きな健康効果が得られるということだ。