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人は放射線なしには生きられない〜第9回放射線防護研究会シンポジウム 2013年11月24日(日)、日本青年館で、「人は放射線なしには生きられない」をテーマに、第9回放射線防護医療研究会が開催された。放射線防護研究の第一人者である高田純教授(札幌医科大学大学院医学研究科)や放射線ホルミシス研究の権威である服部禎男氏(元電力中央研究所理事)らが講演し、福島県民の放射線被曝のモニタリングや放射線医学の最先端の情報を提示した。
福島県民の被曝、宇宙飛行士より圧倒的に少ない値 「放射線ゼロがいい」は、現代物理学を知らない人の言葉。放射線がゼロならそもそも宇宙も生命も存在しない。高田氏は、そう述べ、放射線被曝による身体的影響の事例をあげた。 例えば、上空ほど電離放射線による被曝は強くなる。宇宙飛行士は1日あたり1mSv(ミリシーベルト)を浴びるが、とくに健康に悪影響はない。 2011年の福島第一原発事故での福島県民のヨウ素131による甲状腺被曝線量は最大で35mSv、外部被曝線量は10mSv以下、セシウムによる内部被曝は99.98%が1mSv未満で、宇宙飛行士よりも圧倒的に少ない値と高田氏は指摘。他にも、被曝線量による身体影響については、以下の通り。
ラジウム温泉などと類似した範囲
また、今回のシンポジウムでは「人は放射線なしには生きられない」をテーマとしたが、ラジウム温泉などのラドン被曝(アルファ線)の健康効果を考えると、むしろ微量の放射線はヒトの身体に有益で、「人の健康維持に適量の線量率は0.001〜100mSv/日と考えられる」と高田氏。広島・長崎の生存者の疫学研究から判断して、上限で100mSv/日と考えるのが合理的とした。 生涯線量でも年間線量でもない。1日の適応線量(線量率)が、100mSvということである。例えば、紫外線により一重項酸素という活性酸素が発生する。そうした強い日差しの下での人の1日のDNA損傷は100mSvにも匹敵すると高田氏は推測する。 これについては科学的な検証の裏付けもある。2009年発行の権威ある放射線医学誌『Radiology』で、モーリス・チュビアーナ博士(フランス医科学アカデミー代表)、ルードビッヒ・ファイネンデーゲン博士ら4名の放射線医学の世界の最高峰の学者らの論文が掲載、「毎日、活性酸素により200ミリシーベルトと同様のDNAの二重鎖切断が発生する」とされている。 この活性酸素により毎日細胞あたりで発生するDNAの二重連鎖切断は8個。これは放射線による損傷に置き換えると1日あたり200ミリシーベルト、1時間あたり8.4ミリシーベルトの線量率に類似するという。この日々200mSv相当の活性酸素によるDNA損傷については、大人も子供も「最低でも」ということである。
ヘルスネットメディア関連記事 高田氏は、生命維持のために毎日適量のエネルギー(=放射線)が必要で、過剰なものに対しては、人はDNAの修復や細胞再生、がん化した異常細胞への攻撃・防衛機能(=免疫力)を有しているとし、次のようにまとめた。 「福島原発事故による福島県民の線量率は、全身で0.014mSv/日以下、甲状腺線量で3mGy/日(総線量35mGy)。この低線量率は、健康維持に適量の範囲で、むしろ放射線ホルミシスで検証されているラジウムなど放射性温泉に類似した範囲にある」。 300mSv/h(ミリシーベルト/時)あたりで、DNA修復能が最高の働き 服部氏は、フィラデルフィアFox Chaseガンセンターのアルフレッド・クヌードソン博士らによる、2006年米国科学アカデミー報告の内容について述べた。 この報告の要点は、「放射線を浴びた際、DNA異常発生率が、1mSv/h〜600mSv/h(1ミリシーベルト/時〜600ミリシーベルト/時)の範囲で最低になる」というもの。この領域は、MinimalMutabillty Dose Rate(MMDR)と命名された。 MMDRの中間値の300mSv/h(300ミリシーベルト/時)は、人が日々受ける自然放射線0.1マイクロシーベルト/時の300万倍に相当するが、このあたりで、DNAの異常発生率が最低になるという。
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300mSv/hというと、300,000μSv/h(30万マイクロシーベルト/時)である。福島原発事故当時、ガイガーカウンターを携え、10マイクロシーベルト/時でホットスポットと大騒ぎしていた、3万倍の線量である。この線量領域で、ヒトのDNA異常発生率が最低になる、DNA損傷の修復が最も活発に働くという。 なぜ、この途方もない線量領域で、人のDNAの二重鎖切断修復および異常細胞削除が最も優れているのか。これについて、服部氏は、「考えられることは、ヒトは太古に、高線量の中で生存し、そのレベル(300mSv/h)の修復に手馴れていたということであろう」と推測する。 そしてそのヒントは、どうやら我々が日々摂っている野菜や果物、そこに含まれるカリウムにあるという。 放射性カリウム40を除去、細胞の活動が停止 果物や野菜、昆布などに多く含まれるカリウムは体内でカリウム40(半減期12.5億年)という放射性物質としてとどまる。カリウム40は、体重1kgあたり67ベクレル、成人ではおよそ4000ベクレルの内部被曝をもたらす。 このカリウムについて、服部氏は次のようにいう。「細胞膜には孔が開いていて、ミトコンドリアで作られるエネルギーによるナトリウムカリウムポンプという活動で、ナトリウムは細胞の外へ、カリウムは細胞の中へと取り込まれ、カリウムの98%は細胞内に保有される。この常に細胞内へと取り込まれるカリウム、そこから発せられるカリウム40の放射線、これに何か大きな意味があるのではないか」。 カリウム40はベータ、ガンマ、デルタ線を放射するが、実は、このカリウム40こそが生命の源ではないか、その仮説を裏付ける実験が50年以上も前に行われているという。「米国オークリッジ原子力研究所で、特殊な技術でカリウム40を除いた、放射線を出さないカリウムを作り、鉛の箱で宇宙線も遮断した状態で細胞を培養をした」(服部氏)。
その結果、どうなったか----。 カリウム40のベータ線、細胞内のDNAを刺激
では、細胞内におけるカリウム40の役割とは----。 ところで、野菜や果物などから摂取したカリウムは、とくに脳神経細胞に取り込まれ、カリウム40のベータ線は細胞内のDNAを刺激する。カリウム40は4000ベクレル、1秒間に4000本のベータ線を発する。「このベータ線1本は、平均250個の細胞を貫通し、エネルギーを使い果たして止まる。毎秒4,000のベータ線が1本あたり250個の細胞を貫くと、4000秒×250個で、毎秒100万個の細胞を訪れることになる。カリウム40のべ−タ線は、発生時は130万電子ボルトのエネルギーでカリウム40核から跳び出すが、他の原子にぶつかり、直ぐにエネルギーを失う」と服部氏。細胞がベータ線から受ける線量は、1ミリシーベルト相当になるという。 カリウム40のべ−タ線被曝、クヌードソン博士のMMDRと一致 この1ミリシーベルトを250個の細胞の最初の10個ほどが受け、その後はエネルギーを急激に落としていく。そのため、残り約80%の200個の細胞は1個あたり0.1ミリシーベルトの被曝と考えられる。この0.1ミリシーベルトの共鳴信号は全ての脳神経細胞に伝わり、2分で全身に回る。 1秒間に0.1ミリシーベルトだと、1時間で300ミリシーベルトほど。つまり、カリウム40による細胞内のベータ線の線量率は、1時間あたり300ミリシーベルトほどになるということだ。 このことは、自然放射線の300万倍(300mSv/h)あたりが、DNAの二重鎖切断修復および異常細胞削除に最も慣れた領域である、というクヌードソン博士のMMDRシグナル・レゾナンス(信号応答共鳴)とも一致すると服部氏。 ちなみに、セシウム137は、カリウム40のベータ線のエネルギーの半分以下、またカリウム40のガンマ線のエネルギーの半分以下であるという。 服部氏は、まとめとして「ICRPの解体を含み、関連組織を作り直して全世界の放射線パラダイムシフトを実現し、低レベル放射線を危険視するのではなく、治療など積極的に活用をしなければならない」とした。
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全国の放射能濃度一覧 > 福島20km圏内の復興 高田純放射線影響学会報告2012 二股ラジウム温泉、アルファ線は、三朝温泉の5倍 『Radiology(放射線医学)April 2009』 活性酸素により日々200mSv相当のDNA損傷 > 米国科学アカデミー報告 > |
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